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剣魔未来〈 剣に触れるもの 〉  作者: 数間サハラ
始まりの異変
4/13

始まりの異変 04

マシューらは武器商人らの制圧を実行する。しかし、頭のキレるリーダー。シグマによってレオーネ率いる防衛士は奴に出し抜かれてしまう。奴らの狙いは、そして、マシューらの逆転劇は!

「先輩! レオーネ防衛士長が戻って来ました。」


 阻害魔法を突破してレオーネが帰還する。本部はこれまでにないほど緊張が走っている。奴らが、村に攻めてくる。まさか武器商人のリーダーがここまで仕掛けて来るとは思いもしなかった。大事な商売道具を惜しみなく使い、防衛士を出し抜いたのだ。


「すまない....。私の未熟さを晒してしまった」

「いや、今回は相手の方が上手だっただけだ。とにかく、このままでは村が破壊されてしまう」


 そうだ。思考を止めてはいけない。先程の砲撃、運良く建物に直撃しなかったものの、何発も撃たれたらたまったもんじゃない。


「誰でもいい。何か策を思いついたものは言って欲しい。」


 レオーネの言葉で、少しだけ現場は冷静になった。初めてのケースで、しかも相手に利を取られたにも関わらず、動揺をなるべく表に出さずに事に当たろうとしている。作戦は失敗してしまったが、そこは褒められると思う。


「とりあえず、村のみんなを村の外まで避難させませんか」


 ルイスが提案する。村人は今、部屋の地下室に身を隠してもらっている。しかし、村が戦場になり奴らが家に侵入し、地下室も略奪目的で入ってくるかもしれない。それは避けたい。採用だ。


「報こーく。敵数、64人。例の三人が20人ずつ率いているみたいだよ。あんまり時間もかけられないね」


 フレディ博士が淡々と話す。一緒その情報だけを受け取ったが、すぐにその場の全員が疑問を持った。なんで分かったんだ!


「だーかーら、言ったじゃん。 隠密部隊、必要でしょ」


 現在、武器商人一団の上にはフレディ博士が作った超小型ドローンが静かに監視をしている。

 レオーネはこれまで隠密部隊などの諜報員を採用しなかった。魔獣討伐以外の任をあまり経験していない所もあるが、諜報員は何かあった場合、命の保障が薄い上に人質にされると相手の要求を飲まざるをえなくなるからだ。

 情報は戦略を立てる上で最も重要だ。しかし、それは命と比べるまでもなく軽いし人質という弱点を相手に与えに行かせる気がして、レオーネはその恐れが堪らないのだ。


「すみません。フレディ博士。感謝します」


「君はどうせ部下が死ぬのが怖いからいつも前線に立っているんだけれど、君が機能しなくて総崩れじゃ話にならないよね。僕が言えることじゃないんだけど、上に立つっていうのはね、得るものも失うものも全て取り込んで、糧や活力にするんだよ」


「....はい。」


「どんなに優秀な戦略家だってね、一人も死なない策なんて考えないよ。失ったものを糧にして、それ以上を守ることを考えればいいんじゃないのかな」


 フレデリックの言葉にレオーネが涙を流す。彼女の実力が本物だったことが、彼女の弱点になってしまった。失敗を経験させてしまった。でもそれさえも、飲み込んでしまえばいい。ここからの彼女は更に本気だ。なら、僕らも答えなくてはならない。


「提案って程ではないんですが、山にはまだ防衛士が残されていて、こちらに向かって来てますよね。彼らを何とかして策に盛り込むことは出来ませんか」


 マシューの発言をレオーネは暫く考えた。そして、次の作戦は決まった。


「村へと戻る本隊と、こちらの勢力で挟み撃ちの形態を敷くために今から敵勢力に当たる。それと同時に村人への避難を開始する。

 九番小隊は村人を隣村まで避難させた後に加勢。十番小隊は村に防護結界を張り、村への攻撃に備えろ。」

 その時ちょうど、十一番小隊と十二番小隊、到着の報告を受けた。

「よし、作戦を開始する。今回の敵は実弾を使用する可能性が高い。防衛職は盾の強化をするように」

「了解! 」

「レオーネ。僕もある程度戦力になるから加勢するよ。」

「俺も、加えて下さい! 村のことなのに何もしないでいるのは嫌なんです」


 駄目だ....といっても無駄だと言わんばかりの目でマシューとレオーネに訴えかけてくる。彼の熱意には目を見張るものがある。マシューがルイスの護衛をする形で、レオーネは許可をした。

 さあ、ゲリラ戦の開幕だ!



