35・おっさん、聖剣を作る
さて。
「まずは持ち帰ったアイテムを並べるか」
とはいっても、俺の家は超狭い。
夜にリネアが甘えた声を出したら、すぐお隣さんに聞こえるくらいだ。
……いや、お隣さんなんていないけどよ。
って俺、一人でなに言ってんだ。
《なに、一人で気持ち悪い笑みを浮かべてんのよ》
女神からもツッコミが入る。
まあ……とにかく! とにかくアイテムを並べよう!
『コボルトの宝眼×72』
『スライムの核×107』
『ゴブリンの神毛×56』
『ナイトバッドの羽毛×74』
『ゴーレムの魔石×26』
『オリハルコン×12』
『神の聖水ノスビット×7』
重ねたり、壁に立てかけたりしたら、なんとか素材の全てを家の床に並べることに成功。
「さて——やるか」
腕まくりをする。
作業に取りかかろうと、手を伸ばした瞬間。
《ああ! それ失敗パターン! 失敗するパターンになってるから!》
と女神に止められた。
「どういうことだ?」
《やる気出しちゃってるでしょ! 自分の力でなんとかしようと思ってるでしょ! そういう時って、大体失敗してるでしょ!》
「それもそうだ」
時には集中力は必要になってくるが、やる気なんてものはいらないのだ。
スローライフに関することが過度に実現する。
スキル【スローライフ】様の恩恵を授かるためには……。
「……そういや、洞窟に行って疲れたしな。魔法使いとの戦いの前に一眠りしておこうか」
おやすみなさい。
素材に塗れながら、横になる。
《……相変わらず寝付きは良い——》
女神の声が遠くなっていき、ぐっすりと眠りに落ちていった。
——チュンチュン。
スズメの鳴き声が聞こえて、飛び起きた。
「い、いけない! 朝まで眠っちまったか!」
でもそのおかげで、頭の中は爽快である。
「そ、そうだ! 武器は——」
慌てて、顔を前に向けると——。
《やったわね》
女神から祝福の声。
部屋の中央。
床に一本の剣が突き刺さっている。
窓から差し込む日光が、剣の刀身に反射している。
持ってみる。
——握っただけで、まるで腕の一部になったかのようなしっくり感じ。
そのままゆっくりと剣を抜いた。
『聖剣エクスカリバー レア度SSS』
抜いた瞬間、その剣の情報が一気に頭に流れ込んでくる。
「おぉ……とうとうレア度SSSなんて武器を作っちまったか」
勇者ジェイクすらも持ち得ていなかった。
さすがに、これだけの武器を手にすると手が震えてくる。
《その剣さえあったら、魔王とも互角に渡り合えるわよ! さあ——その剣を持ち、魔王討伐の旅に出掛けるのよ!》
「なに勝手に盛り上がってるんだ?」
これさえあったら、相手の魔法使いがどんだけ強くても大丈夫だろう。
俺は剣を握りしめ、急いで家を出た。
「魔王なんてものには興味がない——俺は大切な人の涙を見たくないから、戦いに行くんだ」
◆ ◆
「武器は作った。今からリネアを悲しませる魔法使いってのを懲らしめに行く」
聖剣を握りしめ、ディックの家へと直行し、みんなの前でそう宣言した。
「ブルーノさん……私のために嬉しいですが、本当に行くつもりですか?」
「当たり前だ。なんと言われようと、俺はリネアを悲しませたくない——そのために、リネア。ちょっとだけ手伝ってくれるか?」
「私でよければ!」
腰にぶら下げた聖剣を見て、
「本当にこんなのが強いのか?」
「マリーの剣の方が強そうなの!」
ディックとマリーちゃんが近寄ってくる。
「それについては心配しないで欲しい」
なんてたって、SSSランクの武器なんだ。
いくら俺が剣の扱い方が下手だったとしても、並大抵の相手なら苦戦するはずがない。
「少しでも危険だと思ったら、引き上げていいんですからねっ」
リネアが俺のことを案じてくれる。
「大丈夫だって——さて、まずはギルドに行く……いや、その前に」
なにもないと思うが、万が一失敗してリネアがさらわれてしまったら大変なことだ。
俺とリネアは、女騎士アシュリーが泊まっていると聞いた宿屋まで赴く。
「むっ……そのような不埒者がいるのか」
事情を説明すると。
アシュリーは声に静かな怒気を含ませて、そう口にした。
「協力してくれるか?」
「当たり前だ。というより、おっさんよ。そなたの手をわずらわせる必要はない。ここは私に任せてくれないか?」
「……ちなみにどうするつもりなんだ」
「なあに、簡単なことだ。この街の中央公園にでも行って『犯罪者は今すぐ出てこい!』と叫ぶのだ」
「そんなことして出てくるわけないじゃねえか!」
やっぱり彼女一人では任せられない。
「……俺自身でその魔法使いとかいうヤツと決着をつけたいんだ。だから気持ちは嬉しいけど……アシュリーは後ろで見ていて、もし危険だと思ったら出てきてくれたらいいから」
「むぅ……おっさんがそう言うなら」
渋々といった感じではあったが、アシュリーも納得してくれた。
「良かった。心強いよ」
これは本当のことだ。
なんだかんだで、王都の騎士団長の後ろ盾があるのとないのとでは安心感がまるで違う。
俺、リネア、そしてアシュリーと三人で次は冒険者ギルドへと移動。
「むむぅ? その怪しい魔法使いとやらに『エルフが見つかって引き渡したいから、来て欲しい』と言えばいいんだな?」
再度、デブ——じゃなくて、ギルドマスター(通称:ギルマス)を呼び出して、そうお願いをする。
「頼めるかな」
「当たり前だ。英雄おっさんにはギルドも世話になっているんだな。それくらいのことならおやすいご用だ」
快く引き受けてくれた。
「これで準備は万端だな……」
その後、ギルマスが二人組の男とやらに連絡を取ってくれた。
内容としては、
『エルフを見つけた。引き渡したいから、西側にある時計塔まで来てくれないか』
というものだ。
程なくして。
「よし……少し怪しんでいたようだが、来てくれるようなんだな。でもどうしてあんなところを選んだ? 時計塔とは名ばかりで、もう時計は動いていないし誰も寄りつかない場所ということは知っているだろう?」
「ああ、ディックとマリーちゃんから予め聞いているよ」
——そういう場所で、魔法使い共を懲らしめる。
おあつらえ向きの場所だろう。
場所は廃墟同然の時計塔。
そして魔法使い共は一時間後くらいに、その時計塔まで来てくれると言う。
俺達は先回りをして、時計塔まで行き、物陰に隠れて魔法使い共が来るのを待つことにした。
「…………」
リネアが心細そうに、入り口の前で立っている。
首には首輪が巻かれており、そこからは鎖が伸びて隣でギルマスが握っている。
「これで来てくれなかったら、どうしようか……」
顔の右半分だけを壁から出して、アシュリーと一緒に魔法使いが来るのを待つ。
よくよく考えたら、ギルドなんかじゃなくこんな時計塔に呼び出したのは、怪しすぎるかもしれない。
「大丈夫だ。もし来なかったとしても、このアシュリーが地の果てまでそいつ等を追いかけ見つけ出してやろう」
「助かるよ」
そんな会話をして、十五分くらいが経過してからだろうか。
「おお! 本当にエルフを見つけ出してくれたんだな!」
来た。




