始まりの異変 02
タイトルを少し変えました。もしかしたら、これからも変わるかもしれません。まだマシューとルーナばっかりです。都合のいい展開かもしれませんがお許しをば
「え? トイレがどうだったか?」
「そうだ。気分が悪くてよく見てないかもしれないが....」
マシューはあの後、すぐにルーナを宿泊部屋へ連れて帰った。店長に悟られては困るからわざとこちらは何も思っていない素振りで慌てながら。
マシューは一瞬しか見られなかったが、むしろそれで良かったのだ。頭がシラフで冷静な自分に見られたと思われれば警戒されているに違いない。
「確かですね....ああ!水洗式で最新のものでした!ボタンもありました。でも変ですね。トイレだけ新しくしているなんて」
変だと感じてくれれば充分だ。間違っていない。マシューはルーナに説明した。この村は
「発展状況を隠蔽している可能性がある」
「えええええー!それって、駄目なやつじゃないですか」
発展状況によって納税額が変わる。それは単純に発展しているから高い。してないから低い。だけではない。納税額に段階はない。
ギルドと連合ギルドがお互いに腹を割って話し合い、どの額がギルドにって適切か、真剣に話し合う。連合ギルドは他のギルドより上位をとる。
だからこそ、信頼を得るために手間がかかることでも懸命にこなしていた。マシューだけではない。他のメンバーも同じだ。
だが、誤魔化しをするギルドは減って来てはいるものの、まだ存在する。それが分かった時、マシューは憤りと共に連合ギルドの信頼の無さを痛感する。
「ただ、今のだけじゃ証拠不十分だ。まだ泳がせておこう。ルーナは引き続き村の方と話しながら情報収集。違和感があれば知らせてくれだが時間がない。出来るなら早く尻尾を見せてくれればいいが」
「違和感....一つだけなら。村の方とお話する時、何故かお家に入れてくれないんですよ。子供達に遊びに来てと言われて行ったら....」
マシューはより黒に近い勘が見えた。
翌日、マシューは村長に会いに行った。
「ギルドに関しては特に問題はありません。村の状況を加味すると、納税額はこの値段が妥当であると考えますが、いかがですか」
「ふむ、これならば問題ないだろう。宜しく御願いする」
「分かりました。では、こちらの書類の同意条件に同意後、サインしてください。我々は書類の提出のために1度連合ギルドに戻ります。正式な許可の手続きは時間がかかりますが、内容が覆ることは基本ありませんのでご安心下さい。手続きが完了次第、連絡致します。」
その後、村長がサインした文章を持って、マシューは話をしていたルーナを呼び、午後には村を去って電車に乗った。
「あの、もういいんですか。まだ私何もしてないんですが」
「いや、昨日までで充分仕事してくれた。それに、僕らがいない方がいいと思ってね。一番近い村でもかなり離れている。そこに拠点を移して動向を見張ろう」
「でも、どうやって」
「不本意だけど、これを使う」
マシューが取り出したのは小型のレコーダー、盗聴器だ。調査の派遣に行く人事部の職員はギルドが不正をした場合、証拠をとるために暗黙に所持を義務付けられている。マシューは村長と話していた際にテーブルの裏に設置していた。
次の日、マシューはその1日の録音源を聞いていたが、怪しいやり取りはなかった。
「うーん、まだすぐには出ないか」
「あの、インフラ整備は発展状況とは関係がない場合もありませんか。あくまで可能性の話ですけど」
たとえインフラが整備されているとしても、それがあくまで村の領有範囲内だけなら確かにルーナのいう通りだ。
村の発展状況は村の財や利潤となるものの有無で判断するから、ルーナの考えるように例外も存在する。もちろんその可能性も考えた。
だが、それならわざわざ隠す必要はないし、隠す方がかえって不利に働く(実際今働いているし)のは誰でも分かるはずだ。
....とすれば、それ自体を隠したいのではなく、最も隠したい別の何かがあるのではないか。マシューは仮説を巡らせるが、もう時間はない。ルーナにも心配の念を抱かせている。
「すまない、ルーナ。もう1日だけ待ってくれないか。明日何もなければもう帰ろう。」
「分かりました。でも、私は大丈夫です。こういう時の先輩の勘が強いの知ってますから」
だが、夜も特に何も起こらず、時間だけが過ぎていった。
次の日、マシューは荷物の片付けをし、ルーナに傍聴してもらっていた。
(僕の推理が間違っていたか....怪しいと思ったんだけどな)
荷物を整理し、上司にも連絡をした。後は帰るだけだ。
「終わったよ。ルーナ、巻き込んで悪かった。今から帰ろう」
マシューはそう言って荷物を持ち、部屋のドアに手をかけかけた時、
「あ! 、あ! 、先輩! 待って! 出ました!
