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失われた未来の再建  作者: 水素
7/18

教会にあるネオジム

明朝。辺りが、徐々に温かみのある赤い光に包まれるころ、出発から三日が経ち都ロドンに到着した。

 三人はロドンの入り口の門でディノクスから降りた。

 ディノクスは市街地には入れられないため、門の手前の、竜預所に預けると門をくぐり、都の商店街に入った。

「いやはやびっくりだ」

「さっきまで酔いで吐きそうになっていたくせにな」

 ブレスレットから出てきていたミネルルヴァがしけた顔をして言う。

「何がです?」

 ソフィが尋ねる。

「この光景にですよ」

 車が、三台ほどは通れる広い石畳の道に、多くの人々が集まり賑わっていた。

 ターバンを頭に巻いて髭を生やし、なぜか動物図鑑を見ている魚屋の店主。赤黒いノースリーブを着て大声を張り上げる靴屋の店員はなぜか履いている靴は薄い皮靴でしかもぼろぼろである。靴屋の隣に靴磨きの店があり子供がせっせと汗水垂らして靴を磨いている。見栄で表面につやのある高価な杖を持っている金髪の若い果物屋の男はその杖を傍若無人に振り回しながら客の応対をしている。派手に着飾った床屋の女が店主の店はいたる所ひびだらけで管からはオイルのようなものが漏れ出でいる。ぼろ切れのような古本が路地に積まれている古本屋には多くの人が詰めかける。ほとんどの人はその場で買うとずたずたに切り裂き、何も文字が書かれていないところだけをとってその場に捨てて行く。

 行き交う人たちは、地球人と身体的特徴については大差ないが身長が二メートル近くある人や五十センチほどの小人がいたり、地球では目にかかれない人が普通に歩いている。

 数分歩くと、人々がひしめき合う、噴水のある広場にでた。噴水を囲む大理石のベンチがあり、雛たちはそこに腰を下ろした。するとミネルヴァは腕から降り周囲を何度も見回す。

 雛とソフィも同様に周囲を見回す。

 広場は街の中心街に位置し、商店街の延長で市場が設けられている。子供の姿も多く、噴水の水で遊んでいたりする。大理石でできた建物の多くは精密な彫刻が施されている。民家や店の角には天使のような像が飾られ人々を見下ろす。建物がおおいぬ座のシリウスの如く輝きを放っており、天使の加護を受けた純潔で、清らかで、白鳥のような美しい街だった。危険な街とは微塵も感じられなかった。

 広場にも様々な人がいる。

 子供連れの親子は野菜を買っており、その野菜を売っている人は太っていて乱視である。

 黒い服を着た二人ほどの男が煙突から煙を吹き上げる家の前に立っている。その二人は警備員のようにも見える。

 服屋で客に商品を買ってもらうよう必死に売り込みをする年寄りの女は、髪がぼさぼさで服もあまり綺麗ではない。

「ではどうするの?」

 ソフィは訝しげに尋ねる。

「カードの位置の精度はとても荒い。ブレスレットがあってもだ。他者に位置を特定されないように意図的にカードの力でぼかしているのだ」

「つまり、ロドンにあると言っても具体的に路地にあるとか建物の中にあるとかは雛さんでもわからないと?」

「そういうことだ」

「まるでハイゼンベルクの不確定性原理みたいだね」

「不確定性原理って?」

「物質の最小単位とされる素粒子の話になるんですが、素粒子はあまりにも小さすぎるために、正確にある時点でどこに存在するのかわからないということですよ。まるでオバケのように。細かく言えば私がここで言いたいのはハイゼンベルグの不等式というよりはロバートソンの不等式、つまり量子ゆらぎの方ですね」

