第一話 太陽で猫好きでちょっぴりキザな先輩
コンセプトありきの短編のつもりでしたが、思いの外文章が冗長になってしまっています。
ミオちゃんと赤崎先輩のちょつ切ないラブコメディ、楽しんで頂ければと思います。
ヤバイ!私史上最大にヤバイ!
今、私は断崖絶壁の岩肌の途中、木にぶら下がっている。
比喩とか例え話ではなく、本当に崖の途中にぶら下がっている。
木がきしみ、パラパラッと小石が落ちていく。
ひえぇ……地面に落ちた音が聞こえないくらい高い場所なんだ、改めて自分のおかれた危機的状況を再認識する。
今、私、大ピンチですっっ!!
なんでこんな事になっちゃったのー!?
ミオちゃんのスパゲッティ ~溺れる馬は魔法少女の夢を見るか~ 第一話 【猫好きで太陽でちょっとキザな先輩】
さかのぼること二時間前、全ては私の憧れの先輩である赤崎ショーゴ先輩のデートのお誘いから始まった。
まさかこんな事になるとも知らず……。
………。
私の名前は青木ミオ、どこにでもいる普通の女子高生。
この春からこの地域では名門と呼ばれる私立・明星学園に入学したばかり。
そして………。
「キャー!赤崎くぅーん!」
「こっち向いてー!」
「わー、すごい人だかり……やっぱり赤崎先輩って人気なんだなー。」
人だかりの中心にいるのが私の憧れの先輩でもある赤崎ショーゴ先輩。
テニス部のエースで、背も高くて運動神経も抜群、おまけに超がつく程の美形。
「……きっと私なんかとは別世界の人なんだろうな。
良いんだ、こうやってたまに遠巻きに見させてもらえれば……それで。」
誰に伝えるでもなくポツリと呟く。
ここまでであれば共学の学校に通っていた女子であればほとんどの人が経験する事だと思う。
…でも、この日はなにかが違った。
「なぁキミ。」
「あぁ、でもあんな人と付き合えたらきっと素敵なんだろうな……。」
「キミ、そこの髪を結ってる。」
「ダメダメ、私なんかが…そんな、おこがましい!」
「ねぇ、キーミ。
俺を無視する子がこの学校にいるなんてねぇ、ちょっぴりショックだなァ。」
突然、大きな人影が突然私の行く手に立ちふさがる。
「ひゃあっ!?」
「聞こえなかったかな、キミに用があるんだけど。」
「あっ、あっ、あっ………あああ、赤崎先輩!?どっ、どっどど、どうして!?」
近いっっ!近いよ先輩っっ!
手を伸ばせば触れ合えちゃう距離です!
二人であやとりできちゃう距離です!
モハメド・アリなら蜂のように刺しちゃう距離です!
何が言いたいかっていうと、とりあえず近すぎ!!
憧れの人が突然目の前に現れて頭はパニック状態。
なにも考える事も出来ずに呆然と立ちつくす私。
「これ、落としてたよ。」
「えっ!?あっ………あっ!?」
先輩の手には私のカバンについていた猫のぬいぐるみ型キーホルダーが握られていた。
「あっ、あああああっ!あり、あり………アリガトゴザイマス!!アリガトゴザイマス!!」
私はぎこちない仕草で何度も頭をペコペコと下げる。
本当なら嬉しいアクシデントの筈なんだけど、あまりの急展開に早くこの場を立ち去る事しか考えられなくなっていた。
そっとキーホルダーを受け取ると、そそくさとその場を立ち去ろうとする私。
「猫、好きなんだね、実は俺もなんだ。」
「はい!?はいっ!!はぃ、ははははいぃっっ!!ねねねね猫大好きです!!
……………サヨナラ!!」
これ以上ここにいたら恥ずかしさで頭がどうにかなってしまいそうだ。
無理やりに話を切り上げてその場を立ち去ろうとすると……。
「ちょっと待ちなって………遊びに行こうよ、猫好き同士さ。」
「は、はいっっ!!猫大好きです!!
………………………は…はい?」
聞き間違いだろうか、今先輩が変なことを言っていたような…。
「決まりだね、じゃあ早速今日だ。」
「へ!?き、今日!?そそそそんな、私…………!」
「じゃあ20分後に校門でね。」
「あ…………ま、待って!!」
先輩は「約束だよー!」とにこやかに手を振ってその場を後にする。
気付けば先ほどまで赤崎先輩を取り囲んでいたギャラリーの視線がこちらに集まっている。
まるで針のむしろだ。
どどどど、どうしよう、これってデートのお誘い!?
ギャラリーの人たちがひそひそと噂話をしている。
ここここ、怖い!怖すぎる!!
これで先輩との約束をすっぽかそうものなら、ファンの人たちから恨まれて明日から学校に来れなくなっちゃうかも!?
かといってあまり先輩と仲良くしすぎても睨まれちゃいそうだし、こんなとき私はどうしたらいいのーーーっ!?
着々とデートから逃げられない環境が出来上がりつつあることに、期待の50倍くらい不安感が込み上げてくる。
ものすごく嬉しい状況のはずなのに、それ以上に憂鬱さや緊張感がつのり、どうにも気持ちの整理が追いつかない。
あーーーーっ、っていうかこうして頭抱えている間に5分も無駄にしちゃったよー!!