証拠ぉぅっ!」
ルーナに思いっきり引っ張られた。
マシューらが村を去った2日後、ルイスは村長に呼び出された。
「どうしました。サウロ村長」
「おお、来たかルイス。話と言うのはなーー」
「お前にもそろそろ仕事を覚えて貰おうと思ってな」
ルイスが話を割った声の方を振り返ると、ガクが入って来た。
「ガク、お主はいい。ワシから説明をする。」
「サウロ、どうせお前は甘いから、こいつのことを見逃すことは知ってんだよ。そういう訳には行かないからな。それと、盗聴器なんて仕掛けられていないだろうな。」
「そ、それは隅々まで確認した....」
「村長、一体どういうことですか」
「だから、俺が説明をしてやるんだよ。お前はな、これから俺の武器商売に加担して貰う。」
ガクは魔法武器では無い、嘗て存在していた魔法を用いない動力源で作動する銃火器の武器を違法に売る武器商人だと説明した。
「は? ガクさん、俺に犯罪に加担しろと言うのか。そんなのお断りだ」
「....そうか、それならお前ら一家の家は明日からこの村にはないと思え。それと、」
この村のインフラ整備を全て機能停止にする。ガクはそう言って去ろうとしたが、村長が慌てて止め、ルイスに説明を足した。
この村は農産業とは別に武器や弾の組み立て、武器の納入先との取引をガクに強いられているのだ。
「お前の父親も母親も、お前が生まれる前からやってんだよ。お前の選択肢は元々、1つだけだ。俺を殺したって無駄だぜ。すぐに新しいやつが来るだけだからな」
どうやらガクは武器商人のグループと契約をしているようだ。
「ルイス、すまん。ワシが力不足なばかりに....」
ガクは若い頃に村に入り、村全体に電気や水道などの整備をもたらすことで村からの信頼を獲得した後に、村を脅した。
当然村人は反対をしたがこれまでの便利な生活を打ち切られること、更にガクの後ろにある武器商人のグループを恐れ、これまでガクに加担していたのだ。
「そもそもだな、ギルドなんぞを作る時点で違反行為になりかけてた所だったんだ。俺がわざわざ上に頭下げてやったから今お前らは生きてられているんだよ。それ分かってんのか! ルイス。....なんだその目は。お前がどうしても嫌だって言うなら....お前と仲がいい年下の女のガキ、仕事をするにはまだギリギリだが、あいつに請け負って貰うよ」
「やめろぉ! ロザリーを巻き込むな!」
「そうだなあ。洞窟で採取した鋼魔磨きでもして貰おうか。確か、最近そのあたりに魔獣が出ているらしいから囮にはなるかーー」
「だから! その話をするな! やるよ! やるから。これ以上俺を怒らせるな」
ルイスがガクの胸倉を引っ張る。だが、ガクはあっさりとルイスを投げ飛ばした。
「ぐわっっ!」
「ルイス! 大丈夫か!」
「お前を怒らせて何になるんだよ。返事するなら早くしろ」
ガクは服を整えながら説明を再開する。ルイスの仕事は2日後、村の山の中でガクに従って武器の納品の現場に行って取引をすること。その後は父親、母親の仕事を共にする。
「じゃあ、2日後の夜に俺の家に来い。来なかったらお前の大事なロザリーをお前と一緒に魔獣の餌にしてやるよ。あ、一緒に死ねるなら本望か。これは愚策だな」
笑いながらガクが村長の家を去る。村長は膝をついてルイスに謝る。
「すまん....ワシは村長失格じゃ」
「サウロさん! 何とかならないんですか。あのマシューさんとルーナさんなら何とかしてくれないのですか」
ルイスは村長に提案するが村長は首を横に振る。連合ギルドの職員との内通など知られたら、それこそ村は全滅だ。
魔獣の出現を機に、サウロはガクに頼み込みギルドを設立し、とりあえず連合ギルドの職員を呼ぶことには成功した。
しかし、ガクからは証拠を掴まれないように言われ、マシューらに助けを乞えないことがサウロは何より、もどかしかった。
そして頼みのマシューとルーナはもう帰ってしまった。どうしようもない絶望感がマシューを覆った。
マシューはルーナに代わって事の内容を聞く。マシューは勝ちを確信した。
「よし、証拠が手に入ったし、今からまた村に戻ろう」
「はい! ....でもよくバレなかったですね。村長さんはくまなく探したって」
「ああ、実は僕が設置したのは、盗聴器じゃないんだよ」
結構前の日
「あ! アンドリュー氏。探していたぞ!」
げっ! その声は....
