その2
2
チリチリと体を焼かれながら駅までの道を歩いていると、このまま職場ではなくどこか遠くにふらふら飛んでいきたい気持ちになるから困る。一度はその気持ちに我慢できずに電車を乗り越してしまったこともあった。いやほんとはちょっと格好つけて行ってみようと思って1駅先で我に返っただけだ。地味に二分遅刻して微妙な空気になったのを覚えている。
結局僕は大した冒険もできず、大した夢もないまま時を見送っていくのだろうと思った。
駅につき、改札を抜けると丁度すぐに電車がホームに滑り込んでいく。
僕が階段を下り終える頃に扉ががーっと痰を吐くように開き、いつもいる細身のスーツ姿の男と灰色スーツ姿の女をみつける。こんな昼時に二人そろって何をしているのか、少し気になったりするけど、小さなことを気にしすぎると頭が休まらなくなるので、二人はスーツコスプレカップルと言うことで脳内ではなっとくしている。
平日の昼間の上り線なのに、乗車率は100%ちょっとあるのか、微妙に空間のあいた座席とも隙間とも呼べないような空間がちらほらあるだけで、電車はにぎわっている。どうしても座りたいのならすいませんっと座席を詰めるようにお願いしなければならないので、素直にドアの横にある手すり付近に立つ。間延びした景色が、流線型に流れていくのをぼーっと見送りながら相変わらず逃避感と言うか厭世観にすごく悩まされていた。
隣の優先席で母親に抱かれている赤ちゃんがこっちを見つめているのを窓の反射越しに見つける。
恐らくは女の子であるその子の眼差しはなぜだか一心に僕の背中を見つめていた。
どうしてこんなに純真な眼差しなのだろう。
こんな視線を向けられると、何か自分の犯してきた罪を懺悔してしまいたいような気分になる。もしくは、強い罪悪感に苛まれる。あ、どうしてだろう。僕の思考にはいつの間にか宗教的というか神秘的なものを積極肯定している何かがあるような気がした。それが彼女と因果関係があるのか、よく分からない。
電車に乗って10分程で職場の最寄り駅に着く。
割と乗車も下車も多い中級都市と言った感じのこの駅はさすがに整備が整っている。
地下一階相当のホームから長いエスカレーターを二階分登り改札を抜ける。人の流れが西口に抜けていく中、僕は反対の東口を抜けて階段を下りる。小さいタクシー乗り場と宝くじ売り場の間にある寂れた商店街を歩き、徒歩3分ほどにあるスーパーに入る。長ったらしく退屈な説明ももう終わる。すべてはこのためだ。スーパーポプラ。ここが僕の職場だ。