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150・おっさん、再び豚汁を作る

 それから——ミレーヌは夜になっても、起きてこようとしなかった。


「まいったな……」


 部屋を取られてしまった俺は、頭を掻く。


「ミレーヌ、起こしてきますよ」


 リネアが階段の方へ向かおうとする。


「いや、別にいいんだ」


 俺はリビングのソファーで寝ればいい。


「それに——起きてるけど、気まずくなって部屋から出てこないだけかもしれない」

「それはそうかもしれませんが……」

「一人で考える時間も与えてあげたい。彼女が納得するまでな」

「…………」


 リネアが下を俯く。


 それはミレーヌが泣きだしたのは、リネアに関することだからだろう。

 なにか責任感を感じているかもしれない。


「ブルーノさん」

「ん? どうしたんだ?」


 リネアが顔を上げ、


「私……お腹が空いちゃいました」


 と小さく舌を出した。


 時刻は深夜に達しようかとしている。

 晩ご飯も食べたのに……全く。かわいいヤツだ。


「おう、ちょっと待ってろ。夜食、作ってやるから」

「楽しみにしてます」

「なにがいい?」

「私——豚汁がいいです」

「豚汁か。よし」


 どうやらリネアは、ゼニリオンで作ってあげた豚汁がお気に召したようである。


 俺はエプロンを着用する。

 ドラコ達の分は……まあいっか。

 どうやらドラコ達は、ポイズン達と温泉に入ってから、外で眠ってしまったらしい。

 外のことはドラママもポイズンもいるし、仮に不審者が現れたとしても安心だろう。

 折角寝てるのに、起こすのも可哀想だ。


「お腹ぐーぐーです」


 とリネアが自分のお腹を押さえた。


 俺は急いで台所に向かい、豚汁を作る準備を始めるのであった。




「完成だ」


 俺はゼニリオンの時と同じように、二人分のお椀に豚汁を入れて、リネアの前に持っていく。


「わあ、良い匂いです」


 豚汁から漂ってくる優しい匂いに、ついついリネアの顔も緩くなってしまう。


「白ご飯はいいか?」

「はい。そこまではお腹減ってませんから」

「そうか。食べたくなったら、晩ご飯の余りがあるから言うんだぞ」

「はい!」


 リネアが元気よく返事をしてから、


「いただきます!」


 と手を合わせて、豚汁が入ったお椀を両手で持った。


 ずずずっ。

 静かな室内に豚汁をすする音だけが響いた。


「「…………」」


 二人とも口を開かない。

 温かい豚汁が体の芯まで染み渡っていくようだった。


 しばらく、ただ豚汁をすすっていたわけだが、その沈黙を破る音が次に響いた。


「ぐすっ、ぐすっ」


「リネア、泣いてるのか?」


 俺はリネアの方を見た。

 すると、お椀を持ったままで瞳から涙を流しているリネアの姿があった。


「リネア……大丈夫か?」


 リネアの瞳から涙がこぼれ、豚汁へと落ちていく。


「すみません……村での出来事を思い出してしまって……」


 とリネアが涙声で言った。


「リネアはやっぱ村に帰りたいのか?」

「いえ、このままイノイックに住みたいです。その考えは本当なんです」

「だったら……」

「でも——やっぱり村も大切なんです。好きなんです。ミレーヌを見て……この豚汁を飲んだら、昔のことを思い出してしまって……」


 リネアはホームシックっていうヤツに陥ってしまってるんだろう。


 そりゃそうだ。

 今はなりゆきでイノイックに住んで、ここを気に入ってくれているけど、元々リネアは自分から村を出たくて出たわけじゃない。

 悪い魔法使いに襲われたのだ。


 俺だって、故郷のことを思い出して、たまに胸が押し潰されそうになる。

 リネアはミレーヌを見て、より一層苦しくなったんだろう。


「リネア……俺の考えを言っておくよ。俺はリネアとずーっとこの村で過ごしたいと思っている」

「私もです……ぐすっ」


 ちょっとリネアが泣き止んできた。


「だから村に帰って欲しくない」

「…………」

「だけどな——里帰りってのも一つの手だと思う」

「里帰りですか?」

「そうだ」


 きょとんとしたリネアの顔を見て、俺は頷く。


「よくよく考えてみろ。仮に結婚で故郷を出た女性がいるとする」

「はい」

「その女性はずーっと男のところで暮らさないといけないのか? 違うだろ。たまには里帰りだ−、って故郷に帰ってもいい。それが自然だと思う。貴族とかに嫁いだら別かもしれないが……幸い俺はただのおっさん。そういうしがらみは考えなくていい」


 俺は「安心しろ」という意味を込めて、自分の胸をポンと叩いた。


「一度自分の村に帰ってみよう。みんなに挨拶もせずに、リネアは村から出た形になってしまったからな。ミレーヌみたいに、心配するのも無理ない話だと思う」

「……いいんですか?」

「もちろん」


 と俺が言うと、リネアは涙を拭って、顔に笑顔の花を咲かせた。


「はいっ! 私、里帰りします! ブルーノさんも付いてきてくれますよね?」

「リネアが招待してくれるなら喜んで」

「もちろん招待しますよ! みんなにブルーノさんのこと紹介しますね!」


 顔を涙で塗らしていたのに一転。

 リネアは元気になって、キャッキャッとはしゃいじゃっていた。


「リネアの故郷……楽しみだなあ」

「はいっ! 私もブルーノさんのことをみんなに紹介するの、楽しみにしてますよっ!」


 とリネアが声を弾ませる。


「みんなにブルーノさんのこと……」

「ん?」


 リネアがもじもじとなって、意を決したようにしてこう続けた。


「私の夫になる人です、って紹介しなくっちゃですね!」


 ……おっ?

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