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ゆる奏屋  作者: 魚岡みお
4/7

開かずの機関車

あるところに、いつも赤いランドセルを背負い赤いウエストポーチをつけている、赤やよいちゃんがいました。ある夏の日、赤やよいちゃんは、おおじさんにお菓子とぶどう酒を届けるため、おおじさんのいる神社にでかけました。その日はよく晴れていてとても暑かったので、赤やよいちゃんは寄り道をしてアイスを買ってしまいました。赤やよいちゃんが神社に着いた時、おおじさんは縁側で寝ていました。赤やよいちゃんはおおじさんを叩き起こして聞きました。

「何でおーじさんの帽子は大きいの?」

「それは日焼けしないためだよ」

赤やよいちゃんはバスケットからぶどう酒を取り出すと、縁側に置いてあった湯呑みに注いでからおおじさんに渡して聞きました。

「じゃあ何でおーじさんの学ランの上着はちょっと大きいの?」

「それは日焼けしないためだよ」

赤やよいちゃんはおおじさんの隣に座って聞きました。

「じゃあ何で今学ランの上着を脱いでるの?」

「それはお前を食べるためだよ!」

神社に吊るされている風鈴が、1回だけ鳴った。

「ちと無理があるな」

「無理がありますね」

神社を覆う木々が揺れ、木漏れ日が輝いた。1時過ぎという1番暑い時間帯ではあったが、境内は木陰のお陰でかなり涼しく、寸劇するには丁度いい体感温度だった。

「しかしやってしまった。上着にワインをこぼしてしまうとは」

「ワインの染みって落ちにくいんでしょ?」

「また笠地蔵に叱られるのう。武蔵坊!」

大路がそう呼ぶと、どこからか武蔵坊が現れた。

「笠地蔵の所へ持っていってくれ。ワインをこぼしてしまった」

「いいだろう」

武蔵坊は上着を受け取ると、どこかへ消えた。弥生が棒アイスの袋を開けながら言った。

「むっさんって1番おーじさんのこと尊敬してそうなのに敬語使いませんよね」

「そういえばそうだったな。まぁ逆よりは良かろう」

ミンミンゼミが鳴き出した。弥生が棒アイスを食べながら聞いた。

「それで、今日は何の用なんですか?まさか買い出しだけってことはないですよね?」

「うむ、ちと偉いことになっておってな」

大路はバスケットを持って立ち上がった。

「離帝鉄がすねた」




弥生は、13階に酒奏屋のあるビルの屋上に立っていた。屋上とはいっても、立体駐車場のようになっており、屋根があった。弥生は、陸地の方を向いて立っていた。水平線に沿って並んでいた高層ビル群の向こう側には、大都会が続いているわけではなかった。そこには、地平線に沈みかけるひどく巨大な夕日があった。そしてそれに黒く塗られた、工場地帯が広がっていた。動いてはいるようだ。所々煙が出ている。そしてその隙間を縫うように、1本の川が流れていた。

「待たせたな」

どこからか、予備の上着を着た大路が現れた。

「遅い!」

「笠地蔵に見つかってしまってな」

「怒られました?」

「次から気をつけるだけでいいそうだ」

「かさじいって結構甘いですよね」

「まぁ逆よりは良かろう、それより、あの塔が見えるか?」

大路は、眼下に広がる夕闇の中の工場地帯の一角を指差した。

「鉄塔みたいなのですか?」

「それだ、その側に川が流れておるだろ?そこで離帝鉄を呼んでほしい」

屋上の側に、弥生が乗る霊魂ヘリが一機現れた。

「おーじさんはどうするんですか?」

「余は別行動だ!」

そう言うと大路はビルの屋上から飛び降りた。弥生が慌てて見下ろした時には、大路は別の霊魂ヘリに乗り込み、どこかへ飛んでいくところだった。




「離帝鉄ー!」

弥生は鉄塔の側を流れる川に向かって呼んでみた。大路によれば、この川は離総帝園結海の水を引いてきたもので、離帝鉄が移動する時に使っているらしい。

「離帝鉄ー!」

2回呼んでみたが離帝鉄は現れない。

「本当にすねてるみたいですね」

辺りは、煙と工場の建物らしき建造物が充満していた。

「離帝鉄ー!」

弥生が呼ぶこと3回目、耐え切れなくなったのか、川の中から真っ白なSLが顔だけ出した。

「今だ、捕獲せよー!」

その時、鉄塔の上に立っていた大路が号令をかけた。すると一斉に、工場の陰や煙の中に隠れていた5、6機の霊魂ヘリが離帝鉄を取り囲み、備え付けの銃口から鎖を発射して離帝鉄を捕らえ、空中に引きずり出した。

