その4
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「ポプラ」は個人経営の割には儲かっているらしく朝一番と昼過ぎの二回トラックで搬送される食材の荷降ろしがある。僕が言うのも何だが、ポプラは特に商品が安いわけでもない。いくつかの商品、大体はティッシュペーパーかトイレットペーパー。食材なら牛乳や豆腐を卸値ぎりぎりで売りさばいて客寄せパンダにしているのが現状だ。そんなことは大体どのスーパーでも行っていることで、とりたてて商売を工夫している様子はない。確実にいえることは運が良かった。開発著しい西口にはいくつかの新規スーパーやコンビニ、百貨店まで出来たのに対し、東口は都市開発に伴って新規参入したのはコンビニ一つだけ。他は長年競り合っている、と言うか共存している大手スーパーが1店舗あるだけで、かなり安定している。
でも、増田さん辺りはこの安定は長くは続かないと見ており、何かいろいろと考えているようだ。おっと、肝心の話を忘れていた。
なぜ、今僕がこの話をしたかと言うことだ。
それはつまり荷降ろし中に寺田が発した
「天ちゃんはいつまでここにいます?」
と言う素朴かつ胸を突かれる質問に関係する。
――いつまでここにいるか。
そう、それが今の僕に一番必要な答えだった。
僕はこの仕事が特に好きというわけではない。まだ一年と少ししか働いてないが、なんとなくマンネリすら感じる。
ただ、やめると言う気も特に起きない。それどころか、増田さんの構想する店舗向上の計画の中に僕がしっかり組み込まれていると言うところが大きい。大きすぎるくらいに大きいのだ。
「さあ、わからないな。寺田はどうなんだ?あんまりぼけっとしてると俺みたいになるぞ?」
寺田も僕と同じ高卒からのフリーター組だ。なんの目標もなくだらだらとしているとじきに僕みたいになる。いやでも、寺田は明るいし屈託もないから何かしら運が向いてくるような気がしないでもない。だが、そんなことを寺田にいったら真に受けてよりふらふらしかねない。ここはくぎを差すくらいでちょうど良いはずだ。
「さあ、どうっすかね。分かんないですよ、先のことなんて」
せっせと荷降ろしをしながら、寺田は何とも諦めたように言った。それに対し声をかけてやるべきなのが僕の状況なんだろうけど、僕もまた寺田と同じような状態なわけで。
「だよな。まあ寺田はまだ若いし何にでもなれるわ」
そう言うことしか出来なかった。僕が寺田くらいのときに周りからよく言われた言葉だ。なんにでもなれる、可能性は広がっている。
それをまるっきり嘘だとは思わないけど、少なくとも何かをしたい人間にとっては可能性が無限なのであって、何もしたがらない人間には寧ろどんどん狭まるばかりだ。
「そうっすよね。天ちゃんもまだまだ若いんだし二人で頑張りましょうよー」
「ああ、だな」
若さなんてあんまり関係ない。やる気と行動力。それだけあればきっと空だって飛べる。
「つか今日あちーなまじで」
寺田に言ったのか独り言なのか自分でもよく分からない。なんとなく、そう言って話を終わらせたかった。
「そうですよねー最近暑すぎますよ。あ、あれ知ってます?なんか昨日テレビで見てたんですけど坂口敬子って……」
それから僕は延々と寺田のゴシップを聞かされ続けることとなる。アイドルがどうした、俳優がどうした、離婚だ結婚だなどうんぬんかんぬん。
どうして気候の話がそっちに流れていったのか、知る由もない。