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ゆる奏屋  作者: 魚岡みお
6/7

新アコーディオンでレッツラゴー

我らは王を守るもの。

我らが王は民を守り、彼らは王を、死の盗人と呼んだ。

死を盗み続けた我らが王は、そして己の死を盗まれた。

我らが守るは、死を赦されざるもの。

我らその名を、ゆる奏屋という。




「みこねえー!終わりましたー!」

果てが見えないほど高く積まれた古民家の、下から4つ目、右から2つ目の古民家の和室の縁側に腰掛けた弥生の声が、見上げている御子に届いた。

「あ、ありがとう」

我に返った御子は、手に持っていたハタキを弥生に向けて振った。御子はいつもと違い鼻まで包帯が巻かれていて、弥生はマスクをつけている。

「行きますよー!」

弥生はそう言うと古民家から勢いよく飛び降りた。すると御子は、手に巻かれている包帯を自在に伸ばして弥生を包み受け止めた。

「ナイスキャッチ!」

ここは、13階に酒奏屋のあるビルの一階の倉庫。大路がかつて神だった頃にもらったお供え物を収めていた蔵などを、妖術で複製保存した後そのままここに積んである。古民家の水車から流れ落ちる水が、下の古民家の水車に繋がり細い滝のようになっている。弥生と御子はさっきまで、ここの簡単な掃除をしていた。

「屋上でお茶にする?」

「屋根のある屋上でですね!」

弥生と御子は、倉庫の一角にあるエレベーターの扉の前に行ってボタンを押した。エレベーターはもう来ていたようで、扉が開いた。透明な壁の向こうは水色の工場地帯が広がっている。

「弥生が買ってきてくれたお菓子がまだ残ってるかも」

「なら、酒奏屋に寄ってから行きましょう!」

弥生と御子は、13階の酒奏屋に寄って稲荷卿が食べようとしていたお菓子を奪い取ってから、屋上にレジャーシートを敷いた。

「かなり食べられちゃってますね」

「隠し場所変えないと」

見渡す限りの青い海と青い空。水平線がはっきりと見える。遠くの方では、白いSLと黒いヘリコプターが空中でじゃれあっている。弥生と御子はレジャーシートに座った。

「ようかんまだ残ってますか!」

「うん」

「やった!」

その時、頭上で何かが砕け散る音がした。見上げると、屋根が少し凹んでいる。慌てて屋根の上に繋がるハシゴを上って見ると、そこには砕け散った何かがあった。

「これって」

弥生は落ちている破片の1つを拾って見た。

「黒鍵!」

「黒鍵?」

「うん、ピアノとかの、黒い鍵盤のことです」

プロペラの音が聞こえてきた。上空から一機の霊魂ヘリが降りてくる。中から降りてきたのは大路だった。

「弥生に御子!2人ともけがはないか!」

「大丈夫、それよりおーじさん、これってもしかして」

大路は肩を落として答えた。

「笠地蔵のアコーディオン、だ」

「何が、あったんですか?」

聞けば、遥か上空にある白い空中庭園を下から見上げられる所に、青い空中都市がある。そこで大路は、庭園から都市に繋がる螺旋階段に座って笠地蔵のアコーディオンを弾いていたところ、手を滑らせ落としてしまったらしい。大路の後ろから声がした。

「まあ謝るのが得策でしょうかねぇ」

「そうよなぁ、って笠地蔵!」

気づけば、大路の後ろにスーツを着て笠を被ったペストマスクの男がいた。

「かさじい、急に出て来ないでください!怖いです!」

「ええっとですねぇ、慣れてくださいな」

「がんばる!」

「すまぬ笠地蔵!お主のアコーディオンを壊してしまった!」

大路は慌てて土下座した。

「みなさん無事のようですし、良いですよ」

「え、良いのか!」

「みなさんはお金で買えませんが、アコーディオンはお金で買えますからねぇ」

「さすがはかさじい、デブです!」

「太っ腹、ですよねぇ?」

すると御子はもう1枚レジャーシートを広げた。

「みんなでお茶にする?」

「いいですねぇ、では私はこのようかんを」

「あ、それ私の!」

すると大路が立ち上がった。

「では余がもっと探してこよう!」

「さすが」

「全ては笠地蔵殿のため!」

大路は霊魂ヘリに乗り、空中庭園へと舞い上がっていった。笠地蔵がレジャーシートに座りながら呟く。

「なんか私がパシらせたみたいになってしまいましたね」

「たまにはいいと思う」

「そういうことにしておきましょうかねぇ」

いつの間にか、結海の水は引いていた。




青い海、青い空、そして遠い水平線。どこを見渡してもそれしか見えない。雲も見えない、島も見えない、ただ海と空しか見えないその場所に、4人の人影があった。

「大路はちゃんと寝かしつけたんだろうなぁ」

弥生が今も練習しに来て使っているあのピアノの上に、稲荷卿が座っている。

「ちゃんと武蔵坊の催眠ガスをふりかけた、ガスリンゴを食べさせた」

水面に立つ御子が答えた。

「弥生はどうした」

ピアノの椅子に座っている武蔵坊が聞いた。

「今日は見えてませんねぇ、ということで、いつものお願いしますよ」

ピアノに寄りかかっている笠地蔵が武蔵坊に言うと、武蔵坊は上空に魔法陣を描いた。するとそこから、赤い催眠ガスが噴き出し始め、たちまち離総帝園結界は赤く染め上げられた。仮面をつけている3人と、鼻まで包帯で巻かれている御子には、催眠ガスの効果はない。

「始めましょうかねぇ」

笠地蔵の一言と共に、赤い空が霊魂ヘリで黒く彩られる。4人は、水平線に向かって歩き出した。




我らは王を守るもの。

我らの余生は王のため。

そして我らが最後の同朋、なぎのためのものとする。

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