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きみの暖かさを知る

 共に過ごす時が経つと、マクリールの体は芯から冷え、眠る時間が増えた。その様子が不安なリアンは今までの自分の知識で何とかならないかと町や帝都に使いを頼み、様々な薬草を集めた。

 けれど、彼の容態は一向に良くならない。


 ある一段と寒い日のこと、眠ったマクリールを確認し、彼女は書庫を漁った。人間の世界のものでは助からないのなら、妖精の力は借りられないだろうかと。

 ここに来たときには妖精なんて信じていなかったのに、今はマクリールが助かるのならと藁にもすがる思いだった。

 まずはマクリール自身のことを調べようと、取り換え子について調べた。取り換え子は可愛い人間の子と取り換える場合と、妖精がわが子を地獄の生贄から守るために人間と取り換える場合があると記載されていた。

 次は妖精の種類についての記述を見つけた。そこに記載されたものを読むごとに、リアンの手は震え、先を読むのが怖く、恐る恐るページをめくる。


 その妖精はみな女性の姿をして、見た目は美しく男性を翻弄する。その妖精が愛し、男性も受け入れると彼女は歌や詩の才能を与える代わりに男性の精気を吸い上げ早死にさせてしまう。体温は低く、特に末端は冷たい。

 そこに描かれた挿絵の妖精の姿と、リアンの髪の色や風貌はあまりにも酷似していた。


 確かに両親とはあまり似ていなかった。最初はこの見た目のせいで踈まれているのだと思っていたが、両親は直感的に気付いていたのだろう。リアンが自分の子供ではないことを。


 リアンはゆっくり本を閉じてマクリールの枕元に立った。



「……貴方なんて大嫌いよ。マクリール」



 流れ落ちるものも、自分のものは冷たい。今まで気にもしてこなかった不自然に、今さら答えが出た。

 ここにいてはいけない。リアンはマクリールの額にゆっくり口付けを落とし、コートのフードを深く被り、あまり好きではなかったけれど大好きだったその家を後にした。














 リアンはそのまま長い間彷徨った。たどり着いた先の村人に聞いた妖精の住む湖のほとりへとただひたすらに歩いた。

 もう人間の住む場所にはいたくない。こんな感情二度と味わいたくはない。そんな気持ちが彼女を突き動かした。


 たどり着いた湖に住む妖精たちは、リアンを歓迎し、自分たちの住む場所へと案内した。

 そこは湖の深い深い場所にある、まるで竜宮城のようだった。

 彼女はこの地に住んでも相変わらず本の虫だった。沢山の書物を読み漁った。

 ほんのわずかな可能性にかけて諦めて手放したはずの物を、再び得ようと必死だった。

 人間になる方法はないか、そう考えていたけれど彼女が導き出した答えは、妖精の力を弱めることしかできなかった。そこからは彼女の探究心で、何とか指輪という形で、妖精の力を弱めることに成功を収めた。


 数年ぶりに人間の世界に戻った彼女は指輪をつけて、近くの村に行ってみる。

 以前に比べれば男性は狂心的ではなくなったものの、元々の美貌から言い寄るものばかりだった。これでは本当に弱まったのか分からない。

 深いため息とともに、もう一度妖精の住む地へと戻ろうとした彼女は足をとめた。


 このまま妖精として長い命を生きても傍にマクリールはいない。

 そんな世界に、生きる意味はあるのだろうか。


 答えは否だ。もうリアンは独りで生きていけるほど強くはない。

 この指輪を付けたまま、死を待つ覚悟は簡単にできた。





 湖の傍にあった古い空家にリアンは暮らした。

 この場所は無性に寒くて広くて寂しくて。けれどいつか訪れる死という自由に思いを馳せて。


 ある、寒い日のこと。今夜は初雪が降るかもしれないと、リアンは窓の外を眺めていた。



 ―――コン、コン―――



 この家に人が訪れることなんてまずなかった。妖精たちは時々心配をして様子を見にくるけれど、それは決まって窓からだった。不審に思い、息をひそめて居留守を使うと、扉にバタンと何かが倒れこむ音が聞こえる。

 慌てて扉をあけると男性が倒れていた。その男性はにやりと笑うとリオンを見上げた。

 その顔を見て、涙が溢れるのを堪え切れず、口元に手を当てた。



「……まったく、リオンは相変わらず優しいね。俺の家から暖かさと、愛を持って行ったてしまったから取り返しに来たよ」


「私も男性にこんな愛を貰ったのは初めてよマクリール。部屋に入って」



 二人とも、その存在を確かめるように何度も触れ合い、愛の言葉を重ねた。

 その後二人はマクリールの家へと戻った。




 今日もこの一段と寒い深い深い森の中、その家の窓からは明るい光と歌声が雪夜に響いている。

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