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剣魔未来〈 剣に触れるもの 〉  作者: 数間サハラ
騎士王の聖剣
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騎士王の聖剣 02

「魔力放出の、練習ですか?」

「そう。ざっくり言うと、光聖魔法も個持異能も、魔力放出に関するプロセスが同じってこと」

 

 マシューは今、ルイス、ルーナと、フレデリックの研究室に向かって歩いていた。

(ルーナを説得するのが苦労したとは....僕も嫌っちゃあ嫌なんだけどね)

 話を戻すと、魔力放出は光聖魔法の、体内から魔力を出すだけの最も単純な魔法。しかしそれはフレデリックの研究によると、その放出の過程は光聖魔法も個持異能も代わりがないことが分かったらしい。

 今まで異能使用者はたった1つの魔法しか発動出来ないという点から、光聖魔法斗は全く別の魔法、もしくは魔法ですらない別の力と思われていた。

 だが、もしフレデリックの研究内容が正しいのならば、異能の修得方法も大きく変化する。


「それは凄いですね! それならもし師がいない異能者でも修行ができますから!」

「そうだな。それなら、たとえ同じ異能を持っていなくても魔法に優れた人なら師となれるからね」

「....と話している内に着いちゃいましたよ。マシュー先輩とルイス君」


 ルーナの機嫌はまだ直らない。フレデリックに自分の発言を盗聴されていたのだから無理はないのだろうが、同じ被害者から言わせてもらうと、もう諦めた方が早い。早い....


「ああっ! やっぱり帰ります! 今、なんか悪寒がしました」

「駄目だよ。フレディ博士からは()人って言われてるから」

「だからって私たちじゃなくてもーーひぃ!!!」


 ルーナが引いた悲鳴を上げた。その視線は、


「ルーナ氏ぃ、その悪寒....大正解ぃ!!!」


 ルーナの目の前に現れたフレデリックをしっかりと捉えていた。


「嫌ああああぁぁぁ!!!」


 まるで反射のように光聖魔法で殴ろうとするルーナをルイスが止める。しかし、


「あれっ!?」


 ルイスの異能が発動していまい、ルーナはルイスを通り抜けてしまった。

(まだ制御は出来ていないみたいだな....でも今の発現を見ると全身に魔法を伝達は出来ているのか?)

 そうマシューが考えている間に、フレデリックは一撃をくらい宙を舞ったのは、言うまでもない。


「わざわざの御足労には感謝するよ。ちょうど今『踏んだ人間に悪寒を与えてその対象者の目の前に瞬間移動をする』設置型魔法のテストをしていた所なんだ。結果は成功っと」


(殴られている時点で何かしら失敗はしていると思うけど)


「私に非はないのが前提ですがい・ち・お・う、殴ってすみませんでした」

「全くだよ。いきなり殴るなんて品性に欠けているとしか言えないね」

「あ?」

「ん?」


(全くってそこかよ! 自覚してないのが余計タチが悪いなというか、一触即発状態止めて!)


「とーにーかーく!!! 本題に入りましょう。我々は何故呼ばれたのでしょうか。こっちにもルイスの特訓がありますし、色々忙しいんですよ」


 そう言うとフレデリックは、3人を研究室へと案内した。

 与えられた研究室を勝手に改造して地下3階にまで拡張していたことにはもう何も言わないことにして、最深部に到達した。


「さあ着いたよ。今回君たちに協力して貰いたいのは、有機性鋼魔で形成される体内器官、『式臓』の実験だ」


 突然頭上近くから吊り下げられた巨大タブレットが降りてきた。画面には恐らく式臓に関する説明が描かれているのだろうが、内容は基礎知識的な部分しか理解出来ない。

 マシューがそうなら、2人は尚更だ。


「式臓....名前しか知らない」

「さっぱり分からないんで帰っていいですかいいですね」


(ルーナは一々帰ろうとしないで....)


