始まりの異変 05
村を陥れようと企む武器商人を制圧するものの、強力な魔獣、ドラララが現れる。しかし、そんな時でも、科学の力を信じて疑わないフレデリックの(ガクから奪いやがって)最強の武器が唸りを見せる!
「いやーーー! これ! やばいですよーーー!」
ゴビュアアアアアアアアア!!!!
ルーナの叫び声が衝突音でかき消される。
今、フレデリックが発射した圧縮砲とドラララの氷水魔法光線が真正面からぶつかっている。
ぶつかった反射風が巻き上がり、その周りを荒れ狂うように吹いている。
マシューらは今にも吹き飛ばされそうな所を何とか耐え、この状況を見ていた。
衝突から漏れた氷水魔法で地面が凍っている。ドラララの方もとてつもない威力だ。だが、
「そろそろ終わりにしましょう。制限解放して行きますよーーー!」
フレデリックが圧縮砲の圧縮率を上げていく。
それにつれて威力が増し、ドラララが押され始めている。
「出力倍増! 消しとべえぇぇぁあーーー!!!」
威力が凄まじいため、多数の防衛士が武器本体を支える。寸分先の銃口では人間など意図も容易く消し炭にする攻撃が放たれている。
そこで念の為、防衛士の前に盾を形成しているが、それでも怖いものは怖い。
だが、勇敢な防衛士はやってのけた。そして
ドラアアアアアアああああああーーー
ダメージが魔獣体内の核に到達し、ドラララは姿を消した。
魔獣の体内には人間とは違い、鋼魔エネルギーが流れる特殊な管路がある。
その調整をする核を破壊すると、体内に存在する増殖性鋼魔が暴走して急激にその周りの鋼魔や魔獣の細胞を取り込みながら増加、融合し、最終的には魔獣の体が全て鋼魔の塊になってしまう。
これを「鋼魔化する」という。
増殖性鋼魔についてはまだ詳しいことは分かっていないが、魔獣がいることによって鋼魔は循環され、人間が利用することが出来る。
つまり、人間の文化的生活に、魔獣は不可欠な存在だ。
そのため、連合ギルドは定期的に魔獣を狩りはするが、その生態を守ることに務めている。
中には魔獣を大量に狩って大儲けをしようと考える不届きな奴らもいるが、大概は返り討ちにあって連合に泣きついてくる。
魔獣は実力のある剣魔士や防衛士でもパーティを組んで挑まなければ太刀打ち出来ない程、強い。
「だーからー! そんな魔獣を一撃で吹き飛ばすこの武器は! 科学は! 最強だぁーーー!」
話を遮るなフレデリック! 後、魔獣を吹き飛ばすような武器なんてS級認定されてすぐにでも没シュートだ!
「はあ、今度の今度こそ終わりだな。全く、短い時間の間で奇想天外なことが起こりすぎだ! 」
レオーネがため息をつく。全く持ってその通りだ。こんなに疲れたのは何時ぶりだろうか。
「さ・て・と! 村に戻ったら悪事・悪態・悪行! 全てを洗いざらい、白日のもとに晒してやるからな! 覚悟しておけ!」
こうして、村の事件は、一段落解決となったのであった。
村へ戻ると、村長サウロを含め、多くの村人がマシューらを歓声で出迎えてくれた。まるでヒーローがやって来たかのようだ。
(まあ、村にとっちゃ、僕らはヒーローみたいなもんか)
「マシュー殿! 本当に....なんとお礼を言ったらいいか....!」
「いえいえ。これが僕らの仕事ですから。」
(それよりも····)
村が、明るい。雰囲気はもちろんそうだが、村の家々には綺麗な明かりがついている。電気があると、やっぱり全然違う。深夜で少し肌寒いのに、何だか暖かい。
「明日は! 勝利の祝いに宴だ! 15年ものワインの樽を開けてやるぜ!!!」
飲み屋の店主の言葉に、まだ一日前だというのに村は更に熱気を高めて言った。これはもう収まりそうにないな····
結局マシューとルーナはそのまま前夜祭のようなものに巻き込まれ、ワインをご馳走になった。