「アルファ、今の連中の動きは」


 武器商人のリーダーこと「シグマ」は、進軍をしながら戦況を見ていた。


「はい。現在、後方の約96人は移動魔法を使いこちらに向かって来ますが、我々の設置した阻害魔法により時間がかかっているもよう。そして....」

「どうした」

「村の本部に動きが、こちらに向かって来ています。」


 なるほどな....俺たちと村の距離を考えた上での良いタイミングだ。恐らく、お互いに様子を見ることが出来る状態。....とすれば。


「こちらから先に仕掛ける。睨み合いをしていては挟み撃ちになり、連中の思うツボだ。後方の敵が来る前に村を突破するぞ!」


 おおおおおおお!!! 喚声があがる。


「ベータ、機爆大剣を打ち込む。準備しろ。ガンマは六穴式機銃を温めておけ。」

「了解」

「承知」


 さあ、奴らはどこまで持つかな。



 防衛士を前線に、村の外の開けた場所を進む。あと少しで山に到着する。奴らがそこに潜んでいることは分かっている。本部ではフレディ博士が相手の様子を監視してくれている。さあ、どう来る。


「報こーく。あと10秒くらいでA級のヤバい武器が飛んでくるよ」

「ちょっと! なんでもっと早く言わないんですか!」


 マシューが列の戦闘に立つ


「だって相手の準備が早いんだもの。マシュー氏なら止められるでしょ」

「ええ、止めないと不味いですからね!」


 マシューは右手に力を込めると、マシューの右手が青白色に光る。

 そして、とてつもないスピードでその武器は姿を現した。

「先ぱーーい! 来ましたよーーー!」

「止められるのか、マシュー! 」


 まあ、見ててくださいよ!


「どりゃあああーーーー!」


 大きく右手を振りかぶり、手は握っている。そして、飛んでくる剣を、


「殴った!?」


 ルイスが思わず声に出す。盾などを魔法で形成し、止めるならまだ分かる。

 だがマシューは素手で、その武器右手には以前彼が話してくれた、剣触(ブレーダー)の力が働いているのだとは分かるのだが。

 それでもあれほどの威力の攻撃に、腕一本で拮抗させているのだ。ルイスの中のマシューのイメージが跳ね上がった。マシューはとてつもなく、強い!

 暫くすると、マシューは拳を開き、落ち着いた様子で、まるで剣に触れるかのように両手で剣を、止めた。

 大剣は地面に落ちると、その部品がバラバラになってしまった。元々そのような仕組みなのだろう。

 すると、

 マシューらの前に一団が現れる。奴らだ。


「....よう」


 リーダーの呼びかけにレオーネが答える。


「貴様らが武器商人のグループか。さっきはよくも出し抜いてくれたな。今度こそ! 貴様らを逮捕する!」

「....若い嬢ちゃんが、大した度胸じゃないか。尊敬に値するよ。その様子だと、交渉の余地は無さそうだな。じゃあ、死んでも文句言うなよ!」

「ガンマ! 撃ち込め!」

「承知!」


 巨大な機銃が、タイヤの付いた設置台に乗って前に出てきた。威力は、恐らく絶大だ。


「盾班! 防衛開始!」


 ドドドドドドドドド


 凄まじい音をたてて実弾が発射される。盾班は何とか防いでいるものの、表情は苦しそうだ。もしこの盾を突破されたら。それを考えると、威力よりも恐怖の感情が頭を先行しているよぎる。ルーナを連れて来なくて正解だった。

 防衛士達は何とか銃撃を防ぎきった。次の攻撃までの鋼魔のエネルギー充填には時間がかかるようだ。

 だが、勿論これで終わりではない。


「今だ! かかれ!」


 ベータの合図で下っ端たちが攻めにかかる。機銃の攻撃で疲弊させた後に、剣部隊による近接攻撃で連合ギルド側を撹乱するつもりだ。混戦になっている間に充填を完了させ、再び機銃の攻撃に切り替える。厄介な戦法だ。


 しかし、防衛士は体にバリアを纏い、奴らが持つピストルの攻撃を防ぐ。体に纏うバリアは、設置する盾と比べて防御力は弱いが、永続的に効果が続く。そこそこの剣や銃の攻撃は防ぐことが出来る。

