騎士王の聖剣 01
剣触異能を持つ連絡ギルド職員、マシュー・アンドリューは、有能な部下のルーナと、事件を解決した村から謎の異能を発現させる少年、ルイスを新たに加え、久しぶりの帰路につく。
つかの間の休暇を楽しむ一行に降りかかる次なる問題は如何にーー
「会いたかったよー『俺前メガネ』!!!」
とうとう家に帰ってきた。出張であの村を訪れてから一週間近く、ずっとアニメを見られなかった。
仕事が忙しすぎて録り溜めしたハードディスクのリモコンに久しぶりに触れる。50インチの大型テレビと、自然な音で厳選したスピーカーのスイッチを入れ、さあ、始まる。
「アニメアニメばっかりだと良い女性現れませんよ? あ! もしかしてもう独身貴族決め込んじゃったんですか?」
「余計な心配は要らないよ。結婚願望あるから」
ルーナとのこんなやりとりにも、もう慣れた。しかし、元々ルーナはこの家の住人では無い。
ルーナと仕事の打ち合わせをする為に、この家に招いたら、その翌日に前に住んでいた所を引き払ってここに転がり込んできた。
『雇い主の近くにいた方が色々便利ですよね!』
とまあうまい具合にやられたもんだ。
今では冷蔵庫のものからなんから私物化して、部屋の一つを勝手に改造して住みこまれている。
一応、住むからには家事の役割りを分担してもらっているが、彼女ときたらそれはもう完璧にこなすものだから、寧ろ今は居てくれた方が助かっている。口は達者な方で、マシュー自身も彼女に勝てるとは思っていない。何かあっても、巧みな話術で上手くかわされる。
しかし、彼女はいつも指示したりお願い以上のことをしてくれるし、よくよく考えてみれば、マシューの頼みを断った例が思い出せない。
常に横にいて、当たり前のようにサポートをし、何事もなかったかのように笑い飛ばしてくれる。
そう、彼女はまるで....まるで
「どうしたんですか? せーんぱい?」
「うわ!!!」
「うわってなんですかうわって」
ルーナがマシューの目を覗き込む。今のはやばかった。あれだ。恋愛ドラマフィルターがかかったって感じの。なんて言うか、そうだ。
「超絶かわいいってやつだ」
「は? 何言ってるんですか? あ、もうアニメ始まってますよ。」
しばらくすると
「....あ、ありがとうございました。マシューさん」
聞こえたのは、これから住む新たな住人、ルイスの声だ。
最後で申し訳ないが、風呂に入ってもらっていた。また、マシューの部屋には客人用の部屋が幾つかあるから、ルイスにもそこを利用してもらおうと思っている。
ルーナが占領した所は大分変わっているが、基本はシンプルな家具が揃ってはいる。まあ使いやすいようにしてくれるのが一番だけどね。
「それにしても、マシューさんの家がこんなに豪華だなんて、俺の家の何倍もありますよ」
「そうだよねおかしいよねぜったい何か悪いことしてるよね」
「してないよ!!!」
冗談ですよ。とルーナはぐふふと笑みを浮かべる。
何故まだ若いマシューがこんな豪邸に住んでいるのか。それはマシュー自身も未だに信じられないこと。
「実は先輩は、かのソード公爵の跡取りにしてたった一人の御嫡男....」
「アーサー・ジュン・ソード様から、大変なご寵愛を....」
「おお!!!それは、さすがマシューさん」
あれれーおかしいぞ? 言い方に悪意があるぞ?