なんと! あのルーナでさえもほろ酔いで済むほど、飲み心地がとても良かった。これは村の名産になるかもな。うん。
その頃、レオーネら防衛士は一度支部本部に戻り、逮捕したシグマら武器商人を留置所に送還するために戻っていた。
その後にレオーネを含む防衛士の代表らが村の宴に参加するのだそう。
その際に、レオーネはきちんと他の行かないグループが別の場所で宴会が出来るようセッティングしたらしい。流石、上司の鑑だ。
一方、村を脅していたガクは、例の武器に関しての事情聴取の為にまだ村に留まっている。····というのは半分は建前で、実際はフレデリックと科学の未来について語り尽くしているらしい。
その場にいる監視役の防衛士が訳の分からない話を永遠と聞かされているのを想像して気の毒に思えた。まあ、それは別にいいか。
次の日
「それでは、連合ギルド様々の勝利と、我らの村の再出発を祝って!」
「乾ぱーーーい!!!」
宴の時間がやって来た。
村人はおそらく全員参加しているだろう。店内だけでは入りきらないから、飲み屋の壁をスライドさせて出入口を広くし、外にもテーブル、椅子を置いてビアガーデンのようにした。
外には村人の屋台がズラりと並び、村で採れた食べ物を調理して振舞っている。
連合ギルドの面々は、暫くは村人に囲まれて少し身動きが出来なかったが、その後、各々の好きな屋台で食べたり、酒樽の近くで飲んでいた。
「ぷはぁ! このお酒やっぱり美味しいです! あんまり酔いませんし」
「そうだな。あの弱いルーナが酔わないなんて」
「弱いんじゃありません! お酒とちょっと相性が良すぎるんですよ!」
いや、それを弱いっていうんだけどね....
「マシュー! 飲んでるか! アッハッハッハ! いやーーー、この酒は格別だ! あーーーっハッハッハ!!!」
レオーネは笑い上戸か! これはこれで厄介だな
「全く、酒に飲まれるとは、防衛士長もまだまだ青いねー」
「うるへー! フレりぃも飲め! ハッハッハッハッハ」
「いや流石にソレは、っていうか貴方、結構前からタメ口で話してーーガボカボガボカボ!!!」
止めてーーー!その人を酔わせたら宴がめちゃくちゃどころじゃ済まなくなるから!
「ガボカボバーーー····って、残念。僕結構強いのでした。」
「ところで、ガクさんとはどうですか?」
こちらが見ていた限りではかなり意気投合していた様だが
「いやもうね、なんて言ったらいいのかな? 一言で言うなら、科学の昇天って感じ!?」
何言ってるのか全然分からなかったが、嬉しそうだからそれでいいか。
「マシューぅ氏ぃ、あのガクおじ様をこっそり僕の助手にして貰えないだろうかな?」
そんなことゆるされるかぁ。とレオーネが反対する。気が合うことはいいのだが、ガクは犯罪容疑者だ。レオーネの言う通り、それはーー
「えー。別にいいんじゃないですか? 村だってあんまり事件のことを知られたくないんじゃないですか? 先輩に文章消す様に指示したんですし」
ルーナ!? いやそれは、駄目だーー
「あるえぇぇ? え、消したの? 消しちゃったかー。あららららら、まずいねぇ。幾ら善良施行でも、それはなぁ....ねぇ」
何がまずい。だ。これまでにないくらいニヤニヤしている癖に。
「このことがボブ人事部長にバレたら····減給どころじゃないよ。そもそも、今の状況だって、彼にはちゃんと報告しているのかい? 申請書とかなり矛盾してると思うけど」
よくよく考えると不味い事態だ。村の事件に夢中で全て独断で事を動かしていた。
支部に連絡をする時も、鋼魔防衛部に連絡をしたせいでこの防衛士の遠征は、あくまで魔獣の討伐が理由であり、村の事件については何も知らせていなかった。と、マシューは今になって気づいた。
