19部
『戦争を経験した高齢者やその子供世代からの根強い反発がある一方、現実的に存在する他国の武力に物を言わせた圧力をかけられている現状を重く見ている壮年・青年世代からは賛同の声も上がっており、国民の意見も分かれる事態となっています。
また、政府は政務天皇の挨拶後、アメリカに対して日本国内の米軍基地の土地を返還するように求めたとのことです。
米軍の駐留費問題や沖縄の基地移設問題等多くの課題を残してきた米軍基地に関する問題を一斉に解決するためと思われています。
また、日本が軍事力を保持する事ができるのであれば『アメリカの傘』は必要なくなるという事で同盟国の関係は維持されたまま安全保障条約の見直しを進めていく考えを示しました。
それに対して、アメリカ側も猶予期間を申し入れたうえで返還する意思を表明しました。
アメリカ側としては先の『平成攘夷軍』による攻撃により基地に修復不可能な損害も出ており、それらを修理するよりも日本から撤退する方が合理的であるとの見方を示しており、猶予期間に関しても1年から2年以内には完全に返還する意思があるという事です。』
テレビの放送を見ながら山本はコーヒーを飲んでいた。
竹中が近づいてきて、
「平和主義は戦争をさせられてた人を中心に大切にされてきた思想や。
教科書や映画・ドラマ・マンガなんかで悲惨やったとか、二度と繰り返してはいけないと教えられてきた世代には生ぬるいと感じる奴もおるんやろうな。
消極的な軍事力の行使なんてゆうてるけど、それもどこまでが消極的で、どこからが積極的なんかわからへんような抽象的な言葉をうのみしたらアカンやろうしな。」
「平和主義の考え方は残したままで、必要な時にだけ軍事力を背景とした交渉を行う、そのために軍事力の保持の正当性を主張しているんですよね。
アメリカの引き際がいいのも気になりますね。
こんなにあっさりと引き下がるからには相応の好条件かあるいは見返りがあったという事なんでしょうね。」
『それはやっぱりあれなんちゃうか。
自国第一主義を主張して、色々としてきた今になっては日本が軍事的に自立してくれるならそれに越した事はないし、次の選挙でも米兵の人気が取れれば大きな票田になるやろうしな。」
「竹中さんなら、次は何を変えますか?
正直、来るならこれは最後じゃないかと思ってたんですよ。」
「またいきなりそんなこと聞くやろ。
政府が決めた政治のあれこれなんかいくら間違っとても一国民の俺らには何も言えへん。それに政策を決定して、それを実行する事が普通のことであって犯罪でもないなら警察は何にもできへんしな。
そうやな、俺やったらこのもやもやを解消したいから『政治犯罪』っていう分野作って、アホな政策できひん様にしようかな。」
「その『アホな政策』は誰がどのように決めるのかって問題が残りますね。」
「そんなもん政治学者とか憲法学者とかの学者が考えたらええやないか。
ってか、そういうお前やったら次何するねん?」
「そういえば、大久保が会見した時に教育改革がどうのって言ってましたよね?次はそれなんじゃないですか?」
「ああ、そう言えばそんなこと言っとったな。
そういえば、大阪の同僚が小学校から来たアンケートに困ってるって言っとたな。」
「どんなアンケート何ですか?」
「え~とな、なんか『子供の夢は何ですか、思いつくものを全て答えてください。』から始まって、次に『保護者が将来、お子様についてもらいたい職業は何ですか、具体的にお答え頂けるならお答え頂き、無理な場合は業種や第何次産業かをお答えください。
お子様同様、一つにまとめて頂かなくても結構ですので、できるだけたくさんお答えください。』やったかな。」
「子供の夢を聞かれても困りますよね。
しかも親が子供について欲しい仕事なんてそう簡単には決まりませんよね。」
「そうやねん、そこの家の子はまだ一年生やから何とか戦隊とかああいう特撮のヒーローをゆうたりするから困っとったで。
奥さんは奥さんでうちの子はかわいいからアイドルにしようとか訳わからんこと言いだすし、安定を求めるなら公務員やろうなとか考えだしたら、自分が警官やから警察官になって欲しいなとかも思ったりするらしいで。」
「それは小学校が実施したアンケートだったんですか?」
「いや、文部科学省が学校に依頼して来たやつらしいで。」
「教育改革であってそうですね。
そう言えば、あの政務天皇の声なんですけど、竹中さん聞いたことないですか?」
「何や急に?
知ってる声やったんか?」
「いえ、初めて聞いたような気がしないというか、どこか懐かしいような気がしただけです。あまり気にしないでください。」
「なんや歯切れが悪いな。
まあ、気にするなってゆうなら、俺もそこまで気にせえへんけどな。
さてと、仕事や仕事。
山本もテレビばっか見てんと上田とかの仕事手伝ったれよ。」
竹中はそう言って、手をヒラヒラさせながら出て行った。
山本は竹中には気にしないで欲しいと言ったが、どうにも引っかかって仕方がなかった。
「もしもし、竹中です。
山本が天皇の挨拶の声に聞き覚えがあるって言ってました。
・・・・はい、こちらでも調べてみます。」
竹中は電話を切り、ため息をついて
「ほんまに難儀な仕事やで。」
そう言って歩き出した。