 防衛士が奮闘する中で、マシューも異能で攻撃を弾きながら下っ端共を蹴散らしていく。そして、ルイスも。

 戦う前に、マシューはルイスに自身の異能を付与していた。剣触異能は、他の人物に自身の防御機能を共有させることが出来る。

 マシューのように攻撃に転じさせることこそ出来ないけれども、今のルイスは武器に触れることが出来るのだ。

 今ルイスは、レオーネから預かった電磁弾を用いて戦場を遊撃し、敵を次々に沈めている。

 さしずめ、ルイスはこの戦場での「イレギュラー」となり、相手を掻き乱している。

 人数差で有利をとっていた敵が、今は逆に不利になっているようだ。いくら人数が多くても、戦闘のプロである防衛士には敵わない。一人、また一人と、体内魔力が機能停止して、倒れていく。



「武器商人のリーダー! 私と戦え! これは、恐れているのではない! このくだらない争いをさっさと終わらせるためだ! 」

「いいだろう! 大将戦だ。久しぶりに正々堂々やってやるよ。俺はシグマだ覚えとけ!」

「連合ギルド欧州支部鋼魔防衛部防衛士長。」


「レオーネ・ミッシェル。参る!」


 気がつけば、相手の数はこちらの半分以下になっていた。機銃は充填されているが、混戦が長続きしていて撃つに打てない状況だ。

 大将戦も聞こえはまさに正々堂々だが、裏を返せば、敵がこちらの要求に答えざるを得ないほど追い詰められている。と、捉えることが出来る。

 レオーネの剣と、シグマの左腕の義手が激しく打ち合っている間も、周りでは戦闘が続いている。

 そしてマシューは

「貴様、こちらの幹部だな。倒す」

「シグマの敵は排除する」

「邪魔する奴は蹴散らしてやるぜ!」

 アルファ、ベータ、ガンマの三幹部を相手にしていた。先程の機爆大剣を止めたことにより、目につけられてしまった。

 こいつらは下っ端と比べると明らかに強い。こいつらにやられてノビている防衛士がちらほらいた。油断は出来ない。


「くらえ!」


 ベータが切りかかり、アルファとガンマで狙撃をしてくる。だがベータの相手をしている以上、マシューを狙撃するにはかなり発射点を絞らなければならない。

 そのため、マシューはそれを予測して回避し、時に弾きながらでも十分に戦うことが出来た。

 相手は段々苛立ち、攻撃が雑になったことにより隙が見えだした。


(形勢逆転させて貰うぞ!)


 マシューは相手の右払いを弾き、腹部に突きを入れる。

「っぐはっ」

 ベータが背中を丸めたことにより、殴やすい位置に頭がくる。右頬に一発、左こめかみに振り突き、

 再び腹部に蹴り。相手がよろける。そこに、


「下顎砕破!!!」


 2、3mは飛び上がり、ベータは気絶した。下顎砕破は師から教わった技の一つだ。ただ顎を殴り上げるのではなく、自分のジャンプとタイミングを合わせて勢いを殺さないようにカマス! のがコツらしい。

 気がつくと、レオーネとシグマの大将戦と随分近い位置にまで来てしまった。アルファとガンマも、どこかに姿をくらませてしまった。戦況は、こちらに傾いている。マシューはそう確信した。



「諦めろシグマ! 貴様では私には勝てない」

「油断は禁物だぜぇ! 嬢ちゃん!」


 シグマの左腕に仕掛けられた刃が飛び出し、レオーネに襲いかかる。だが、


「一つ勘違いをしているな。これは油断では無い」


「確信だ」


 レオーネはその攻撃を焦点も変えずにあっさりと回避し、シグマに詰め寄る。


「響け! 雷撃刄動(エレクトロブレイズ)!」


 その言葉とともに、地面に魔法陣が浮かびあがる。突然の出来事に、シグマは反応が遅れた。次の瞬間。


 ギュロロロロロロロ!!!