「じゃあ、こういうのは....」
ルーナが提案した物語。ガクは村のインフラ整備を施した親切な人物で、ガクのは科学力で村を守ってきた。
しかし、強力な魔獣が現れ、ガクが年をとってしまったために、ギルドを設立しようとした。
魔獣があまりにも強力に見えたため、その事がバレたら村に来る者が減る事を懸念したことに加え、自分達の伏線を見破る強力な人物に討伐を依頼したかった。
そんな中に、ガクの科学力に目を付けた武器商人らが村を襲撃。
しかし、これを何とか制圧し、魔獣も無事に討伐してめでたしめでたし。
「····というのはどうですかね」
確かにそれなら辻褄が合う。とマシューは思った。しかしそれでは、自分がやった事を村に着せることになるし、何より、ガクが無罪になってしまう。どうにも賛成しかねる。
「いや、やっぱり正直に話すのがいちばーー」
「よし! それでいこう! というか、そうだ!」
いつのまにか酔いが醒めていたレオーネが断言する。いや、あなたは一番嘘をついちゃいけない人だから!
「もーいーじゃんそれで。マシュー氏だってガクしゃんと共倒れは嫌だろー! それに、村だって変な噂流されたくないと思うよ! 」
「····くっ」
「はい。決定。その代わり····」
その代わり。の、ガクを助手にする話をマシューは渋々承諾した。
まさか上司に嘘の報告をすることになるとは。何かあったら助けて下さいよ!
「じゃあ、ガクさんは良いとして、ルイス君はどうするんですか?」
え? 何故ルイスが出てくるんだ? マシューはルーナに尋ねた。確かに、ルイスには特別な印象を持った。放っておけないとも思った。
だが、それもここまでだ。彼には彼の生き方がある。村のことは解決したし、僕が介入する必要は、ないだろう。
「えーーー!? 何もしない!? 私はてっきり弟子にでも取るんじゃないかと」
何故そうなる
「どうやらマシュー氏のお人好しはこんなものだったようだ」
「見損なったぞ! 極めたならそれを貫け!」
何故そうなる!!!
「ルイス氏は確か異能持ちだよね。これからの、師がいない生活はかなり厳しいと思うけど」
マシューは考える。フレデリックの言うことには、一理ある。これまで、前例のない力を持った異能は煙たがられてきた。
だが、新時代から100年以上経った現在、異能保持者は少しずつだが増加傾向にあり、マシューの様に連合ギルドに勤める者も出てきた。
それは、同じ異能を持った『師』と『弟子』の関係が広まり、能力を反社会的に利用する者が減少していることが理由の一つだ。
しかし裏を返せば、師を得られなかった者は正常な能力の教育を受けられない。
まだ世界は光聖魔法が基準値だ。異能保持者は光聖魔法を上手く使えない。マシューも、これまで光聖魔法の訓練をしてきたが、未だに「ペンのインクの色を赤・青・黒に帰る」とか、「物体をほんのり明るく発光させる」などの下等魔法しか使えない。いや、下等魔法でさえ、使える者は限られている。
そう考えると、やはり僕と彼の境遇は似ている。
光聖魔法が使えない落ちこぼれ。当時貼られていたレッテルをマシューは思い出す。
(「おい! お前でいいから、俺の拳を授けてやろうか? お前がその気なら、最強にしてやるよ」)
そして、自信なく生きていたマシューを拾ってくれた、師の最初の呼びかけを思い出した。
あの時の師の目に、僕はどう映っていたのだろうか? どうして僕に能力の適正があると分かったのだろう?
弟子として、様々なことを教わった。でも『師』のなり方は、知らない。
今までは自分のことで精一杯で、そんなこと、考えたことも無かったからだ。
そうか····僕ももうそんな段階か....僕が、誰かの師匠に....