「じゃあ僕がざっと説明するから聞いていてね」


 式臓。体内の有機性鋼魔が張り巡らされている魔術回路のとある地点に鋼魔が複雑に絡み合い、球状の器官を形成する。コレが所謂式臓である。

 式臓では脳からの信号で器官内で術式を組むという、魔法発動に非常に重要な器官だ。

  この式臓を中枢とし、血管と同様の輸送管を全身に展開している。鋼魔の輸送管は血管と密に絡まって形成されることもあり、血管を守る働きも見られる。


「式臓で術式を組み、末梢の放出部分へ輸送する。その過程が、光聖と! 異能が! 全く同じということを! 調べたいんだ僕は!!!」


 フレデリックは叫んだ。この鋼魔の生物学的分野は古参の研究者や魔法家からは思いのほか疎まれている。

  光聖魔法以外認めないという年齢と頭の固さが比例したような輩も多く、学会でも専ら魔法の開発や武器や杖の自慢大会となっている。

 フレデリックが初めて学会に参加した時、反吐が出るほどつまらない、脳が停滞している研究者もどきの暇つぶしの様子を目の当たりにした。

 だがフレデリックは馬鹿ではなかった。ヒステリーを起こして学会を追い出されることなく、上層部に上手く好かれるよう取り繕い、他の部に八つ当たりした。

 密かに研究をしていることがバレないように地下に研究室をつくり、本当は技術分野も好きになってしまったことで大量に製造した鋼魔のおもちゃをつくって八つ当たりをした。そしてーー


「おい八つ当たりだったのかあの時の爆発あの時の盗聴全部八つ当たりだったのかあ!!! というか、私は絶対に協力なんかしませんからね!!!」


 ルーナの怒りがピークに達した。無理はない。フレデリックの八つ当たりを受けていたのは、ほとんど全てがフレデリックの研究室に一番近い人事部だからだ。


「そうか、残念だよ。勿論タダで実験して貰おうとなんて万に1つも考えていなかったのに」


(おっ、今回は流石に報酬があるのか)

 そう言ってもルーナはフレデリックとは目も合わせない。マシューもあまり合わせたくはなかったが。


「僕は別に手伝ってもいいですけどね。それが魔法の発展になるなら」


(意外!!!)


「ちょっとルイス君! 駄目だよ安請け合いしたら!!!」

「いや、契約書を見る限り、どうも安請け合いではないみたいですよ」


 ギルドの科(化)学者が実験をする場合、ギルドに通知をして協力者には契約書で契約し、相当の報酬を支払わなくてはならない。

 だが、これまでフレデリックはほとんどイタズラで実験を仕掛け、報酬はおろか、契約など交わしたことは1度もないのである。

 そんな彼が契約書を用意したということは! 今回の実験ばかりは本気であるということ。そして、今回の実験の協力者がマシューら3人しかアテがないことを表していた。

 だが、ルーナはこの契約書を見て、驚愕することになる。


『ガビーン!!!な契約書ぉお!!!』

『実験前金「20万ラビィ」!!!』

『実験労働代「20万ラビィ」!!!(結果次第で倍額を支払います)

『実験手当「20万ラビィ!!!」』

『生涯保障付き!!!』


「は、は、はは....」

「80万ラビィ!!!」


 ちなみに、ラビィは過去の円とかドルとかに代えても差し支えない未来の通過の名称である!

(こ、これは大きく出たなあ。ルーナの目がラビィのLの文字に見えるよ....)


「僕と僕の家は君たちみたいな見てくれだけの庶民と違って、正真正銘の大金持ちだからね。才と財だけが友達と言っても過言じゃないよ」


(自慢と言えるのか言えないのか....)