「何にもおかしくないですよ」
....少し不本意だが、あくまで健全な意味で捉えたら、間違っていないかもしれない。
きっかけは、まだマシューかなり新人だった時、新人教育研修で公爵領に訪れていた。
そもそもソード公爵家は、人間に新時代をもたらした救世主、「日之出大地」に協力をして共に戦った七人の魔法使い「七賢魔士」の一人の家系だ。
現在、七賢魔士の末裔は「七剣」と改め、これら七人にのみ、爵位といった特権階級と、「国」と認識された領土の領有権、そして連合ギルドの各支部団体の監査権かつ相談役を持っている。
そのため、ここ欧州支部では、連合ギルドの公式行事事などは基本公爵領で行われているのだ。
前置きが長くなってしまったが、マシューが気に入られたきっかけは、御嫡男「アーサー」の飼い猫、「エクスカリバー」を保護したことだ。
〜〜〜
「僕の大事な大事なエクスカリバーちゃんを助けてくれて感謝する。ありがとう」
「そのようなお言葉、恐悦至極の気持ちです。」
「確か研修で来た新人君だよね?何でこんな山の中にいるのかは分かんないけど....」
「マシュー・アンドリューです。山にいるのは、エクスカリバーちゃんに私の昼ごはんを盗まれーー」
「まあそれよりも君さ....」
「はあ(なかったことにされた)」
「面白い魔術回路してるね」
その瞬間、視界は真っ白になった。正体は、人間の常識を遥かに越えた圧倒的な量の『魔力』。
通常、魔法というものは体内で述式に組み込んで放出することで、攻撃力や効果を付加することが出来る。
しかし、この男は、何の述式も組まず、ただ体内の魔力を放出した。やり口はそこらの魔獣と同じだ。
だというのに、その威力は、成熟しきった一級魔獣の範囲をも遥かに越えたもの。下手すると集落一つを一瞬で消し炭に出来る。そんな破壊光線を何の予告もなしに、何故か敵意がないような表情で放ってきた。
「やばい....これやばいよ! 君! まさかコレを防いでいるんじゃないだろうね。ふははっ久しぶりに興奮してきた」
「ぐおおおおお!!!!!!」
マシューの剣触異能には、まだ違う一面がある。それは、「防御」に特化した魔術回路に組み変えれば、たとえ相手の魔力の方が上回っていても、その攻撃を防ぎきることが出来る。
「通常、ヒトの魔術回路にはそれぞれ偏りがある。使用者が持つ癖って言うのかな。でも君には、それが全くない。全てが均一に、そして膨大に、体全身に張り巡らされているんだ!!! これほどのモノは僕も初めてだよ!」
「それより....攻撃を止めて貰えませんかぁ!?」
「ああ、ごめんごめん」
地獄のような時間が終わる。解放感と疲労で、マシューは膝をついた。
「何故いきなりこんなことを!」
「うーん君なら耐えられるかなーって。僕の勘はよく当たる。当ててくれてありがとね」
いやいやいや、耐えられるにしろられないにしろ、あの量を放つのはおかしい。いくら強い剣魔士であろうと、防御の基準からは逸脱している。今の奇跡は、たまたま彼の攻撃と相性が良かっただけだ。
「それにしても、君の魔術回路の鋼魔循環を見る限り、君って個持異能だろ? 勿体ないなー。もし君が光聖魔法を使えたら、間違いなく連合ギルドを代表する最強剣魔士と称されるだろうに」
「........」
黙るマシューに、アーサーがどうしたと問いかける。
「ああいや....やはり....アーサー様も、光聖魔法が、第一、だと....」
「個時異能のことを馬鹿にするつもりはないけど、たしかに、まだその偏見は多いよね。」
個時異能は、限定的で使えない。どんな力があるか分からなくて怖い。未だにこのイメージは払拭しきれていない。
マシューも採用試験の実技考査でこの力を披露し相手に勝利したにも関わらず、審査役の人間に向けられた恐れと奇異なものを見る目は、未だに忘れない。
トップクラス成績を残したため、何とか採用を勝ち取った。しかし、配属希望は、その力をあまり使わない人事部にした。