「先輩、どうしたんでしょうか? 急に笑っているようですけど」
「多分、師匠になった自分を妄想しているんだろうね。まだ取ってもいないのに」
うぐっ!?····確かに、その通りだけれど。しかも、仮にルイスに言ったところで承認して付いてきてくれるか分からない。
「え? 嫌です」
なんて速攻で断られたら、自惚れた自分への恥に殺される! それだけは嫌だ! ....やっぱりまだ早いかな。
「先輩、今度はため息ついていますけど」
「多分、弟子を断られたことを妄想しているんだろうねまだ取ってもいないのに」
とにかく! このままルイスと別れるのは、もったいない。弟子云々は置いといて、何らかの形で連合ギルドに迎える。賑やかな酒宴の真ん中で、四人は密かに、決意を固めた。
「まあ、100%マシュー氏に丸投げだけどね」
なんでじゃあああーーー!!!
そんな中、ルイスは、家族と一緒にこの時間を楽しんでいた。
「あ、そうだ。隣のジェラードさん。娘のロザリーちゃんを、ソード公爵領都市に住む妹の所に下宿させるらしいぞ」
ルイスは驚いた。ここからソード公爵領との距離は、相当なものだ。マシューらがいる連合ギルド集合都市よりもさらに離れた所にある。
「困ったことに、公爵領に住民以外の者が入るには関所に税金を収めなければならない。」
移動の費用も加えて、それは決して安くはない。だから行きはジェラードさんがもつことになっているとのことだが、
「おお、ジェラードさん。もう、そろそろですな」
ルイスの父が話をしている間に、ルイスはロザリーに会いに行った。
「ロザリー」
「あ! ルイス。 もしかして、下宿の話、聞いた?」
ルイスは頷いた。ロザリー一家とは隣同士同じように接しているが、実際は、向こうの方が所有する土地も圧倒的に多いし、財力がある。
だから、娘を社会勉強させるのにも納得できる反面、ルイスは少し羨ましい気持ちがあった。
「それでね、ルイスに秘密のお願いがあるの。聞いてくれる?」
「いいよ。何?」
「お願い! 私と一緒に公爵領に来て欲しいの!」
えええ!!! 公爵領に!? いや、でもそれは
「いくら叔母様たちがいても、知った村の人がいないと不安なの。お父様とお母様はこっちでのお仕事があるし、1番信頼出来てこんなこと頼めるの、ルイスしかいないわ!!!」
「待ってロザリー。僕も村から出たい気持ちはあるけど、いくら何でも無茶だよ。そもそも、僕は部外者だし」
でも、ロザリーは嘆願する。隣の村までは両親が送ってくれる。だが、その後の電車はロザリー1人で公爵領まで乗って行く。
隣村と公爵領は乗り継ぎなしで行けるからだ。
つまり、隣村での乗車さえバレずに公爵領に行ってしまえば、その後も叔母に頼めばほうって置くわけにはいかないだろうから、何とかしてくれる。
「ルイスのご両親は、ルイスを都会に出してやりたいってこれまで仰っていたわ。ご両親に内密に許可をもらえば、きっと大丈夫よ。ルイスだって、このままは嫌だって言っていたじゃない」
「願ってもない話だけど、僕はロザリー程の家柄はないし、ロザリー、本当は叔母さんが1番怖いんだろ? 大丈夫だって」
「それは合ってるけど、本当にこれでいいの? 今までルイス、とっても頑張ってきたじゃない!」
ロザリーがそう言ってくれるのは嬉しかった。でも駄目だ。俺に才能があるなら、それに合った環境が備わって生まれてくるはずだ。俺には、それは、ない。
その現実を逆に突きつけられているように感じて、このままじゃロザリーに八つ当たりして酷い言葉を言ってしまいそうだ。
この話はもう、終わりにしよう。
「ロザリーの気持ちは嬉しい。ありがとう。でも駄目だ。これはロザリーに与えられたチャンスで、僕のものじゃない。頑張ってね。応援してる」
ルイスはそう言って、立ち去ろうとした。
「あ、待ってルイス! もう少し話をーー」
これ以上は、辛くなるだけだ。いいんだ、これで!!!
