37.5・リネア、おっさんをお持ち帰りする
——宴会も終わりに近付いてきた頃。
「ブルーノさん……ブルーノさん。起きてください。こんなところで寝たら風邪を引きますよ」
机に突っ伏しているブルーノの体を揺さぶっているのは——リネアであった。
「ん、ん〜」
なんとか起こそうと試みているが、ブルーノは起きる気配はない。
「困りましたね……」
リネアは頬に手を当て、困り顔をする。
テーブルに広がる食べかけの料理や、酒の空き瓶。
それを見て、リネアは「やりすぎた」と思った。
そもそもリネアはお酒に強い方である。
ブルーノが張り合う必要はないが、リネアに合わせるように酒をお腹に入れていき——。
結果、見事に酔い潰れてしまったのである。
「ん、ん〜、リネアぁ?」
「は、はいっ!」
急に名前を呼ばれたので、リネアは肩をびくつかせてしまう。
「ほ、本当に良かったな〜。これからも……ずっと一緒……だぁ」
そう口にしているものの、ブルーノは顔を上げる気配がない。
「そ、そうですね。ずっと一緒です! 私もずっとイノイックにいるから、ブルーノさんもずーっとこの街にいてくださいね!」
「ん、ん〜」
リネアはそう返すものの、ブルーノから答えは返ってこない。
——なんだ、寝言か。
ブルーノを見て、リネアは嘆息をする。
「本当に……仕方のない人ですね」
本当に仕方のない人だ。
色々関係は進んでいるものの、まだ会ってそれ程日にちは経っていないのに命をかけて助けてくれて。
それでいて、気取っている様子はない。
見た目は冴えない三十路のおっさんだ。
決して顔がカッコ良いとか、見た目がスリムだとかそういうのもない。
——ドクンッ。
ブルーノの寝顔を見ていたら、心臓の鼓動が高まった。
「普通に……歳を重ねたおじさんって感じなんだけどな……」
そうぼそっと呟く。
だが——。
「カッコ良すぎですよね——」
リネアの頬が紅潮する。
そうなのだ。
どれだけ見た目が冴えないおっさんであっても。
リネアからすれば、世界でただ一人の勇者なのだから——。
だから。
「ブルーノさん。こんなところで寝ちゃディック君達に迷惑ですよ。よいしょっ」
ブルーノの肩を、自分の首へと回す。
「ブルーノさんのお家に帰りましょ」
「ん、ん〜」
千鳥足のブルーノを立たせ、ディックの家から出て行く。
——たまには私から責めてもいいですよね?
ブルーノのお持ち帰りに成功し、ほくほく笑顔のリネアであった。