 魔法陣内から高電圧の光聖魔法が駆け上がるようにシグマを襲う。


「ぐわあああああああ!!!」


 シグマの叫び声が戦況を止める。そして、その静寂が、戦いの決着を示していた。

 自分達のリーダーが、敵のリーダーの手によって倒れた。武器商人側の士気は、もうなかった。


「しかし意外だったな。一度は我々を出し抜いたんだ。転移魔法を使わずに逃げられないかヒヤヒヤしたよ」

「....あぁ? 転移魔法なんてのは、こっちの業界じゃ、取引で信用ならねぇんだよ。そもそも、お前たちは俺たちを見ていたことはわかってるんだ。どうせ死ぬまで追いかけるんだろ....」

「そこはよく分かっているじゃないか。さあ、さっさと手錠に掛けられろ!」

 終わった。完全に。これで、もう。


「ふざけるなあーーーーーー!!!」

「うわっ!」


 再び静寂を誰かが破った。その方向へ全員が向く。


「シグマーーー! もうすぐで我々三幹部にリーダーの座を讓渡するのではなかったのか! 村を相手にするからこんなことになったんだ! 」


 アルファだ。そして、その腕には、


「ぐうぅ....離せ!」


 ルイスが捕まっている。シグマが倒れた時に、全員がそちらに気をとられていて気がつかなかった。


「....っルイス!」

「動くなぁ! 前を見ろ、防衛士長さん?」


 レオーネの至近距離で、ガンマが機銃を構えていた。


「防衛士長だけじゃねえ! てめえらが一瞬でも余計な動きしたら蜂の巣にしてやるかな! 」


 今まであの機銃を使わせないように戦っていたが、巻き込まれる味方が減り、劣勢の状況になった今、その威力が息を吹き返した。


「しまった....盾を形成するには時間がかかる! 人質もいる、いや、我々全員が人質になったようなものだ....」


 ここは自分だけで判断するべきでは無いな。

 レオーネは本部に魔通をした。


「あ、レオーネ防衛士長!」

「ルーナか、フレディ博士は?」

「あ....あのー、ちょっと今、いないんです!」


 何をやっているんだあの予測不能科学馬鹿博士はーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!


「違うんです! ただいないんじゃなくて、あの、え? もう行くんですか! すみません、そっちに行って説明します!」


 は?おい、どうしたんだ! 応答しろ!……切れたか。全く、こんな時に何をやってるんだ。


「女! ごちゃごちゃ独り言言ってんじゃねえぞ!」

「いいか。俺たちが10秒数える。それまでに撤退を始めろ。さもないと、人質も! お前らも! 全員死ぬ。」


 状況は刻一刻と悪化している。どうすれば....どうすればいい!

 10

  9

「レオーネ! 魔法で僕を転移させろ!」


 その時、マシューが突然通信を入れてきた。


「転移!? どういうことだ!」

  8

  7

「『自己転移』ならバレるけど、『他質転移』なら設置型じゃないからバレない!」

  6

  5

  4

「でも、成功するかどうか、」

「僕を銃口に! 早く! 君になら出来る!」

  3

  2

「っ! ええい! 一か八かだ! 」

  1

「いくぞ! 他質転移!」

  0


 ドドドドドドドドドド!!!



 恐怖の発射音が、再び鳴り響く。全員が、目を目をつぶった。しかし、


「うおおおおおーーーー! 」


 一人の青年が、おびただしい攻撃を目を見開き、突き出すように両手で、いや、もはや全身で受け止めている。

 マシューだ。


「マシュー!」


 他質転移が成功したとしても、これ程の攻撃までもを受け止めるとは、誰が予測しただろうか。

 少しだけ押されてはいるものの、マシューに当たった弾は勢いを無くしながら四方八方に飛散して落ちる。


「レオーネ! 今のうちにルイスを!」

「了解した!」


 レオーネがアルファ目掛けて掛け走る。距離はそこまで遠くはない。きっと奴からたすけてくれーー


「っ! なんだこれは! 」


その時、レオーネの体に痺れが走り、動きが一瞬止まった。


「阻害魔法だよ! 数時間前に同じようなのあったろ!」


 まさか、あの時の阻害魔法を仕掛けたのは!!!