ドン!
振り向きざまに誰かとぶつかってしまった。見上げると、あの、連合ギルドの
「あ、ごめんなさい」
「やあ、君たち。いきなりですまないけど」
「もうキスとかしたの? ボソッ」
へ? 今なんて?
「いきなり何言っとんじゃお前はーーー!!!」
物凄い勢いで男が吹っ飛んだ。男が立っていた所に怒り心頭な女性と、それに怯える男性と女性。フレディ博士にレオーネ防衛士長、それにマシューさんとルーナさんだ。
「レオーネ。その辺にしておこう!」
「そそそそうですよ! スキンシップですよ! ですよねーアハハー」
「····全く。で、マシュー。本題に入ってくれ」
了解しましたー。とまだ怯え気味なのを隠してマシューは前に出る。
対面するのはまだよく分かってない顔をしているルイス。
どんな反応をされるだろうか? 喜んでくれたらいいが。
「コホン。 では言います。ルイス。僕らと一緒に、連合ギルドに来ませんか」
「バンザーイ!!!」
ん? 誰だ? 聞き覚えのない少女のような声がルイスの側から聞こえた。
その声の持ち主の少女は、あまりにも嬉しいのか、ルイスの気持ちを追い越してルイスの手を取り、喜んでいる。
「ルイス、その娘は」
「ロザリーですわ。以後お見知りおきを。それよりも! ありがとうございます! やっと、やっとルイスの頑張りが認められたのですね!」
ルイス以上に喜んでくれる人がいるとは。もちろんルイスの両親もそうだが、家族以外にも。
人望がある面もみて、この提案が間違いではなかったと実感出来た。
「本当に、僕でいいんですか!」
もちろんそうだし、これからもそれを証明して欲しい。これは他でもない。君自身のチャンスだから。
「君のご両親にはざっくりと話したけど、賛同してくれたよ。さあ、もう君を止めるものはいないよ。どうする?」
「もちろん行きます! 行かせて下さい!」
「やったー! おめでとう。ルイス君! でも、具体的にどうするんですか? 先輩」
その事について、マシューはもう決めてあった(というかそれしかなかった)。
それはルイスを、『連合ギルド第二種採用枠職員』として迎える方法だ。
連合ギルドの職員には、第一種採用枠と第二種採用枠がある。
第一種は、連合ギルドが正規に採用している枠で、会社でいう正社員にあたる。給料も、ギルドの収入から得る。
その一方で、第二種は言わばパート業務で、仕事の内容は主に第一種職員の補佐をする。
給料は第一種より少ないが、労働時間は原則第一種の半分で、働きながら勉強がしたい学生や、他の仕事と掛け持ちしたい人におすすめだ。
更に、第二種には2つの雇用方法がある。
1つは、ギルドが募集をかけたものに第一種採用と共に応募をする公募採用。そして、第一種職員が推薦をして本人を雇う形で働く推薦雇用だ。
現在、マシューに雇われているルーナが第二種職員かつ、推薦雇用だ。
「····なるほど、これからルイス君は私の後輩になるってことですね。でも、ルイス君を雇って私の給料が減るのは嫌ですよ。私は他のパートと違ってエブリデイフルタイムワーカーですから!」
ううっ! 頑張って出世します!
「宜しくお願いします! ルーナ先輩」
「私が、わたしが先輩と呼ばれる日が来るなんてぇー!!!」
よし。これでほとんど完了だ! あとは、村長ともう一度手続きを済ませれば明日の夕方までには帰れる!
村の方々は優しいけれど、そろそろ家に帰りたい!