ちらりと校舎の時計に目をやると、無情にも時計の針は進み続けている。
こうなったら覚悟を決めるしかないっ!!
案ずるよりなんとやらの精神で私は震える足を引きずり、校門まで向かうのだった。
――――――――――――――――――――――
どうにも浮わついた気分のまま校門の前で人波を見ながら時間をつぶす。
こういう時の一分ってどうしてこんなにも長く感じるのだろう。
先輩と早く会いたい気持ちと、逃げ出したくなる気持ちがせめぎあう。
「落ち着け私、なせばなる、だわ!
こんな時はまず人の字を書いて飲もう!」
このおまじないの効果の程はわからないけれど、藁にもすがるような思いで手のひらに文字を書く。
「あ、あれ、人の字って右左どっちが先だっけ!?横棒はどのタイミングで書くんだっけ!?」
どうしようもない緊張からどんどん知能が退行していくのが自分でもわかる。
気付けば私は手のひらに『犬』の字を書いて飲み込んでいた。
「へぇー、変わったおまじないだね、犬を飲むんだ?」
「はい、こんな事でもしないと気持ちが落ち着かなくて………。
って先輩!!!」
私の声が周囲に響き渡り、下校中の学生はみなシーンと静まり返り、一瞬こちらを振り返る。
「す、すみませんすみません!なんでもないんです!」
往来にペコペコと頭を下げる。
「やぁ、元気だね。」
先輩はニコリと笑ってこちらの頭をポンポンと叩く。
頭が熱を帯び、カーッとなっている。
先輩に撫でられてしまった、嬉しいやら恥ずかしいやら、この感情の機微を言葉で表すのはすごく難しい。
強いて言うなら、さんさんと輝く太陽に照られて骨の髄までグデングデンに暖められてしまったような気分………えっ、かえってわかりづらい?
「と・こ・ろ・で!!」
赤崎先輩は突然後ろを振り返る。
「君たち、今日は僕にとって大事な用があるんだ。
申し訳ないけど後をついてくるような事はしないでもらいたいな。」
ぞろぞろと先輩のあとをついてきていたファンの人たちに呼び掛ける。
「………はい。」
「なんであんな娘なの……。」
残念そうに、はたまた恨めしそうに彼女たちはその場を立ち去って行った。
「あ、あの~~、ほ、本当に私なんかで良かったんでしょうか?」
おずおずと質問してみる。
だって、ファンの女性たちの中には私なんかより顔もスタイルも良い人もいたし、私なんかよりずっと垢抜けたようなお洒落な人もいた。
それにひきかえ、私はとても地味な見た目をしているし、ちんちくりんでスタイルも良くない。
どう見ても先輩と釣り合うようには思えない。
「あはは、なに言ってんのさ、キミは自分が思っているよりずっと素敵だよ。
もっと自信を持ってごらん、魅力的な人にとっての一番のアクセサリーは自信だよ。」
じーーーーん。
先輩の言葉が胸に染み入る。
そうか、私は先輩の見た目だけではなく、この人柄を好きになったんだな………。
彼の陽気で前向きな性格に知らず知らず憧れて、自分もこうなりたいという気持ちが、いつしか彼へのほのかな恋心となっていたのだろう。
「わっ!!」
「きゃうん!?」ゴチン!!
突然先輩の顔が見下ろしてくる。
私は思わず驚き、飛び跳ねてしまったせいで先輩のアゴに頭がぶつかる。
「あいってーーー!!」
「いたた…………ご、ごめんなさい先輩。」
「いや、こっちこそごめん、なんかボンヤリしてたみたいだから、ついね。」
先輩がアゴを抑えながら微笑む。
「あーあ、折角の美男が台無しじゃないか、アゴが割れちゃったら責任取ってお婿にしてよね。」
「ぷっ………うふふ。」
先輩の妙な洒落に思わず笑みを浮かべる。
「あっ、ようやく笑ってくれた!そうそう、女の子は笑顔がイチバンだよ!」
先輩がカメラのファインダーを覗き込むようなポーズを取ってくる。
「うふふ、先輩ってばなんだかキザです。」
「女の子と遊ぶときはちょっとキザなくらいが楽しいのさ。」
「ねっ」と呟き先輩が前を歩く、手のひらを宙でブラブラさせているのは手を繋ぐ催促だろうか………。
でも私はまだ手を握り返すのは恥ずかしかったので…。
キュッ。
先輩の袖を少しだけ握ってみた。
これが今の私にとっての精一杯!
「焦らなくていいよ、ゆっくり慣れていけばいいさ。」
先輩の優しい声が私の心を暖かく包む。
今はそれだけでとても幸せな気分で一杯だ。
でもその幸せはそんなに長くは続かなかった。
まさか本当に天から地に落とされるような事になるとは…
この時の私はまだ知る由もなかった。
第一話 完
どうも、作者の醍醐郞です。
テーマは古き良き少女マンガ!
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何も反応がないのが一番ツライのです。
面白い作品になるように精進して参ります。
それではまた。