旅の始まり(1)
光が消えるとサティアの目の前には、見たこともない多数のガラス張りの大きな建築物が立ち並び、馬がいなくても走れる車が沢山行き来している景色が現れた。
「すごい・・・ここが異世界の大都市。トーキョー・・・」
サティアたちが転移した場所は、東京及び日本の交通の要所である東京駅の八重洲口であった。サティア以外の旅行客たちもこの景色に驚いている。
それもそのはず、サティアたちの世界では魔法がものすごく発達している世界であり、逆に科学という概念がないのである。そのため、サティアたちの世界の建築技術は低くどの国のどんな都市でも建築物はこちらの世界における中世前後のものが多いのだ。
「にしても、賑やかな場所・・・人も見たこともないくらい沢山いるわ!」
異世界らしい変わった服を着た人たちがサティアの住む首都パルムでも見たこともないほど沢山の人が行き交っている。
それからすぐに他の旅行客たちは、それぞれの行き先に向かい散り散りになった。
「さてと・・・私も“待ち合わせ場所”に向かいましょうか。たどり着けるかしら?」
実はサティアは、この「異世界」の案内人として現地の人を、ビョルヴィーカの旅行会社を通じて手配してもらっていたのだった。
ここ数年は異世界との国交も少なからずあり、異世界同士の交換留学も行われていたりしているほどである。
サティアは旅行会社から貰った、案内の名前と待ち合わせの指定が書かれてある紙を見る。
「えーっと・・・ハナビ・カツシカさん?で大丈夫なのかしら?」
案内してくれるのは、この世界の住人の葛飾花火という人である。
「・・・午後1時、ジェイアールヤエスチューオウグチにて待ち合わせ・・・っと」
サティアの正確な現在地は東京駅八重洲南口のバスターミナルで、八重洲中央口は50メートルもないのであるが、見知らぬ土地しかも異世界である。たった50メートル先であってもたどり着くのはそう容易ではない。
「とりあえず、自分で探してみましょう!時間もまだ1時間くらいあるっぽいし!」
サティアはまずは自力で八重洲中央口へ向かうことにした。
だが、その判断はサティアにとって正解では無かった。
サティアは東京駅八重洲南口に入ったが良かったのはここまでであり、待ち合わせ場所である八重洲中央口を遥かに越えても直進し続けていた。
しかし、肝心のサティアはというと、すっかり見慣れない世界の光景に背負っている鞄の重ささえ、忘れさせるほど夢中になっていた。そしてそんな彼女がたどり着いた先は・・・。
「えーっと・・・ここで良いのかな?」
とりあえず、確認のために近くを通りがかった人にようやく訊ねることにした。通りかかった人は30代くらいのサラリーマンであり、見慣れない服装のサティアを物珍しそうな目で見ていた。
「すいません、ジェイアールヤエスチューオウグチってここですか?」
サティアは余裕な顔をして、翻訳魔法のおかげで話せている日本語を使い、聞いてみたが。
「ううん。ここはJR丸の内北口。JR八重洲中央口は反対側の場所だよ」
「え?」
サラリーマンは役目を果たしたかのような満面の笑みでサティアに手を振りながら、丸の内にあるであろう会社のオフィスへと去っていった。
「え、いや、ちょっと、待ってくださぁぁぁぁぁあああい!」
サティアは再度サラリーマンに尋ねようとしたが、気がついたら彼は駅の外へ出ていた。
思い切り楽天的に考えすぎていたサティアは丸の内側の改札口に突っ立ちながら、途方にくれた。