「仕掛けたのは、俺だ! あれは魔法阻害だが、これは移動阻害なんだよ! あんたらの世界じゃ!」


 アルファがナイフを振り上げる


「こんな数秒が!」

「待て! 止めろぉ!」

「命取りなんだろう!」

「止めろおおおおおお!!!」


 剣が、振り下ろされる


  ーーーーーーーーーーーーーーーー

 この数秒で、ルイスはあることを思い出していた。


 ~~~

 村に帰還後


「ああ、ルイス。異能について言い忘れてたことがあるんだ。」

 それは、異能には使用段階が、未成熟な「暴走状態」がある。ということだ。

 暴走といっても、危険さを表しているのではなく、あくまでも使用者の意に介さず、異能が発現することを指す。だが、話の核はここではない。


「つまり、成熟段階に上げれば、僕の力を戦闘に使える。ということですか」

「そうなんだけど、それは至難の領域だ。直ぐに出来ることじゃない。」


 じゃあ、どうすれば。


「そこで、異能において重要なのは、想像力。だと僕は思うんだ。僕もそう教わったし」


 つまり、今の段階でこの力でなにが出来るか。寧ろ、どう使いたいか。そのイメージを想像ないし創造することが成熟段階に持ち上げる。

 同じ使用者が少ないゆえに、マシューのように教えを請える者も少ない。

 だからこそ、異能と個体の繋がりは大きい。光聖魔法よりも。


「異能を使いたい時、なんでもイメージするんだ。それが君の異能になる。あくまで、例え話だけど」

「分かりました! 特訓に瞑想も加えます!」


 ~~~

 そう、イメージ! イメージするんだ。俺、いや、異能(おまえ)


「邪魔ばっかりしないで、たまには俺を守ってみろーーーーー!!!」


 アルファが振り下ろされた剣が、刺さって、る!? けど、痛くない。刺さった感覚がない。というか、剣が体を透けている!?


 少しだけ掴んだみたいだな。上出来だ。


「ルイス! そのイメージを離すな! 」


 まさかルイスにここまで助けられるとは。後はもう僕達が。


「私たちが、いっぱしの大人として、貴様らを、きっちりと制裁してあげるよ」

「くそが! たかが一回凌いだだけで!」

「あれ?お前、私に言ったよな?」


 レオーネが目前に立ち、振り下ろすアルファの手首を掴む


「いデデデデデデ!? 離せ!? はなせぇ!」

「私たちの業界では」

「ま、待て!」

「こんな数秒が」

「よせ! 止めろ!」

「命取りになるんだ! 沈めオラ!!!」


 バギいぃぃぃぃゃやあああアアア!!!!!!


 世界が割れる音がした。殴られたアルファだったものは、5m以上吹っ飛び、言葉通り沈んだ。彼女はもしかすると、剣よりもこっちのほうが向いているんじゃないかな....とにかく、良かった。ならこっちも


「あのー。もう、弾切れてますよ」

「あ!? やべ、てか、どこだ!」


 ちょいちょい マシューが肩を叩く。


「っ! 後ろか!」

「もう遅いわ!!!」


 ぼぎぃぃぃぃぃゃやあああアアア!!!!!!


 再び下顎砕破をかます。ついついさっきのに対抗してしまった。....でもまさか余所見したまま引き金を引いたままで撃たれるとは思わなかった。間抜けな所はつくづく間抜けだな。

 なにはともあれこれで完全に、勝利だ。

 フレディ博士の言葉から死亡フラグが立たないか心配だったけれど、例のバリアを纏っているのだからこの程度の奴らに死ぬはずはないし、死ぬ訳にもいかないな。


「おーーい!」


 声が聞こえる。武器商人らを拘束しながら振り返ると、荷車にかなり大きい武器のようなものを乗せてゴロゴロ押しながらこちらにやってくる。フレデリックとルーナだ。


「先輩! お疲れ様です!」

「ありがとう。ルーナ」


 先輩と部下の健全な会話の横で、一人の科学者が落胆していた。


「何で!なんでもう終わってるの! なんの為にこんな苦労を! せっかくこれをお披露目しようと」

「あーーーっハッハッハ! 骨折り損だったな! 普段の行いが悪いからタイミングを神様から見放されたんだ!」


 レオーネが高笑いをしている。なんか段々彼女、性格変わってない?


「防衛士長!」


 レオーネに魔通が入る。物凄い勢いで走っている様子の防衛士の本隊だ。


「お前達、無事だったか!」


 レオーネの呼びかけに対し、一番小隊隊長が走りながら答える。


「遅れてすみませーん。実はですね、この武器商人らと取り引きをしている別のグループが、時間を間違えたみたいで、例の呼吸湖にまんまと現れまして。そっちを制圧していたんです。」

「そうか! 流石はただでは帰らない欧州支部の防衛士達よ! 私の汚名は今、返上された!」


 再びレオーネがハッハッハと笑って答える。まさか裏でそんなことがあったとは。


「それとー、もう一つ、報告がありまーす」

「なんだー!」

「助けてくださーーーーい!!!」


 助けて下さい? どういうことかと思った。その時、


 ドラララララララララララララララララ!!!!!


