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11部

「世間の反応というのはとても早いですね。」

 国会内の廊下で大久保は北条とすれ違い、会釈をしてそのまま通り過ぎようとしたが、北条の方から話しかけてきた。

「あんな会見で良かったんですか?

 かなり反感が大きかったように思いますが?」

「いえいえ、あれで大丈夫ですよ。

 国民にとって政治がどのようなものなのか、反応があったということは政治について考えた結果なのか、それとも周りが騒いでいるから騒いでいるだけなのか。

 必要な政策は認められ、不必要な政策は国民が声をあげて反対することによって不成立となる。

 これこそが民主制ですよ。」

 楽しそうに北条は話している。大久保にとって北条を含めたグループの上層部の考えは後から合流した自分にはわからないことが多かった。突然、記者会見をさせられたと思えば、内容が女性蔑視ととられるような内容だったこともわからないが、その結果として既に小規模のデモが起きているとの話を聞いている。

 天皇制の改革にしても発表の仕方によっては問題なく移行できたはずなのに言葉の選び方の問題なのか、北条の言い回しによるものなのかはわからないが事件化するほどの反感を買っていた。

「伺っても良いですか?」

「どうかしましたか?

 私の答えられる範囲内であれば何でもお答えしますよ。」

 北条はにこやかに言った。大久保が

「一連の改革発表について、あえて国民を煽るような手法を用いているように感じるのですが、それは何のためですか?」

「ほう、そこに目をつけましたか。

 さすがは大久保君ですね。

 良いですよ、それならお答えします。

 簡単に言えば実験です。」

「実験………………ですか?」

「ええ、例えばピエロの目の前に立って指差して笑ってもピエロが気分を害して怒鳴ってくることはありません。

 では、ピエロを怒鳴らせようと思ったら何をすれば良いのか。

 直接、物理的な攻撃をすれば誰でも怒りますよね?

 それでは意味がない。ピエロがやっている芸、ジャグリングやマジック、玉乗り等の大道芸をピエロより上手に真横でやって見せるというのはどうだと思いますか? 」

「営業妨害だと怒鳴られるか、あるいは仲間に勧誘されることもあるかもしれませんね。」

「そう、その通りです。

 勧誘されたなら次の手段を考えなければいけないし、怒鳴られたならピエロは自らの芸よりも凄いことをやられたら怒るのだと学ぶことができる。

 今回の実験は、国民が何を許容し何に怒るのか、その怒りがいつまで続くのかを検証するためのものなんですよ。

 まぁ、だからといって火がついている建物をそのまま放置しておくわけにはいきませんから、大久保君には火消しをお願いします。

 発表のやり方に問題はありましたが、大久保君達が考えて整備してくれた改革案に不備はありません。

 そこで都内を中心に希望者に対しての説明会を開いていこうと思います。もちろん、その先頭に立ってもらうのは大久保君になるわけですが大学での講義実績もある君なら上手に納得のいく授業を国民にして貰えると思っていますよ。

 地方にも出向いてもらうことになると思いますが、丁寧に説明を繰り返すことで反発がなくなり、国民に受け入れられるようになれば更なる改革案を出しても大きな反発は起きなくなります。

 意図を正しく伝え、国民の信頼を得ることから政治は始まりますからね。」

 大久保はどこまでが本当の事なのかを探るように北条を見た。説明会を開くことに異存はない。だが、『実験である』という部分から信じていいものなのかがわからない。

 影山光輝の側についていた自分を政務官に任命した時点で何か裏があるものだと思っている。

 長い沈黙が続いたにも関わらず北条は笑顔で大久保を見ている。

「……………もうひとつ伺っても良いですか?」

「はい、何でしょう?」

「私はまだ御前様…………政務天皇にお会いしたことがないのですが何時になればお会いできますか?」

「ああ、そうでしたか。

 あのお方もお忙しいですからね。

 かく言う、私もあの方が今どこで何をしているのかまったくわからないんですよ。気まぐれというか直感で動かれる所はやはり血は争えないようで彼を思い浮かべてしまいますね。」

「彼?」

 大久保は誰の事を指すのかわからない三人称を聞いた。北条は笑顔で

「それについてはまた今度ですね。

………………ああ、忘れていました。

 他の政務官が決まりましたので確認をしておいてください。

 多角的な連携が取れて初めて政治とは潤滑に回るものですから。」

 北条はそう言って一枚の紙を大久保に渡した。政務官の一覧表になっている紙はどの分野の政務官かとその政務官の名前がフルネームで書かれていた。総務政務官の北条を先頭に名前が連なっている。

 大久保はすべての名前に目を通してから、

「なぜ、黒木さんの名前がないのですか?

 役職で言うなら法務政務官は黒木さんだと思っていましたが?」

「彼にはふさわしくないと御前様が思われたのでしょう。

 それに彼は一度裏切ってますからね。

 信頼とは…………………簡単には取り戻せないものなのでしょう。」

「そうですか……………………」

 何か含みのある言い方のように感じたが北条が時計を確認して

「ああ、すみませんね。

 次の用事がありますので私はもう行かなければいけません。

例の説明会の件よろしくお願いしますね。」

 北条はそれだけ言って足早に離れていった。

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