「こんにちは....フレディ博士」
フレデリック・J・ソディック。通称フレディ博士。連合ギルドの科学者。マシューと同じ欧州支部に鋼魔生産部科学生産課課長として所属したマシュー唯一の同僚。かつ、マシューが苦手な人間の1人だ。
「なんですか。この前の『話し方がロボットみたいになる薬』みたいな変な薬はもう飲みませんよ。」
「やだなあ、今日はその、この前。の、お詫びをしようと思ってね。君は私の貴重な助手である前に唯一の同期職員じゃないか。でも変だよね。何故か僕の部下は実験を手伝ってくれないんだよ」
それはあなたが助手ではなく実験台にしてるからだけどな!
「まあ、とにかくこれ、受け取って」
渡されたのは小型レコーダーのようなもの。フレディ曰く、録音するのではなく、設置したものをレコーダーにする」魔法×科学を結集したおもちゃ、らしい。
「人事部って確かレコーダー、所持しなきゃいけないんでしょ。これなら設置したことが絶対にバレない。悪いことするには最適ーーって君は善人の象徴みたいな人柄だからいらないかもしれないけど」
「ありがとうございます。じゃあ遠慮なく」
まだ怪しさが拭えないが、元々変な人だし、今日は騙すつもりはないだろう。
「じゃあこれで貸し借りなしね。後、いつも僕に対して敬語だよね。別に同期なんだし、タメでいいよ。まあ一応僕の方が年上だし、階級もちょっと上だから言いにくいかもしれないけど」
「....そういうところですよ」
「....へー。凄いですね。私フレディ博士となんか絶対に話したくないですよ。」
そこかい。心の中でツッコミを済ませ、本題に入る。
「ルイスが同行する取引までまだ時間はある。十分に対策をしてから決行しよう」
「はい!」
(あれ。でもさっきマシュー先輩、誰かにに連絡してたよね。ボブ人事部長かな....大丈夫かな)
その日の夜ルイスは両親と話していた。
「父さん、母さん。俺もガクの商売をすることになったよ」
父は少し驚いた後、俯き、母は泣きながら項垂れた。
「そうか。とうとう来てしまったか....」
「ごめんね。ルイス。母さんが不甲斐ないばっかりに」
「母さん! それは俺とて同じだ。いや、俺の方が情けない。父親として、息子に未来を見せてやらなきゃいけないところを」
やっぱり、そうだよな。父さんも母さんも、やりたくてやっているわけなんかないし、それを子供にやらせたくだってない。でも....どうしようもない。俺は。でも、あの2人なら!
「あの二人なら、マシューさんとルーナさんならきっと何とかしてくれている。....ただの勘だけど、俺はそう信じてる。」
だから俺は行く。ルイスがその決意を伝えると、両親に久しぶりにハグをして貰えた。ルイスはその一時は少しだけ嬉しかった。
2日経過、朝
「先輩ぁぃ....まだ歩くんですか。疲れました。」
「もう少し歩いたら休憩だから、頑張って」
マシューとルーナは前日から登山の準備をして、山を歩いていた。ルイスの村を通って山に行く訳にはいかず、遠くの地点から遠回りをして行かなければならない。更に、山の中の取り引き現場を探す必要があった。
ルーナの高速移動魔法で10倍くらいの速さで歩いてはいるものの、それでも....キツすぎる。十分な対策と言ったものの、実際対策などあってないようなものだ。
これ程広大な山の中で取引をすることは、どこかに必ず決められた集合場所があるはずだ。それを今、行き当たりばったりで探している。
出張に出かけてから1週間近く家に帰れていない。僕もルーナもストレスが半端ない。
「先輩。この辺り、ルイス君の村の地点ですよ。ここを中心に探しましょう」
それでも、僕を信じてここまで付いてきてくれる。ルーナは最高の部下だ。
暫く探しているうちに夕方になった。いよいよ時間がない。半径200m圏内は探したが、見つからない。
いつでも連絡が取れるように魔通という通話の魔法でやり取りをしているが、ルーナから連絡はない。
「ルーナ。そろそろ戻ってきてくれ。」
「分かりました。すみません。見つからなくてーーきゃぁぁぁ!!!」
ルーナの悲鳴が聞こえた。恐らく、山の斜面で滑り落ちたのだ。
「ルーナ! 魔通を切るな。今助けに行く!」
魔通が切れる前に、マシューはルーナの元へ急ぐ。そして、マシューは少し大きな窪みを見つけた。窪みのそばに来た時、凄まじい水の流れる音が聞こえた。
(しまった! 川があるのか。もし流されていたら、大変なことに!)
