14部
「現行犯逮捕みたいなもんだから、裁判にかける必要もない。
検察官が勾留を裁判官に申請した日から10日間、その後、延長が必要になった場合はさらに申請をして10日間の合計20日間まで勾留は認められている。
20日経過したら処分保留のまま釈放するか起訴・不起訴にしなければいけない。
今回の改革の中で出てきた勾留期間はおそらく最初の10日間のみだろうな。
その10日間に200万円以上の罰金が払えなければ国益労働とやらに駆り出されるわけだ。」
山本は新聞を片手にテレビのニュースも見ながら言った。
それを見た上田が
「いや、どれか一つにしましょうよ。
よく、そんなにたくさんのことが一度にできますね。」
「この国益労働についてはどんなことをするんですかね?」
上田の発言を無視して大谷が聞いた。山本は新聞の記事を指さしながら大谷に渡した。
「え~と、本紙記者が総務省に国益労働とはいかなることを行うのかと問い合わせたところ、問い合わせ直後に担当者を名乗る職員から返事が来た。
職員の話では、国益労働とはその時々において国が必要とする労働内容を行ってもらうものであり、的確にこれと返答することはできない。
凶悪犯罪者に関しては国益労働を行わせないが、国益労働者には国民が必要とする人手となってもらう予定である。
例で挙げるなら、日本は島国であることや地震・台風等の自然災害において多大な被害が発生する。
そのための被害修復への人員として働いてもらうことも国益労働と言える。
このような返答を受け、ボランティアだけでは災害被害者が元通りの生活を取り戻すことに苦労する現状を考えると、今回のような暴走行為によって人に迷惑をかけた人達が人のために働くことにより改善更生の道を歩むきっかけになるのではないかと感じた。」
大谷が記事を音読し、上田が
「国がお金を払って犯罪者を雇うっていう状況で、災害復興みたいな屋外作業に出したら、逃げちゃうんじゃないですか?」
「GPS付きの金属のブレスレットを付けるらしい。
逃走すれば直ぐに捕まるし、簡単には壊れないブレスレットだからとれもしないからどこに行っても無駄。
国益労働中はPFI刑務所での寝泊まりが強制されるし、外部との連絡とかも許可がなければできないが娯楽製品の差入等は許可されている。
国益労働時間外は基本的に自由行動ができるらしい。
外出ができないだけで住み込みで働くのとなんら変わらない状況下での生活らしいな。
しかも、まじめに作業を行っていれば月25万円の給料で月に20万円の罰金の支払いを行い、早い人は10ヵ月で釈放される。
住居費や食費・光熱費を払う必要はないから月に5万は好きに使えるらしいな。さぼったり、問題を起こすと給料が減らされるし、場合によってはさらに罰金が追加されることもある。
まじめにやってれば、好きに使える5万の中から罰金を多く払うこともできるらしいが外部から金を差し入れたりすることは禁止。
自分で一生懸命働いて稼いだお金から支払う事に意義があるらしいな。」
「何でそんなに詳しいんですか?」
上田が聞くと、山本は机の上のパソコンを指さして
「総務省のHPに『国益労働中の生活について』って文書が載ってるよ。」
「でも10ヵ月も刑務所にいれば仕事は辞めさせられたりとかしますよね?」
大谷が言い、山本が
「それも載ってるぞ。
『退所者の就職について』って題名でな。
えーと、退所者が入所以前に職についていた場合は、犯した罪にもよるが原則として解雇しないことを要請する。
これはあくまで要請であり、強制するものではない。
例えば、運送系の企業の場合、暴走行為を行った者に運送の仕事をさせられないとの判断を下した場合は解雇は正当なものであると認められる。
未就職者・解雇者には国の就職支援サービスを行い、退所までに就職先の確保を行うものとする。だとよ。」
「こうやって説明がされたら、人権侵害だとか言いにくくなると思うんですけど、なんでそうやって最初から発表しないんですかね?」
上田が言い、大谷が
「会見の時間の問題とか、北条総理が全体の把握をせずに発表していたからと言った可能性はありますよね。」
「他にも色々問題を起こそうと思っていて、それの準備段階なのかもしれないぞ。
ただ、これで暴走行為をする人が減れば事故も少なくなっていいんじゃないか。」
山本はそう言って、部屋から出て行った。




