17部
「顔写真もしっかり撮られてるし、言い逃れはできないよ。
周囲の人達からの聞き取りで常習的に暴走行為に参加してたこともわかってるんだ。
バイクをどこで買ったのか、改造もしてあったよね?
どこで改造したのかを教えてくれるかな?」
今川が20歳くらいの男に聞いた。大量に暴走行為を行っていた人達が逮捕されたことにより、人手が足らなかったために事情聴取の手伝いを行っていた。
既にその人の事情については調べが終わっていて、後は本人が認めれば終わるといった作業であったために緊迫感のある取り調べというわけでもなかった。
逮捕された男性も既にその事がわかっているので対して反抗的な態度をとることもない。
マジックミラー越しに取り調べの様子を見ていた山本の横に上田が立ち、
「この作業って、反省を促すためのパフォーマンスなんですよね?」
「勾留期間内に全員の話を聞かないといけないのは本当だろ。
考えてもみろよ。つい最近、捕まった奴の住所周辺の人から聞き込みが終わってたり、どこでバイクを買って、どういう改造がされてたのかまで調べ終わってるなんて事が現実にあると思うか?」
「確かにそうですよね。
あれっ?じゃあ、いつ調べたんですか?」
「あの法律が施行される前から暴走族の奴らの情報を溜め込んどいたんだろ。
暴走族がうるさいからなんとかしろ、なんて通報はよくあることだから、その時に暴走行為をしてる奴らを把握しといて法律が決まったら、その情報で一斉に逮捕だ。」
「それって、違法捜査にならないんですか?」
「だから、こうやって『取り調べ』をしてるんだろ。」
「ああ、そういう事ですか。」
「あんだけ派手に取り締まりをして逮捕者が全国で2千人近くなってる。そんな派手な改革の次が税制改革ってどう思う?」
「被扶養者の所得税を徴収しないってやつですよね。
でも、国の歳入としては所得税が15%くらいを占めてる訳ですからそこの徴収しないってなると厳しくならないですか?」
「そこを罰金とか国益労働とかの収入でカバーしようってつもりなんじゃないか。
国民を厳しく取り締まる改革をしたと思ったら、お優しい改革をしだしたな。
何の狙いだと思う?」
「単純に必要だと思ったから改革をしたと思ってないって事ですね。
じゃあ、全ての国民のためになる改革をしている。
犯罪者には厳しく、法律を守って生活する人を最大限に尊重する社会を目指してますみたいなアピールのためってどうですか?」
「それもあるだろうな、俺が怖いのは『アメとムチ』なんじゃないかってことだ。
ムチを打つような厳しい改革をして、国民が喜ぶような改革をする。じゃあ、かなりヤバイ改革をしても次に国民の利益になるような改革をすれば国民は政府のやる事に文句を言わなくなる。
今はまだ一部の国民に不利益な内容だが、拍車がかかれば国民全体に不利益な内容に変わるかもしれない。
例えば、非核三原則だ。
核兵器を作り続けてる国がまだ世界にはたくさんある。弱い国が交渉の道具として作っている場合もあるし、大国が自分達の力を誇示するために作ってる場合もある。
公表していないだけで水面下で研究を続けてる所だってあるだろう。
核兵器の恐ろしさを映像や情報でしか知らない国は本当の恐ろしさを知らない。
かの天才物理学者アインシュタインも原子力爆弾の威力は港を壊滅させる能力があると大統領に報告したが、日本に投下後の惨状を目のあたりにして、自分の予想を大きく超える被害に絶句したなんて話もある。
他の国がそんな危ない物を持ってるなら日本も持っておかないと国民を守れないなんて言い出さないとも限らない。
使わないなら、持っておくだけなら良いかと受け入れられたら、使うかあるいは他の国が使ってくるかもしれない。
どんな馬鹿げた改革も受け入れる国民にならないとは限らないって一例だが、今の政権にはそれくらいの勢いはあるよな。」
「警部なら、そこまでやりますか?」
上田が心配そうに見てくるので肩をすくめて、
「一例だっていってるだろ。
政府もやらないだろうし、ましてや国を動かすこともない俺がやるわけないだろうが。」
「まぁ、そうですけど……………」
上田が言うとマジックミラーの向こう側の今川が立ち上がり、ドアをノックした。
どうやら『取り調べ』は終わったようだ。
「俺らも戻るぞ。」
山本はそう言って歩き出した。