「オバケのようにというのはよくわかりませんが、地球の科学って進歩しているんですね」

「そうなの?」

 雛はミネルヴァに尋ねる。

「そうだな。アルビヨンは科学に関しては地球より遅れをとっている。原子の考え方もまだこの星には浸透していない」

「そうなんだ」

「こんな話をしている場合ではない。早くカードを探せ」

「位置が具体的にわからないのにどうやって探すんですか?」

「エレメンタルカードを使う」

 そう言い、ミネルヴァはおもむろに一枚のカードを取り出した。

「鉄のカードだ。以前教えた手順で使え」

 雛はカードを受け取ると装填し

「元素召喚

 鉄」

 するとカード裏に描かれたものと同じ魔法陣が前方に現れて、手にひらに小さな銀白色のかけらが転がり落ちた。

「えっ?」

 雛とソフィは起こったことに一瞬唖然とする。

「純粋な鉄の塊だ」

「でも、鉄って赤くて脆くありません?」

 ソフィが尋ねる。

「それは酸化鉄で、酸素と鉄が化合したものですよ。それに鉄は不純物が一切入っていない純粋なものであれば酸化しません。つまり赤くならないんですよ」

「へぇ、そうなんですか」

 酸素と鉄という言葉は、原子という考え方が浸透していなくても、ソフィは知っていたようである。

「これでどうするの?」

「まずネオジムから探す。ネオジムは磁石だから鉄は引き寄せられる。この鉄はカードの召喚によるものだからカードだけに反応する。これで地道に歩いてネオジムを探す」

「途方もない労力と時間がかかることは必至だと」

「では始めろ」

 三人は立ち上がり、広場を後にした。

 鉄の塊を手のひらに乗せたまま、右手にあった、先ほど通ったものとは別の商店街を抜けると噴水の広場よりも広い場所に出た。

 中央にある厚い鉄の台にのったトマトのように赤い、X字の架が美しい石畳の広場に不穏な彩りを添える。

「あれは?」

 雛の目の先に、広場に面している黄金の装飾に身を包んだ建物が見えた。

 屋根の両端には、赤地にドラゴンのような硬い漆黒の鱗に覆われたトカゲが火を吹いている絵が描かれた旗が掲げられている。激流に抗う魚のように旗は風でくねらせている。

「あれが政府官邸です」

「そういえばあの旗、街のあちこちにあったけど国旗?」 

 雛はほとんどの建物に旗が立っていたことを思い出す。

「いえ、革命軍のシンボルです」

「革命。アレン・ショーペンさんも言ってましたけど一体何なんです?」

「あれを聞けばわかります」

 そう言い、広場で何かを聞いている人々を指差した。誰かが演説しているようで低く、快活で、腹黒い印象を与える声が三人の耳に届く。

 演説をしている男は肥満で少し腹が山のように出ていて、豪華な刺繍を施した服を圧迫している。年は四十ぐらいだが、顔は岩のようにごつごつして、皺がたくさん寄っている。均衡がとれた金髪で、琥珀のように太陽の光を反射している。

「あの人が革命軍の指導者で、現政府を仕切っているイアーゴ・ティウス」

 ソフィに耳を傾けたのち、雛は演説する男の話を聞く。

「ロドンでは昨年、衛生環境の悪化による疫病が流行し十万人もの尊い命が奪われた。しかし政府は状況に対する打開策を一切講じなかった。また当時王だったゴルゴンは立場を濫用し貧しい人々を迫害した。少しでも怪しいと政府に思われたものは処刑され、この広場は何度も無垢で罪のない血で汚されてきた。我々革命軍はゴルゴンを玉座から引きずり下ろし、この手で大いなる秩序を勝ち取ったのです。ゴルゴンは自身の罪を贖うつもりは毛頭なく我々革命軍の正義の鉄槌を逃れロドン郊外に潜伏している。しかし、我らの正義は必ず天の加護を受け、秩序の名で舞いおりる。

 我々はこの理念を果たすために惑星民とともに手を取り合い、今までの腐敗した王政を終わらせ、民主制を実現させる。

 夢物語にしないために、我々革命軍とともに新たな時代を実現させていこう!」

 イアーゴ・ティウスの淀みがない力強い演説に人々は叫び声をあげて歓迎し、新たな時代の幕開けとばかりに広場は歓喜に満ちる。

「これが言っていた革命ですか。ですがもう終わったんですよね。どこが危険なんですか?」

「あんた、何抜かしたこと言ってるの?」

 不意に雛は、背の低い、年の割には若々しい老婦に、威圧的な態度で話しかけられる。

「若いくせに知識がないのも困ったものだね。旧政府軍と革命軍の革命戦争も半年ほど続いてロドン郊外は壊滅的被害を受けたんだよ。未だに革命軍の支援があっても復興していないのだから。おかげで郊外の治安は劣悪。ここは革命軍が治めているからなんてことはないけど。それにこの革命で両軍合わせて五万人が命を落とした悲劇的な結末だった。そんな血を拭い去り、新たな風を吹かせるのがこの革命軍ってわけさ」

