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この熱は消えぬまま

「へぇ、リアンはここに引っ越したばかりなんだー」


「……」


「それじゃあ俺が君みたいな美人を知らないのも無理はないかぁー。これほどの子、村にいればすぐに気づくもん」



 目が覚めてからはずっとこの調子である。

 リアンはいっそのこと、あの時に見捨てていれば良かったと後悔をした。

 息を吐くように甘い言葉を囁き、隙あらば触れて来ようとする不躾な態度に心底苛立った。一瞬でもこの見た目に、見惚れた自分にも。


 彼の名はマクリール。

 リアンの住んでいる場所よりも、さらに深い深い森の奥に独りきりで住んで、聞いてもいないのに自己紹介を始めた彼曰く、結婚も決まった恋人も作らずにいるらしい。

 昨日は、町で噂の美人を見に行こうとしていたところ、空腹と寒さで倒れていたらしい。


 なんて軽薄でくだらない男なのだろう。



「明日には帰るから、そんなにつれない態度とらないでよ」


「明日?!」


「だって、ほら見てご覧?」



 マクリールが小屋の扉を開くと、一面は銀世界。

 人も通らず一切踏み荒らされていない雪面が広がっていた。

 時々、木の上に積もった雪が崩れ落ちる音だけが響いている。

 寒さから、素早く扉を閉めた。



「ねっ? こんな場所を歩いたら迷子になってしまうよ。春になって近所で氷漬けにされた美青年が見つかったら気分も悪いでしょ?それに祟るよ??」


「……明日ですよ」



 深いため息をつくリアンと対照的に、マクリールはにこりと笑った。



「それに……リアンって不思議だよね」


「何がですか?」


「俺を見ても一切惹かれない子なんて初めて見た。……ねぇ、俺の瞳を見て?」



 確かにその瞳は吸い込まれそうなほど澄んでいるとは思う。

 けれど、見た目の美しさだけで惹かれるほど安くはない。これでも伯爵令嬢として育てられた自負があるし、幼い頃から様々な男を見て来た審美眼には自信がある。



「やっぱり君は不思議だね。俺の仲間かな?」


「……仲間?」


「そう、こちら側の人間かってこと。

 ……俺は妖精に育てられた人間。妖精の取り替え子って聞いたことあるでしょ」



 それは昔から伝えられて来た伝承だ。

 妖精は、まだ幼い我が子と人間の子供を入れ替えることがある。そして、我が子のように育てると。

 しかしこれは、迷信だとリアンは考えている。妖精なんて非科学的なもの、彼女は信じていなかった。

 けれどこの町に来た時に話した女性も同じようなことを言っていたことを思い出す。集団的な催眠や宗教か何かだろうか、リアンはそう解決させた。



「話くらいなら……」


「俺はね、言い寄り魔に育てられたんだ。少し前に独り立ちして暮らしてる。

 だからかなぁ、町の子は僕に夢中でさ。

 本当の妖精でもなんでもないのに不思議だよねー」

 

「……馬鹿馬鹿しい」



 その後も続く、マクリールの御伽噺のような話に適当に相槌を打ちながら料理の支度に取りかかる。

 2人分作るのは骨が折れる。



「手伝おうか?」


「いえ、まだ体調も万全ではないでしょうし休んでいてください。気が散ります」


「へぇ……。リアンちゃんって、優しいね」



 その言葉に、マクリールの方へ振り返ると、小首を傾げている。

 慌ててキッチンの方へ振り返った。


 今まで見た目への賛辞ならいくらでも受けて来た。

 けれど、優しいなんて言われたことがない。どちらかというと白黒はっきりさせたい性格もあって冷たいと思われてきた。

 まるで心を素手で撫でられたような感覚に、体が火照る未体験の感情に、リアンは戸惑っていた。

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