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その3


従業員通路とは名ばかりの民家のドアからバックヤードに入ると、ちょうど同じシフトだった坂西に出くわした。坂西はうちの男たちから目の保養要因第一指名を受けているかなりの美人だ。

「おはよ」


「うい」


抑揚のない坂西に合わせて控えめに返事をしておいた。『ポプラ』の正装は普段着の上に緑色のエプロンを付けるだけなので着替えが男女分かれることはない。よって今からバイトが始まるあと15分ほどは二人きりで過ごさないといけないことになる。

坂西は早々にエプロンをつけて、小さなソファに腰を掛けた。ロッカーが隣どおしなのをしってなのか、いつもより着替えがてきぱきしていた。こういうところは素直に有り難いと思う。隣のロッカーは開閉やら何やらとにかく気を使うものなのだ。



「天海ってさ」


タバコをくゆらせながら坂西が突然口を開いた。内心びっくりしたが、悟られないようにエプロンに腕を通すことに集中してみた。


「変だよね」


「は?」


エプロンをただしながら素直に思った言葉が口をついていた。即ち、は?だ。


「なんかよく分かんないけど、変だよ」


出ました。女の勘的発言。なんかよく分かんないけど。こんなこと言われても返す言葉がないってもんだ。


「まあ、変と言われて悪い気はしないのは変だと思う」


ソファの横にある簡易いすに腰をかけた。

100均なんかでよくみるパイプ折りたたみ式の簡易なやつだ。


位置的にどうしても坂西の背中を見ることになるのだが、髪をあげた坂西の首もとはちょっと反則なんじゃないかと思う。他の奴らが目の保養タイムと言うのも頷ける。


坂西はそれきり僕と話をしなかった。テレビをみたり携帯をいじったりしていた。僕はといえば、手持ち無沙汰を感じるばかりでどうにもばつが悪い。坂西はいい奴だし綺麗だけど、何か距離を感じる。それは僕がそうさせているのかもしれないし、坂西がそうしてるのかもしれない。どうなんだろう。


少ししてから店内と控え室を繋ぐ扉が開いた。

中に入ってきたのは日に焼けた黒豚のような男、寺田だ。


「おー坂西ちゃんじゃないかあー奇遇だね。おっはよ」


「トン、おはよー」


寺田は色黒のぽっちゃりと言うことからクロ、とかトン、とか呼ばれている。それにしてもこいつ、見計らったかのようなタイミングで現れては、あっと言う間に坂西と談笑を始めている。


坂西も僕の時とはだいぶ違った笑顔で楽しくはなしているから、僕の手持ち無沙汰感は余計に募った。せめて僕がソファに腰をかけていればテレビを見ているふりができたけど、この位置では下手にそっちを向いたら色々さとられてしまうかもしれない。そんなことを考えると自然と携帯電話に手がかかっている。何もないのを知りながら携帯を開くときは、無性に切なくなるもんだ。



「天ちゃんなにしてんだよ。こっちこいよー」


寺田がそう言った。皮肉な調子なら寺田を嫌うこともできただろうけど、生憎寺田はそんな奴ではない。本当、疑いすぎて疑いたくなくなる程明るくて無邪気な奴なんだ。


「お、おう」


センターに問い合わせて見たけれど、案の定メールはなかった。パチンっと携帯を閉じてから寺田に言われるがまま近くの丸イスに座り直した。


「なー天ちゃん。坂西ちゃんは可愛いと思う?綺麗だと思う?」


「は?なんだよそれ。」


いきなりの質問で言葉がでなかった。と言うかだいたい本人の前でなんの話をしてるんだ全く。


「いやー、ね。今店内アンケートを取ってるんだよ。で、今回のテーマは坂西ちゃんなの」


寺田は悪びれずにこにこしている。これが最年少19歳の力か、などと思いながら答えに窮しているとさっきより大きい扉の音が僕を助けた。


「天海と坂西…二人ともいるな」


副店長の増田さんが入ってきた。


「あ、おはようございます」


僕がそう言うのに続いて坂西も挨拶をした。



「えっと、天海さーんレジ袋どこでしたっけえー?」

突然そう言ったのは寺田。妙に甲高い声が、わざとらしくて笑ってしまった。僕だけではなく、坂西も。そして増田さんも。


「お、寺田までいたか。ちょうどいい。二人に頼もうと思ってたんだが、寺田と天海で荷降ろししといてくれ。本当寺田はいつも『いい所』にいるからな、助かるよ」


増田さんはそう言うと寺田の肩を叩いた。


「レジ袋は俺が持ってってやるからな」


したり顔の増田さんに照れ笑いするしかない寺田。

それを笑いながら見てる僕と坂西。その時坂西と今日初めて目があった。

笑顔の坂西はやっぱり可愛いと思った。

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