マシューは元々、能力をひけらかしたい訳ではないのだがそれ以上に、もし防衛部に配属すれば、試験の時以上の疎外感を味わうことになる。それが堪らなく嫌なのだ。
幸い、現在の職場の人間関係には恵まれ、忙しいなりに楽しい日々は送っている。だが、それでも、何故か心配が拭えない。本当は、どう思われているのかーー
「自分の存在を高く見すぎ」
ベチン
デコピンされた。
「分からないものが怖いのは君だって同じだろ?ボクらがキミらを恐れるように、君だって僕らが恐れることを恐れてる」
その通りだ。でもそれを肯定してしまったら、結局何の解決にもならない。意味がない。
「そんな大きい範囲で悩まなくてもいいんじゃないかな? 自分の事に集中しなよ。ほら、君自身はとっても素敵じゃないか」
「自分のこと、だけですか?」
「そうさ。世の中が良くたって自分が恵まれているとは限らないし、酷い世界を牛耳る人間もいる。その点、君は随分幸福な方さ。特別な力を持って、それなりに慈愛の心を持ち、何よりこの僕とお話が出来ているんだからね」
ふふんとアーサーは胸を張る。自分と比べてかなり小柄で華奢だが、圧倒的な魔力を保有する才能に、領邦内での多忙な公務を精力的にこなし、人望も厚い。
自分が気落ちするようなことも、彼にすればたわいも無いこと。他人と言っても、自分もその他人の集合の一人に過ぎない。
だったら、自分のことは、自分で確立するしかない。どんな生き方にしろ、最後に決めるのは、自分だから。
「....そうですね。アーサー様の仰る通りです」
「ふふ、素直で宜しい。じゃあ帰ろう。もう昼休み終わるよ」
それを聞いたマシューは携帯を開く。残り時間後5分。....絶対に間に合わない。
「アッハッハ! 血の気が引いていく顔も悪くないな! うん。どうやら君のこと好きになっちゃったみたいだ」
え、好きに?
「僕の家って何故か女系でね。家の頭領も女性の方が多いんだ。そんな中で僕が嫡子で生まれ、育ってきたからか知らないんだけど」
アーサーの顔が徐々に近づいてくる。マシューは理由のない不気味さに覆われていた。
「ボクってさあ....」
ゴ、ゴクリ....
その時、襟を引っ張られ、強引に顔を寄せられる。
これは、ヤバーー
「男の人も、ステキに見えちゃうんだぁ」
耳元に生暖かい息と、心地よい音が通る。それでも、マシューの体にはおぞましい悪寒が走った。
「あ....いや、ご冗談を!」
「アッハッハ! と・に・か・く! 君は僕のお気に入りだ。僕に何かあったらちゃんと飛んで来るように」
その一言だけ残し、アーサー・ジュン・ソードは、転移魔法で帰ってしまった。
....愛猫、エクスカリバーを残して
「何の為に来たんだあの人はぁーーー!!!」
〜〜〜
「それで、結局マシュー先輩はアーサー様の愛人にーー」
「いやだから全然違うから。ウソを創造するんじゃありません」
その後は、アーサーが忘れたエクスカリバーを抱きかかえ、急いで公爵政務館へと戻った。
その時、エクスカリバーを連れていたことで遅刻がうやむやになってくれたのだ。
わざとか偶然かは分からないが、結果的に自分を助けてくれたエクスカリバーとアーサーには感謝しかない。
「それで! マシューさんはどうしてこのような豪邸を?」
「ああ、肝心なことを忘れていた」
それは何故かーー
「エクスカリバー様ー」
「!!!」
マシューの掛け声に、一匹の真っ白な猫がソファの裏から現れた。
「え....この猫って」
そう、紛れもなく、エクスカリバーだ。
「実は、あれから家に帰ったら、付いて一緒に来ていて、なんか気に入られてしまったんだよね」
あの時慌てたのは忘れない。それが公爵の愛猫を誘拐しているようにしか見えないからだ。
付いてきたエクスカリバーを再び抱きかかえ、公爵領へとんぼ返りした。
そして関門に着いた時、関門衛兵はマシューの姿を見て直ぐに非常事態を察した。
エクスカリバーは名や姿が通っているのか、公爵領内ではエクスカリバーをアーサーの部下達が必死の捜索をしていたのだ。
(まあ猫でこれだけ騒げるくらいが平和ってことか....)