マシューはホームシックだった。こんなに長い出張は初めてだったからだ。今まで仕事と正義感で突き動かされてきたが、それがなくなった今、本当の意味で安らぎが欲しい。
身長180cm近く、筋肉質の体を持つマシューの性格は、意外にも内向的だ。後者はあまり隠せていないかもしれないが、マシューは生粋のインドア派で東洋のアニメが大好きな、いわゆる「陰キャ」だ。
いや、陰気さを筋肉で隠した、「筋キャ」だ。
とにかく、今1番マシューがしたいのは、録り溜めた「優等生よ俺の前だけ眼鏡を外しておいて意味はないはない!!!」略して「俺前メガネ」の4話を見ることだ。
人数確保のために半ば無理やり文学部に入らされた主人公と、何故か部活の時だけ眼鏡を外す優等生の少女との恋愛ラブコメストーリーだ。
最近では欧州にも東洋、特に旧日本の恋愛ラブコメに影響された作品が登場しているものの、やはり原点に近い21世紀風の作品には及ばない。
何だか物凄く話が逸れているかもしれないが、とにかく! 早くお家に帰りたい! ラブコメ見たあい!!!
「....先輩、本音、出ちゃってますよ」
「まあ、そこまで強く推すなら、見てみても、良いぞ」
「科学の参考になるなら····やっぱり止めておくよ」
「?」
埋まっていた地面から復活したフレデリックを始め、一時みんなに奇異の目で見られてしまったが、何とかやり過ごして、酒宴は終わりを告げた。
翌朝
「おはようございます。サウロさん」
「おお、朝早くからすみませんなマシュー殿」
現在、朝7時。少し早いが、二度目の調整会議を始めた。
もうお互いに隠していた膿は出し切った。やっと嘘偽りない真剣な話し合いが出来る。
「では、改めて、村の現状、そしてこれからの発展を加味をして、こちらの値段でどうでしょうか。ルイス君が村を代表として連合ギルドに加入する分だけ減額してありますが」
「うむ! 今さらどうこうは言わん! 私が言えることではないが、これからもどうぞ宜しくお願い申し上げる」
深々と頭を下げられてマシューは慌てて頭を上げるようにお願いする。
連合ギルド加盟のメリットを改めて説明すると、まず連合ギルドに寄せられた依頼を代行して行うことが出来る。
インターネット上から代行可能クエストの契約をして納品をしたり、討伐なら、討伐後に連合ギルドの一時仲介を経て達成報告をし、報酬を受け取ることが出来る。
次に、災害や紛争で村に被害が加えられた場合、復興のための補償金の支給を受け取れる。
更に、代行クエストの貢献度に伴って、村を開発する場合に開発費の補助金や人員の派遣が出る。
「ではこれで、全ての手続きを終了します。長いような短いようなって感じですが、お疲れ様でした」
12時15分。メンバーが1人、いや、2人増え、いよいよ別れの時となった。
帰還のついでに、ルイスの幼なじみのロザリーを公爵領まで送っていくことにした。
予定より早いから暫く連合ギルド集合都市に滞在することになるが、支部内には客人用の宿泊部屋もあるから大丈夫だろう。それに、ルイスと一緒の方が安心できるようだ。
「ルイス! しっかりやっておいで!」「マシューさんの言うことちゃんと聞くんだぞ!」
「もちろん! 今まで以上に頑張るから!」
ルイスとロザリーが一時別れの挨拶を済まし、レオーネが設置した転移魔法の魔法陣の中に入る。これで全員だ。
「では、我々全ての未来に幸あらんことを願って、一時の別れとする。さらば!」
レオーネの台詞が決まり、転移魔法が発動する。
新たな顔ぶれに新緑の風が優しく吹きながら、物語が、始まろうとしていた。
始まりの異変は、1章でもあり、0章でもあります。これから、章あたりの文字数を今まで以上に考えながら作って行きたいと思いますので、どうか読んで下さい。宜しくお願いします。