 けたたましく地面を蹴る音と共に現れた巨大な何か。と、それに追われている防衛士本隊が山を抜けてこちらに向かって来た。


「洞窟深部にいるはずの魔獣。『ドラララ』の成体と鉢合わせしてしまいました!!! 助けて!」


 何を連れて来てるんだ貴様らはーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!


 レオーネの態度がさっきと打って変わる。何故なら、ドラララは普段は大人しいが、怒ると手がつけられなくなり、狙った相手は命尽きるまで追いかけて来るのだ。そう、命尽きるまで。


「ドラララは住処を荒らさなければ滅多に出てくることはないだろ! 何故こんなことに」

「我々ではありません! 既にこいつは怒り心頭の状態だったんですよ」


 洞窟....荒らされた....あ!


「お前たちだろ! 洞窟を荒らしていたのは!」


 マシューが武器商人らを睨む。シグマはバツが悪そうに下を向いた。


「はあ。もしかして、その洞窟には水色に光る鋼魔が多く生成されていなかったか?」

「ああ、どうして分かるんだ?」

「それが! ドラララが棲む証拠だからだ!」


 人間には分からないが、鋼魔にはその成分によって属性がある。

 人間が鋼魔を加工したり燃料に使用する場合は、空気中の鱗粉化された鋼魔と反応し、不純成分が混じってしまう。

 しかしそれが、どんな魔法や科学にも転換出来る汎用性を生み出しているのだ。

 だが、魔獣というのは鋼魔を食し、体内で不純物が混ざることなく鋼魔の成分が吸収される。

 そのため、魔獣の攻撃は一つの属性に偏っている。汎用性はないものの、属性が付与された強力な攻撃を放つことが出来る。

 ドラララの場合、水色の氷水系成分の鋼魔を好むのだ。

 ちなみに魔獣が死亡すると、体内から増殖性鋼魔が発生し、周りに鋼魔を増殖させながら体が腐敗していく。これが、たまに洞窟を形成しながら腐敗が続く場合があるのだ。

 ってそんな場合じゃない!


「現在、距離は1.5キロ。時速約70km近くでこちらに向かって来ています。」

「盾班! 準備! 何としても止めるぞ! 」


 全員に再び緊張が、はしる。敵の後にまた敵。どの防衛士も疲弊している。非常にまずい状況だ。だれもがそう思っていた。この男以外は。


 ニタアァ


「ふ、ふふ、ふはは....」

「あーハッハッハッハッハッハッハ!!!」


 フレデリックがなぜか一つ、高笑いをしている。


「フレディ博士! こんな時に一体なにがおかしいというんだ!」

「え!? 分からない? レオーネ君。 だってわざわざ現れてくれたんだ。実・験・体 がぁ!」


 そう言うとフレデリックは武器の調整を始める。

 だがマシューがざっと聞いた話では、あの武器の威力は理論上、圧倒的な破壊力だ。魔獣どころではなくなるのではないか!?


「おい! 本当にそれで倒せるのだろうな!」


 いや、レオーネ。別の心配をした方がいいと思う!


「二人とも安心したまえ。この武器には私が開発した内部変圧動線作動装置を加えてある。動線を作動すると圧縮過程の鋼魔エネルギーが動線を伝って圧縮率を軽減してその伝導動線本数を調整することによってーー」

「なんでもいいから早くしろ! もうそこまで来ているんだぞ!!!」

「はいはい。じゃあ見てて下さいよーーー!」

 

 どうやら準備が出来たようだ。武器の中には圧縮材料の鋼魔が敷き詰められている。


「本隊のみなさーん! 僕が5秒数えるから1で避けて下さいねー。じゃないと死ぬから」

「おい! ちょっと待て! ドラララも光線を履こうとしていてーー」

「じゃあ尚更避けて下さい5・4・3・2・」


 おいおい! ちょっとカウントが速すぎる! いくらなんでも。


「あ! 俺たちもう転移魔法出来るんだった」


 何故もっと早く気がつかない!


「1」


 0


すみません。始まりの異変が、終わりませんでした! まだ続いてしまいますが、宜しくお願いします!

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