マシューは直ぐに捕まった。マシューは抵抗しなかった。
した所で指名手配されるのは目に見えているし、連行されてアーサーの前に引き出され、その場で弁明した方が良いと考えた。
マシューの予想は当たった。エクスカリバーがマシューから離れる様子がなかったため、結果的にマシューはアーサーと再び対面することになった。
「少しだけ二人にしてくれないか」
アーサーがそう言うと、側近はすぐに人払いをした。
普通なら主君と、主君の愛猫を誘拐犯の容疑者を二人きりにするなどありえないことだ。しかし、彼の場合は別だ。
何かあれば、一瞬で消し炭に出来る魔法を持っているからだ。マシューの場合、その考えさえ外すことになるのだが。
「ふうん。それで、最後に言いたいことはあるかな」
「待って下さい! 誤解なんです! 家に帰ったらこの子がーー」
「そんな言い訳通用させるとでも?」
「本当です! 懐かれたのかさっきからずっとくっつかれて、お願いしますどうか消し炭だけは辞めて下さい死ぬこと以外なら何でもしますから!」
その直後、ふうんと息を吐き、アーサーの口角が怪しく上がった。明らかにこちらの弱みをつけこもうとするそれだ。
「あの、な、何か....」
「んーそうだなー。あ、君はもういいよ。後で追って知らせるからね」
そして少考後、あっさりと解放された。その上、公爵邸の客用宿泊部屋へ案内されたことは予想外だったが。
おそらく、今現在がもうすっかり夜になってしまったことと、今までマシューが自ら名乗り出て抵抗する様子を見せなかったことが功を奏したのだがそれは微々たる理由だ。
一見大騒ぎのように見える様子も、実際慌てているのはアーサーの日々の世話をする女中陣のみ。その他の側近一同やその他の部下はエクスカリバーが見つかった途端に直ぐに持ち場へ帰ろうとしていたのだ。
思い返せば、マシューが連行された時にやたら甲高い声で糾弾してきたのも、その集団だった。
他の下々はともかく、女中たちの慌てようと怒り様は寧ろ滑稽でマシューはつい思い出し笑いをしてしまった。
(よっぽど仕事に命かけてんだな....覚えておこう)
案内してくれた女中が気持ちを切り替えてマシューに対応してくれたことに感謝しつつ、マシューは部屋のベッドで眠りについた。
........
「あ、もしもし。うん。そう、その件なんだけど、」
「80%くらい変更で宜しく」
翌日、マシューは他の研修職員とは離れ、人事部長である上司、ボブ・ブラウンに呼び出された。
「昨日の一件は聞いた。まあ、とんだ災難だったと言わざるを得ないがな。あそこの女中長のメアリーは厳格な伝統思考と声が可聴超音波であることで有名だ。注意しておいてくれ。....いやなんで注意しなくてはいけないのかは知らないがな」
ボブの言葉に感謝し、マシューは研修に戻った。
普通の職員では絶対に体験しないであろうドタバタ劇に巻き込まれてしまったが、これはこれで貴重なものだと言えるだろう。これからも、奇想天外なことに次々と直面するかもしれない。
だが、自分の力と、仲間の力を信じて、乗り越えていこう! それが何よりも大切なことだから!
