1部
「1688年、イギリスの議会はジェームズ2世を追放してオランダ領督ウィレムとジェームズ2世の長女メアリを王にして血が流れることなく革命を成功させました。
世に言う名誉革命です。
さあ、皆さん、始めましょうか、日本版の名誉革命を。
今までに流れた多くの血に報いるためにも我々は革命を完全に成功させなければいけない。
口火はお願いしますよ、北条君。」
黒幕の前で正座をしていた北条総理は、
「承知いたしました。」
そう言って頭を下げた。
警視庁内総監室
「北条さんに指令が出たみたいですね。」
上杉刑事部長が言うと武田警視総監はため息をついて、
「あの人は完全に御前の信奉者だから、確実に実行に移すだろうな。」
「今からでも阻止する方法はあると思います。
あの人達の考えは危険です、取り返しのつかないことになる前に対処するべきです。」
上杉が言って、武田が何か言おうとしたときに武田の携帯電話が鳴り、
「・・・・・・・、わかった。警備局に連絡しておく。」
武田は電話の相手に短く答えて電話を切り、
「残念だが、もう遅いようだ。
菊ちゃんからの連絡で北条さんが2時間後に緊急の記者会見を行うことになったから警備を回して欲しいと言われた。」
「黒田君も結局は叔父である北条さんについているということですか?」
「いや、菊ちゃんはこっち側だよ。
2時間でできることがないかと思って、先に伝えてきたのだろう。
だが、北条さん自身は清廉潔白だ。教唆はあってもそれを立証するのに2時間は少なすぎる。だからと言って適当なこじつけでは、こちらが動けなくなるように細工されることも充分に考えられるからできるだけ避けなければいけない。
俺達が味方だと思わせておかないと身動きが取れなくなるなら、まだ動く時ではないのかもしれない。」
「警備に『飛び玉』を仕込んで北条さんを・・・」
上杉が言いかけたところで武田は制止し、
「北条さんには私設の警備部隊もいる。
それに・・・彼も我々もしょせんは使い捨ての駒に過ぎない。
役に立たなければ、代わりの誰かがその役目を引き継ぐだけの話だ。」
「使い捨ての駒にできない玉で王を取りに行けばどうですか?」
「我々の玉は、まだ自分が玉であることも知らないんだぞ?
突っ込んでまわりに抑えられでもしたら完璧に『詰み』だ。
俺達のできることはいざって時になるまで玉を守り、その時が来たら道を切り開いてやることだけだ。
王を取るための道をな。」
「・・・・・・警備の手配をしてきます。」
上杉はそう言って悔しそうに総監室から出て行った。
武田は椅子の背もたれに寄りかかり、天井を見上げて
「江戸時代の大政奉還は失敗に終わりましたよ、北条さん?」
そう寂しげにつぶやいた。