「作戦大成功ー!やはり弥生は懐かれてるだけあるのう」

「作戦内容先に言ってくださいよ!これで信用ガタ落ちじゃないですか!ごめんね離帝鉄ー!」

空中でぶら下がっている離帝鉄は、汽笛を強く鳴らした。

「さて、それじゃあすねてる理由を話してもらおうかの?」

地上に降りた大路がフェンスに寄りかかると、真っ黒なヘリコプター達は、真っ白なSLが大路と向かい合うように移動した。

「全部吐けば楽になるぞ」

しばらくの沈黙の後、離帝鉄は重い口を開け、呟くようにポツリポツリと語り出した、らしい。もちろん人間には聞こえず、弥生には全く伝わらなかった。

「なるほどな、そういうことだったのか」

「おーじさん? さっきから1人で相槌ばっかり打ってましたけど、どうでしたか?」

「うむ、簡単に言うとな、霊魂ヘリへの嫉妬だな」

確かに、さっきから霊魂ヘリ達がよく顔を見合わせている気がする。何か話しているのかもしれない。

「数も多い、小さくて狭い所も行ける、だから霊魂ヘリの方が便利、だから自分はもういらない、か」

大路は続ける。

「残念だが、それだけでは余らを納得させることはできんぞ」

「そうですよ! あなたが諦めても私達は諦めませんよ!」

離帝鉄は黙ったままである。大路は続ける。

「たとえお主の代わりがいたとしても、お主より優れているものがいたとしても、お主にしかできないことはある。お主にはお主にしかできないことしかできないのだ」

「そうです!」

「理屈を並べてばかりではいかんな。弥生、何かこやつにしかできないことを言ってやれ」

「そうです、え! 私ですか! えっと、そうですね。あ、これならどうですか!」

弥生はがんばって続ける。

「水中に入れるのは離帝鉄だけです! そうですよね?」

「うむ、そうだな。霊魂ヘリ達は元烏、それこそ烏の行水程度にしか入れんな」

霊魂ヘリ達も頷いている。

「水中の景色はとてもきれいだと思います!最近見てなかったので、また見せてください!」

弥生が一気に畳み掛けると、離帝鉄の目が輝いたような気がした。

「その通り、お主はこの世界に必要だ」

離帝鉄は何か言ったようだった。すると離帝鉄は鎖を振り切り、上空を一回転すると弥生の前に停車、ドアを開けた。大きな夕日は沈みきり、工場には明かりが灯り、光を取り戻していた。その時、稲荷卿が空から舞い降りてきた。

「おい、そろそろ定演の準備を始めたらどうだ」

「む、もうそんな時間か」

「じゃあ、水中経由結界の外まで、よろしく離帝鉄!」

3人を乗せた真っ白なSLは、川に吸い込まれ消えていった。霊魂ヘリ達も解散しようと鎖をしまい始めると、工場の煙突の陰から声が聞こえた。

「みんな」

霊魂ヘリ達が煙突の方を見ると、煙突の陰から御子が現れた。

「明日はよろしく」




「夢と現実」

宮浦弥生


私は今日、いつも通り結界に行った。でもその結界は、いつも通りじゃなかった。空が一面、真っ赤な雲で覆われていた。海も、それが反射して真っ赤だった。私が立ち尽くしていると、真っ赤な空を真っ黒な霊魂ヘリ達が飛んでいった。たくさんいた。空が今度は真っ黒になるかと思うくらいたくさんいた。みんなどこかへ向かっているみたいだった。霊魂ヘリ達の行く先を見ようとしたけど、そこから先は覚えてない。誰もいない酒奏屋で目が覚めた。急いで引き戸を開けてベランダに出ると、空も海もいつも通り青かった。私は夢を見たんだと思う。たぶん。

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