めでたしめでたし
〜〜〜
「って勝手に終わるなあーーー!!!」
「そうですよ! 今までのを省略したらまだ何も話してもらっていないんですけど!」
久しぶりに長話をしてしまった。2人にツッコミを入れられてマシューは我に帰った。
「まあ最終的にどうなったかというと....」
研修が終わり、家に帰ると、
「な、なんなんだこれは! 僕の家が! どこの誰のかも分からない城にぃ!」
マシューが恐る恐る玄関に近づくと、1枚の張り紙を見つけた。
『キミは今日からエクスカリバー専用の世話係に任命されました。精々頑張ってね。君の豚小屋アパートじゃ任せられないのでそれなりの用意と根回しはこちらで引っ越し祝いにしておくね! じゃあ宜しく! 断ったらボコボコの刑だよ(ハート)』
「....とまあ、城の中に眠ったエクスカリバー様と世話指南書が置いてありました」
「最初からそれを話してくださいよ! 私、この話2回目なんですから!」
そう言われてもやはり、なけなしの武勇伝ほど語りたいものだとマシューは思う。
(まあ、ルイスがわくわくして聞いてくれただけマシなのかな)
話しているうちにアニメが終わってしまったので、マシューは早々に諦めて話を変えようと考えた。
「はい。ということで、今から本題ね」
ルーナとルイスを椅子に座らせる。ルイスのこれからの動きについてマシューは話した。
ルイスの村での一件から、マシューはルイスを連合ギルドに迎えることに決めたが、それは当然、マシュー個人の意向では決められない。
つまり、あくまでマシューはきっかけに過ぎないのだ。
第2種採用枠の採用試験は、公募採用なら1年に2回しかなく、第1種に関しては年に1回だ。しかも、職員に必要な膨大な知識を問う筆記試験。一般人の治安を維持する為の魔力を含めた実力を問う適正試験。最後に、職員としてふさわしい心中を問う面接試験の三段階構成だ。
「今のが第1種採用試験の大まかな内容。第2種になると、例えば筆記試験が専門科目が教養科目だけになったり、ハードルがかなり下がる。だからみんな、第1種への足掛かりに受けるんだ」
第2種だからと甘く見てはいけない。寧ろ、第2種採用試験の方に将来有望な原石が見られる場合も無きにしも非ずだ。
「ただ、これが推薦採用なら、話が大きく変わってくるんですよね先輩!」
うん、ルーナもそれで受けたからね」
第1種職員による推薦があれば、筆記試験が免除されるのだ。
「教養と言えど、高等学校教育履修レベルの内容ですからねーありがたいですよ」
「ちなみに、ルーナ先輩は、どうやってマシューさんの推薦を頂いたのですか」
「あ、いや、それは」
しどろもどろに答えるルーナにマシューはつい思い出し笑いをした。何が面白いんですかと怒られてしまったが。
「それね、ルーナが下見でなんだけど試験会場と間違って人事部の職場に来ちゃって....」
〜〜〜
その日は試験前日で多忙を極めていた、そんな時に手の空いた人間として見つけられ、、否応なしに作業に加えられた。
しかし、ルーナは元々事務系魔法が得意なこともあり、あっという間に終わってしまったが、その時、ほぼ全員思った。
「ところで君は誰?」
その時、他の職員と違って作業を終えていない資料を抱えた男が、物凄い勢いで部屋に入ってきた。
「すみませーん! 助けて下さい!」
疲労した声で助けを求める姿に、一同は笑いに包まれた。
「マシュー。またお前がビリか。その大柄であたふたしないでくれ....笑えて、くるから! ふふっ」
「そんな! 酷いですよ! これでも半分やったんですから! ってあれ? そちらの方は?」
目の集中がマシューからルーナに移った。
「ああ、こんなに仕事が早い同僚は覚えてるはずなんだが、ええと君はどこの人間かな?」
ようやく話を振ってもらえたのでルーナは口を開いた。
「あ、あのですね、私はその部外者で迷って」
「仕事が早い!?」
いきなりマシューにターンを奪われた。そして、
「僕には君しかいない! どうか! 僕を助けてくれ!」
〜〜〜
「なるほど、それがマシューさんとルーナ先輩の出会いなんですね」
「でもほんっとに恥ずかしかったんですからね! あれからしばらく、プロポーズはどうしたーってからかわれたんですから!」
ルーナが少し顔をしかめる。でもマシューからすれば今物凄く助かっているから、プロポーズと間違えられてでも推薦を勝ち取ってよかったと思う。