「ふ、ふふっ....そそそそうですよ分かってるじゃないですかちゃんとした誠意が見られ見られさえすすすればこここちらだって話を聞かないって訳じゃーー」


 ルーナは、80万ラビィという数字に思考能力を溶かされていた。その額は、ルーナの月給の4倍以上である。

 もしこの後フレデリックからヘッドハンティングされたとしても絶対に承諾することはないとは断言できる彼女も、今回の仕事を放り出す訳にはいかなくなったのである。


「くっ....その契約書、書いてあげようじゃありませんか」

「ええ!? さっきまで心底帰りたがっていた人が使う言葉なのかいそれは? 誠意ってお互い様だと僕は思うんだけどぉ? ん?」

「くうぅっ....その仕事、私たちにやらせて下さい。」


(一応どの仕事を受けるか決めるのは僕なんだけどなあ....まあいいか)


「あ、マシュー氏は仕事は雑用だけだし、友情出演ということで2万ラビィね」


(今すぐ友情と仕事やめていいですかね)


 〜〜〜

 とある家の部屋で、軽いノックをする音がした。


「入ってくれ」


 中の人物がそう言うと、ノックをした青年は静かに入室した。


「失礼します。父さん」

「ああ、思ったより早かったな。もう仕事は終わったのか」


 青年の名は『ノア・ハワード』。父親、『ジェイコブ・ハワード』の長男で、七剣魔士、ジュン・ソード家直属護衛隊に勤め、父ジェイコブは欧州ギルド連合の常任参議である、いわゆる名門一家に連なる2人なのだ。


「ええ、私は護衛隊と言ってもまだ末席の身。雑用ばかり押し付けられて困りますよ」

「なるほど。それで嫌気がさして帰ってきたわけか」


 父、ジェイコブの眼光が鋭くなった。ノアが学生身分を卒業した日から今まで厳しい態度から打って変わり、比較的自由にさせてくれていた父だが、少し調子に乗りすぎたとノアは反省した。

 ジェイコブはノアに名門ハワード家に相応しい結果を求めてきた。それ故に、学問、芸術、剣術、魔法、あらゆる面でノアは満点に近い結果を残し、父の期待に応えてきた。

 しかし、ノアが護衛隊になった報告を聞いた途端、今までの父からは想像が出来ないほど、ノア本人にもどう表したらいいか分からないくらい性格が逆転したように見えた。

 寧ろ、これが父の性根なのかと思った時、ノアは衝撃故に体が身震いし、冷や汗をかいた程であった。

 そのような父と1年過ごしたせいか、これまで父に抱いていた畏敬が薄れ、敬語を使っているにしても友達と話すかのような感覚にまで変化していることをノアは今更になって思い出した。

 だが、忘れてはいけなかった。自分は末席かつ護衛としての仕事を与えられていないにしても護衛隊の身分であることには変わりはない。

  更に父は、ギルドの決定を左右する参議という高潔な立場である。

 もしかすると父は、これまで厳しく教育してきた息子に対し、単に労い、ノアを既に社会人として認めたからこその態度だったかもしれない。

 そう考えると自分の、仕事が終わったからといって勝手に帰った姿は思慮に欠けると言わざるを得ないのではないかと、ノアは思った。

 あの頃の父ならこう言うだろう。


「仕事は自ら請け負うもの。結果を残し、信頼を得るために努力をする向上心を持て!」と。

「い、いえ父さん。忘れ物を取りにきただけで....」

「誤魔化す必要はないぞ。朝に仕事が終わったら来るように言ったはずだからな」


(まずい。やはり父は怒っている。)

 今まで父から何を学んできたのか。ノアは自らに問いかけた。

 父の跡を継いで政治家になるのではなく、剣魔士となることを許してくれた父に醜態をーー


「ちょうどいい。今から母さんと昼を食べにいく所だったんだ。ノアも行こう」

「え?」

「え? とはなんだ。お前の同僚でもないのに仕事に口出しなんかしないさ」


(叱責ではなかったか....)