マシューはロープを木に掛けて慎重に降りる。幸い、ルーナは斜面の途中で止まっていた。
「大丈夫か! ルーナ! 怪我はないか」
「はい。何とか。あ! それよりも先輩。見てください。これを!」
ルーナが指さした先をマシューは見て驚いた。水が勢いよく地面に吸い込まれているように無くなっていく。
「これは....まさか、『呼吸湖』か!」
呼吸湖。山の中にある、定期的に水が満ち干きをする少し珍しい湖。地面がカラカラになるほど水が無くなる所から呼吸のイメージが付き、そう名付けられたという。
「ここじゃないですか! 取引場所。絶対そうですよ!」
「ああ、ここで待ち伏せしていよう。必ず来るはずだ」
その時、5人の男達がマシューらを発見した。
「お前ら! そこで何してる」
早速先客が現れたか....まあ、くたばれ!
日が沈んだ後に、ルイスはガクの元を訪れた。
「行くぞ」
「....はい」
大きな荷物を持たされて山の中を歩き続ける。
まっくらだというのに、僅かな明かりだけでガクはずんずん先へ進んでいく。ルイスはガクを頼りに付いて行くしかなかった。
「こりゃ置いて行かれたらおしまいだな....」
「そうだ。だからつべこべ言わずに付いて来いよ」
暫くすると、山の少し大きな窪みがある場所で、ようやくガクは足を止めた。木にロープをかけ、するすると降りていく。
ガクの足が地面についたところで、ガクはルイスに荷物を落とせと命じた。
え!? これ、結構重いけど、大丈夫か?
少し不安だが、ルイスはガクに荷物を落とし、ガクはあっさりとキャッチした。
....こいつどんだけ怪力なんだよ。
「お前も降りてこい」
ルイスも降りて窪みの中に立つと、その窪みの中心に何故か小屋があるのを見つけた。
「先に来ていたか。来い。あそこで取引するぞ」
ガクに続いて歩き、小屋の中に入った。中には、フードを被った2人組が奥にいた。
「よう。来たか、ガク。で、そっちのは誰だ。新入りか?」
2人組の内の長身に言われて、ルイスは顔をしかめた。
「ああ、今日は見習いだ。それにしても、今日は確か5人で来るはずじゃなかったか?」
「3人はいない。今日は俺たちだけで急な要請に応えなくちゃ行けなくなったんだ。」
「ほう、それは、どんな要請だと言うのかな。」
短身が答えた言葉にガクは目を細めて質問した。
「仕方ない。応えよう。それは....」
2人組はフードの上着を脱いだ。
「お前を捕まえることだ! ガク」
2人組の正体に、ルイスは目を輝かせた。
「マシューさん! ルーナさん!」
ガクが舌打ちをした。
「....てめぇらか。他の5人はどうした」
「マシュー先輩がボコボコにして退治したもんねー」
べー。とルーナが舌を出す
「ガク! 違法武器製造及び売買。そして村人への恐喝の容疑で逮捕されて貰うぞ!」
マシューがそう言ってガクに近づくと、ガクはポケットからピストルを出し、ルイスの頭に向けた。
「お前に来て貰ったのは、もちろん見習いだけじゃないさ。」
「....ガク! 」
ルイスが未だに冷静さを保つガクを睨む。
「あわわわ、どうしましょう先輩!」
ルーナがマシューの方を向くと、マシューは目をつぶったまま答えない。
「先輩? 何してるんですか! ルイス君が危ないですよ! 」
それでもマシューは答えない
「ははははは! 時間稼ぎは無駄だ。大人しく引け! どう足掻いたってな、結局くたばるのはーー」
「お前だ。馬鹿者」
ガクが聞きなれない声を聞くと同時に何かを頭に突きつけられた感触があった。その直後、
ビリビリビリビリッ
激しい音と共にガクは意識を手放した。放たれたのは最近連合ギルドが開発した銃型B級武器の電磁弾だ。
ルーナは目を疑った。なぜなら、そこに立っているのは。
「先輩! まさか、あの時先輩が連絡していたのは!」
「正解! 僕が連絡していたのはーー」
「そう! いかにもこの私! 連合ギルド欧州支部鋼魔防衛部防衛士長」
「レオーネ・ミッシェルだ!」
最近、意欲だけは乗ってきています。この調子で自分の妄想をどんどん投下していきたいと思いますが、マシューくんが典型的なな〇う系主人公になっていれば、どなたでもいいのでご指摘ください。私もチート系は嫌いなのですが、やはり主人公に補正は今もないとは言えません。(マシュー君の勘が当たりまくっている件とか)なので、もし、暇な時でいいので、宜しく御願い致します。