あの発言の後、他の職員が加わってルーナ争奪戦になったのだが、ルーナは結局マシューの下を志望した。
それが逆にプロポーズの件が起こった原因ではなないかとも思うのだが。
「ということで! 第2種採用試験まで実はもう1ヶ月しかない! それまでに試験の対策をするぞ!」
「おおー!」
ひとまず3人で目標を定め、この場は解散となった。
翌日、マシューは本格的に職場復帰....と行きたいところだが。
「なるほど、まさかまた推薦採用を連れてくるとは思わなかったよ。」
マシューはボブと話している。内容は、第2種採用に向けたルイスの特訓をするために在宅勤労の手続きをしていた。
「まあルーナの場合は向こうから来てくれたんですけどね。」
ボブの印を貰い、話の内容はルイスに変わった。
「で? 彼はどんな異能なんだ?」
「分かりますか」
「でないと、君がわざわざ連れては来ないだろう。」
さすが、よく分かっていらっしゃる。マシューはボブに、ルイスの異能について話した。
ただ、ルイスに発現したものはまだはっきりと分からない状態である。
恐らく、未発現の新タイプに近いことは間違いない。連れてきたはいいものの、実際彼の力をどう扱えば伸びるのか、マシューは分からなかった。
その点を含めて、マシューはボブに相談したかったのだ。
「なるほど、今の段階を踏まえると答えは早い。」
「一体何ですか」
「光聖魔法を修得させればいい」
「なるほど光聖ま....光聖魔法!?」
マシューは意外すぎる答えに驚きを隠せなかった。ルイスは現時点で光聖魔法が使えない。体内の魔法を異能を発現させることにしか使えないのだ。
そもそも、個持異能所有者は、他の魔法を使いにくい性質を持つ。それなのに、何故わざわざ性質と逆のことをするのか。
「そうだな....マシュー。光聖魔法と個持異能。この二つの魔法は体内の魔力運用で違いがある。」
「違い、ですか?」
「ああ。それはな、『開放』するか『集約』するかというたったこれだけの違いだ。」
光聖魔法には、術式を元に多様な魔法として使用することができる。1つの体内魔力から様々な性質に「開放」するということだ。
逆に、個持異能の魔力運用は、たった1つの術式に全魔力が「集約」される状態。
つまり、体内魔力の性質が、「色んな術式に対応できる」のが光聖魔法で、「1つの術式に極振り」なのが個持異能。ということ。
え....ということはつまり!
「分かるか? 光聖魔法も個持異能も、根本的な魔力運用では何の違いもない。ってことだ。」
これは物凄い大発見だ。この事実が広まれば、個持異能の見方が大きくかわる。
「でも、なんで今までこの発見が広まっていないんでしょうか?」
「ああ、それはだな」
そう言ってボブは鞄から膨大な量の紙の塊を出した。論文だろうか? そこに書かれていた名前はーー
タイトル 『光聖魔法と個持異能の原理的視点からの魔力運用の相違について』
著名 『フレデリック・J・ソディック』
「今朝、私のオフィスにこれが置いてあってね。恐らく今度の学会の魔力研究発表会の参加に推薦しろということだろう。全く、無言の圧力ほど怖いものはないよ」
そうは言っても、実際そういう素振りを全くせずに、もしかしたら推薦しないんじゃ。という予感をさせるボブもなかなか強さを出す。
「と、いうことでだな、彼の伝言で、研究発表の助手として何でもやってくれる人員を3人程要求されてね。ほら、ウチで何でもやってくれそうなのを考えたら....さ?」
いや、いやいやいやいや
「嫌だ! 絶対嫌だぁ!」
「駄目だ部長命令だ! 頼む! あの変態科学者と唯一繋がりがある君らじゃないと、というか彼は恐らく君らを要求していると思う」
「ルイスと一緒に来たガクさんがいるでしょ!」
「ジャンルが違うらしい」
「僕の方が大外れですよ」
「ほら....マシューどちらかと言ったら理系じゃん」
「全部理系ですよ!!!」
ふざけるないい加減にしろ何とかしなければ!
「「あ! 確かルーナとフレディ博士はとても仲が悪いんです。手伝ってもきっと上手く....」
「仲が悪い? 私的な人間関係が仕事を左右するのはいけないことだな。これを機に仲直りしてもらおう。そうしようということで宜しく頼むよマシュー君」
お....押し切られたあああ!!!
読んでいる人が奇跡的にいたら、どうもすみませんでした。これからは気をつけます。かも。