 老婦の、革命軍の称賛と絶大な信頼に雛は気圧(けお)される。

「ゴルゴンなんて虎の威を借りる狐だった。権力の光にすがる蜚蠊(ごきぶり)みたいなやつよ。それに比べてティウスは私たち惑星民の遥かなる星。艶やかで一切の邪悪な思想をも受け付けない硬い鱗に身を(まと)った希望のドラゴン。そのドラゴンは立派な翼をもって新たな時代を教えてくれる!」

「圧倒されるのですが…」

「おい、ここにはカードはない。早くいくぞ」

 ミネルヴァに言われ、三人は広場を後にした。

 街行く人は口々にティウスの革新的な理念と人を感動させる弁舌について言い、街全体が革命の申し子のようだった。

「改めて見ていると街の熱気はすごいものだな。ソフィさんはどう思っているんですか?」

 ソフィは上の空で、目が石畳の道路に沈んでいる。

「えっ、何か言いました?」

「いや、ちょっと革命についてどう思っているかと思いまして」

「私はこれといって何も。ただ体制が塗り替えられて新しい時代が来ることを願いたいですね」

「そうですか」

 新しい時代。確かに誰もが願っていないようで願っていることなのかもしれない。それとも人は不変を求めるより流転を求めるだけなのだろうか?

 沈黙が三人の中で破られない中、角に差し掛かった場所で、不意に鉄の塊が何かに引き寄せられるように手のひらから飛んで、動き出した。

「ついに動き出した!」

「早く追うんだ」

 颯爽と飛んでいく鉄の塊を三人は追いかけた。

 建物の隙間を通り、路地を抜け、街道を渡り、とある建物の塀にへばりついた。

「この建物にあるはずだ」

「ここは、ゼウス教の教会ですね」

 石造りの塀に包まれ、高い瓦ばりの屋根の建物が目の前に(そび)え立つ。荘厳で人々を畏怖せしめるような趣を感じさせる。いただきを見ると、X字の、青銅でできたシンボルが掲げられている。

「教会ってアルビヨンではこういうものなんですか?」

「いえ、アルビヨンでも場所によって教会の形も少し違います」

「結構複雑ですね」

「それより見ろ」

 へばりついていた鉄の塊が擦れ合う音を立てながら壁をよじのぼり始める。

 そして一番上まで達すると鉄は入り口の門をくぐり、教会の中に飛んで行った。

「行くぞ」

 入り口の石像がそびえる門をくぐり、静かな廊下を通り抜け、礼拝のための広い部屋に入る。木造の長椅子が、前方に精緻な彫刻がほられた、笑みを浮かべた男の像にむかって並ぶ。その像は祭壇の上に立つ。両脇の壁にはそれぞれ二枚の大きな絵画が飾られている。