「もう私の顔色を伺う必要はないぞ。まあ上司の気分くらいは見ておいた方がいいがな。それで行く? 行かない?」

「あ....勿論行きますとも。寧ろ私が案内したい位ですよ。良いパスタを出す店を見つけたんです。内緒話にもピッタリですよ」

「わかった。母さんは買い物で一旦解散するから、その時に話すよ」


 学生時に教師によく言われたこと。『思慮深過ぎると何か損をした気分になるからやめておけ』

(うん。当たってるかもしれない)

 ノアは身支度を済ませ、腕を組んで歩く両親の少し後ろを歩いて再び街へと繰り出した。


 〜〜〜

「素晴らしい! 実に素晴らしい結果だ!」


 フレデリックは実験の結果を叫びながらレポート用紙に念写した。

 彼が命令した実験は至って単純。「鋼学投影映写機」と呼ばれる医療機械を用いた中で、魔力放出をすることだ。

 この実験の難所は実は魔力放出ではなく、この映写機を製造することであった。しかし、その点においては、先程から姿を見せないガクの技術力により、直ぐに解決してしまったらしい。

 それなら功績の大きいガクの方に報酬をあげたら良いではないか。とマシューは提案したが、


「コストパフォーマンスを追求しない科学者はいないよ。君たちは最悪だけど」

 とのことなので、マシューはこれ以上何も言わなかった。


「凄い。式臓の魔力伝達がこうも詳細に映像化できるだなんて。だがしかし、やはり私の見解は間違ってなかったと証明されつつある。これをボブに突き出したやつと合わせれば....」

「あの....ルーナ先輩は良いにしても、僕の魔力はちゃんと送られているんでしょうか? 自分自身、感覚がないのですが」


 確かにマシューが映像を見る限りルイスの伝達量はほとんどなく、式臓では術式を組むために必要な魔力は明らかに不足していた。だが


「重要なのはそこではないのだよ。見たまえ」


 フレデリックが映写機を拡大した。

 ルイスの全身が透かされ、式臓の部分にピックアップされた。


「ルーナ君のと良く見比べて。そうすれば良く分かるだろう」

「あ!」


 先に気づいたのはルーナだった。


「魔力の出発点と末梢へ最初にいく分岐点を合わせてみればより分かりやすい。」

「一致しています!」

「その通り!」


 マシューは目を見張った。凄い発見だと思うのと同時に、どうしてこのような根本的な研究が進んでいないのか。今になって不思議に思った。

 通常、魔法の開発は「投影鋼」と呼ばれる紺色の鋼魔を用いる。

 投影鋼の内部に魔力を放出すると、白い軌跡を描くことが出来る。

 更に軌跡を3回上書きすることで、術式を擬似的に組む。

 それを両手で抑え、人体と回路のようにして魔力を放出するとーー


「術式に対する効果、即ち魔法を発現させられる。魔法が完成すれば、発現の為の信号となる名前を与える。投影鋼に叫ぶだけでいいんだよ」


 マシューがとある投影鋼を持った。


「光よ集え、『ハンズ・ライト!』」


 マシューの声に反応し、投影鋼が明るい輝きを放った。


「す、凄い! これがハンズ・ライトの投影鋼なんですね」


 ルイスはすっかり関心したようだ。


「投影鋼を使えば、光聖魔法が苦手な人間でもある程度の魔法なら使えるよう補助される。ただ、投影鋼は非常に純度が高い。生成するのにとても時間がかかるんだよね」


投影鋼の話になった所で、フレデリックの腹時計が午後12時を指した。


「昼だ。食事に付き合って欲しい。私は学会以外だと仲のいい知り合いが君たちしかいないからねぇ」


じゃあわざわざ自分たちとつるまなくていいじゃないか!

とマシューとルーナは顔に出して訴えた。


「嫌だよ! 研究内容を盗まれたらたまらないじゃん! 研究者たるもの基本的に孤独であれと私は習ったからね。さあ行こう! 麺が食べたい。適当に探してくれ」

「な」

「な」

「な」

「「「なんて図々しいんだ!!!」」」



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