eyevery天使 共通①命を狙われる少女
――― 病になっても薬は要らず 恋は心地のよい病。
夫とでは病にかかれない
彼とでなければこの幸福な病は訪れない。
恋という名の病を治す薬はない。
そして、特効薬がなくても困らない。
ああ、夫が憎い。
「最近変な夢を見るの」
「変な夢?」
「“夫が憎い”そんなことを夢の中の私が言っていたの」
「夫どころか彼氏もいないのにそんな夢を見たんだ」
「うん、不思議~」
「夫といえばお姉さん結婚するんだって?」
「うん、そうなの」
姉は親が決めた婚約者がいて、来月結婚式をする予定らしい。
「今時親が決めるなんてさすがは旧華族家だね」
「いま、私をもらいっ子とか思ったでしょ」
たしかにそんな自覚はあるし、私にお嬢様らしさはないけども。
「で、さっきからなに窓みてるの」
――放課後に教室の窓から見えるのは、学園の女子ならば誰でも憧れる生徒会長の城河くん。
「やっぱり、好きだなぁ…」
「何が?」
「A組の城河くん」
「あっそ……ねえ、僕ヒットマン雇ったから」
「ふーん」
「それは嘘だけど、アンタ今日死ぬよ」
幼馴染の櫂南柵はよく私をからかう。しかしもう馬鹿みたいな脅しにはひっかからない。
たとえ寿命が見えるオカルトくんでもだ。
「私そういうの信じてないから死なない死なない」
「フラグたてちゃったねー」
「日乃宮さん」
「あ、城河くん」
「二人とも、よろしければ一緒に帰りませんか?」
「私はいいよ!」
「僕も別にいいけど」
こうして柵と憧れの城河くんとで三人で帰ることになった。
「……じゃ、僕あっちだから」
柵と別れ、私は城河くんと二人になるうつむいて彼の後ろを歩く―――とつぜん私の肩を誰かがつかんだ。
「この泥棒猫おお!!しねええ!!」
「きゃあああああ!?」
逃げなくちゃ逃げなくちゃ。
「絶対にお前を殺してやるわあああ!!」
―――この人、ワタシに刃物を向けている!
「彼女から離れろ!!」
城河くんは手刀で包丁を叩きおとした。
私は彼に無事に自宅に送り届けてもらった。そして、なぜそんな目にあったのかはすぐに理解できた。
―――帰宅したとき、信じられない話をされたのだ。
婚約者のいる姉が別の男性と駆け落ちし、行方が知れなくなったという。
そしておそらく私を襲ったのは姉と駆け落ちした男性の恋人。
姉と私はよく顔が似ているから間違えたのだろう。
「貴女は貞淑で理性的な女性でいてね」
「はい、もちろん姉のような愚かな女にはなりません」
――登校したらクラスではその話が噂されていた。
「よっお嬢様、お姉さん他に男作って逃走したんだっけか」
「…お前、失礼だろ」
柵が男子を睨み付けた。
「それが事実だとしても貴方には一切関係ない筈」
城河くんが冷ややかな眼差しで男子を一喝した。
「そっそれもそうだな……」
目を反らして彼らは去った。
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帰宅すると私は姉の婚約者と会うことになった。姉の代わりに私がその彼と結婚させられるらしい。
「後は若い二人にまかせて…」
「先に言っておきますが例え結婚しても僕は貴女を愛せない」
「そうですか」
「他に好きな女性がいる」
「だから?」
「本当に結婚したくない。僕も断るから君から断ってくれ」
「何を甘いこと言ってらっしゃるんですか?」
「え?」
「お互い、結婚が自由でないことはしってますよね?」
「愛人を作り家庭を省みないと言っても断らない?」
「まさか、貴方は姉が好きだからそんなことを言うんですよね?」
図星だったようで、彼は頷いた。