 鎧を着た男が剣を握り、ぼろを着たひ弱そうな男を刺し殺している絵。

 同じく鎧を着て剣を持った男が立派な祭壇の上に立ち、多くのぼろを着た人々を(ひざまず)かせる絵。

 ギリシャ人が身につけていたような服を着た男が数々の裸の女を娶る絵。

 黒いコートを着、黒い帽子を被り、手に水晶のついた長い杖を握る美しい女が、槍を持った人々に貫かれ、ずたずたに服を切り裂かれている絵。

 絵の(おぞ)ましさが異様な教会内の空気と合わさり、一瞬雛は息を飲む。

「おい、早く探すんだ」

 ミネルヴァに叱咤され、雛は我に帰る。

 三人は探し始めた。

 長椅子。絵。聖像。祭壇。天井。くまなく探すがどこにも見当たらない。

「どこなの?」

 ソフィがしゃがんだ体勢から起き上がり、何度も辺りを見回す。

「カードよりも鉄の塊を見つけた方がいいかもしれませんね」

「雛なんかに言われなくてもそうしている」

「あそこ!」

 ソフィが気付く。絵に描かれている人の目の部分に鉄の塊が張り付いていた。

「でもどこにもカードがありませんよ」

「裏側?」

 ソフィは絵の額の裏を覗くが何もない。

「で、どこにあるというのだ?」

 ミネルヴァが言う。

 雛は四方八方から鉄の塊を眺め、ふとあることに気づく。

「単純にこういうことじゃないか?」

 雛は長椅子を絵の方に寄せて上にのぼり、鉄の塊を取ると張り付いていた辺りを、胸ポケットに入っていたボールペンを使って削り始める。

「何してる?」

「こういうことさ」

 絵を削ると、細かい木屑が落ち始める。そして絵から光り輝く一枚のカードが姿を現した。

「紙の厚さぐらいの薄い木の板を上から貼り付けて彩色し、カードを隠していたようだね」

「で、こんなことをする奴はどこの誰だ?カードの価値を知っている奴しかこんなことをしないだろう」

「貴様、誰だ」

 三人が振り返ると部屋の入り口に祭服を着た聖職者が二人立っていた。

「そこで何をしている?」

 一人が言う。

「逃げるべきだよね」

「構ってられないからな」

「じゃあ、逃げます」

 雛の合図で三人は急いで部屋の隅にあった別の扉に入る。

 一人はその後を追い、もう一人は兵士を呼びに行く。

 幾つかの廊下を通り、白い床の、長い廊下に出た。

「どうするんですか?」

 走りながらソフィがきく。

「どうもこうも逃げるしかありませんよね」

「廊下の角にある部屋に隠れるぞ」

 ミネルヴァが言い、角の部屋に三人は流れ込む。

 書斎のようで、誰もそこにはいない。アルビヨンの言語で書かれた本が入って右の棚にぎっしり入っている。中央には使い込んだ机がある。その上には書き物をしていた途中のようで、蓋の空いたペンが置かれたままだった。

「隠れるような場所は…」

 雛は床に接地している長いカーテンが目に止まる。

 雛はミネルヴァを肩に乗せ、三人はカーテンの後ろに隠れる。

 三人ほどが廊下を過ぎ去っていく音が書斎に響いた。

「難を逃れたね」

 雛とソフィは肩の力を抜いた。

「誰か近づいてくるぞ」

 足音が徐々に書斎に近づいてくる。

 三人は固く口を閉ざす。

「で、カードは盗まれたのかい?」

 二人ほどの聖職者が書斎の扉を開け、中に入ってきた。

「シュプレンゲル司祭、申し訳ございません」

「お前が絵に隠せば金庫に隠すより安全と言ったのだろ?」

 年老いた方が椅子に座り、ペンを取ると紙に文字を認め始める。

「確かにそうですが、まさか見つけられるとは思ってもいませんでした」

「犯人には目星がついているのか?」

「まぁ、依然捜索中ですが教会からはまだ出ていません。もうじき革命軍の治安部隊が到着する予定です。これで奴らも袋の鼠です」

「誰の仕業かと聞いているんだ。クラメル司教」

「はい、申し訳ありません。目撃した司教によると男女の二人組。それと小さいフクロウがいたそうです。おそらくはディアナ教の連中かと」

「奴らもカードの価値を知りおったか」

「忌々しい連中です。この手で天の裁きを与えたいほどです」

「カードはな、各教会が勢力を伸ばす上で必要な品なのだ。それにこれは元々革命軍の物でもある。我々の地位が危うくなるではないか」

「それはわかっております。しかし先ほども述べた通り奴らは袋の鼠。捕まえれば尋問して証言を引き出せば、革命軍に有益な情報を提供できます」

「それはお前の言う通りだ」

「このままじゃまずいぞ」

 雛が小声で言う。

「どうやって切り抜けるんですか?」

「方法は一つ」

「だよね」

 雛はミネルヴァから向けられる鋭い視線を見ておおよそ見当がついた。

「元素変身召喚」

「エレメンタリー・アライブ

 承認」

 カード4枚を装填し光に包まれ一瞬にしてエレメンタリー・アライブに変わる。そしてブレスレットにミネルヴァは粒子となって入り込む。

 ソフィは雛の姿に目を見開く。

「きれい」

 エレメンタリー・アライブの光り輝く姿に思わず見とれる。

「この状況で見とれないでくださいよ」

「誰だ?」

 クラメル司教が部屋内で微かに聞こえる声に気付いた。

「よし、気付いたか」

「ソフィさん。準備よろしいですか?」

「もちろん」

「行きますよ」

 雛はカーテンから飛び出し、

「化合召喚

 水素

 炭素

 窒素

 酸素」

 右手から白色の光線が放出される。

「うっ」

 クラメル司教は光線を浴びるとその場に倒れ、いびきをかいて寝始めた。

「何だ貴様は?」

 シュプレンゲル司祭が椅子から立ち上がる。

「大丈夫ですよ。フェノバルビタールを浴びせただけです。化学式はC12H12N2O3。強力な睡眠薬です。まぁこの知識はミネルヴァ君に教えてもらったものですけど」

 シュプレンゲル司祭も浴びせられ、睡魔に負けて眠りこける。

「机にある資料を持っていけ。カードとの関係を知りたい」

 雛は書きかけの資料を含め、机にある資料をつかみ、持っていた鞄にしまう。

「ソフィさん、ちょっと持っていてください」

「はい」

 渡された鞄を握る。

 窓を開け、二人で出る。

「さて、この姿なら見られても誰かはわからないから便利は便利だけど嫌なもんだな」

 二人は必死に教会の庭を走り抜ける。

 しかし、

「見つけたぞ」

 庭の木々の陰に兵士が十人待機していて、猪が牙を突き出して猛進するように剣を突き出し、一斉に襲いかかってきた。

「哲学者じゃないお前は顔を沈めて見られないようにしろ」

 ソフィは教会の突き出た柱に身を隠す。

「雛、こいつらを蹴散らせ」

「蹴散らしはしないけどこの場を切り抜けないとね」

 雛は右腕を左で固定し、再び白色の光線を放つ。

 十人は剣を持ったまま即座にその場で眠りこける。

「また来ましたか」

 騒ぎを聞きつけ、門で待機していた兵が庭になだれ込む。

 雛は光線を発射しようとするが右手からはもう何も出ない。

「当分は使えない」

「えっそれあり?」

「元素召喚もそんなに便利じゃない。何度も使うと時間を空けないと使えなくなる」

「そういうものなの?前もっていって欲しいね。さてどうするか」

 一人の兵士がはじめに切り掛かってくる。

 雛は剣を左手で受け止め、手首を軽くひねり身動きを取れなくしたまま右足をかけて転倒させる。

「上手いな」

「それほどでも」

 襲いかかる二人の兵士の腹部に蹴りを軽く打ち込み吹き飛ばす。

 剣が腹部に向けられるも装甲には一切傷が付かない。

「危ないと思ったが案外頑丈なんだね」

 首に手刀を振り下ろし、気絶させる。

「しかし、こう次から次へと兵士が現れてこられても」

「何とかしろ」

 血眼で襲ってくる兵士の剣を受け止めながら辺りを見回す。

「あそこだな」

 兵士の手を握り、投げ飛ばし雛はソフィに駆け寄る。

「ソフィさん、怪我はありません?」

「ええ」

「ちょっと失礼しますよ」

「えっ?」

 雛は腕をまわしてソフィの体を抱き上げる。

 ソフィは突然の雛の行動に驚きを禁じえない。

「ソフィさん、しっかりつかまっててください」

 そのまま教会の屋根に跳ね上がって飛び乗る。

「兵士の足止めにはこれを」

 ミネルヴァがブレスレットから現れ、一枚のカードを装填する。

「ネオジムを入れた」

 雛は頷き、

「元素召喚

 ネオジム」

 ブレスレットから強力な磁力が放出され、兵士の剣が手から全て離れ、宙に浮く。

 そして磁力を止める。剣は雨のように金属音を立てて地面に落ちた。

 兵士たちは何が起こったのかわからず、手は握っていた状態のまま落ちた剣をみて固まっていた。

「それではさらば」

 ミネルヴァはそう言い、再びブレスレットに戻る。

 雛はソフィを抱えたまま屋根の上を進み、その場を走り去った。

 



新しく登場した元素


原子番号26

元素記号Fe

発見者 不明

由来 ケルト語系で聖なる金属

性質 血液に含まれる赤血球の成分、ヘモグロビンは鉄と窒素の化合物。また身の回りの金属の大部分に鉄が含まれている。ステンレスは鉄と24番のクロムとの合金。磁石に引き寄せられる金属の一つ。

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