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薬を飲み始めたからと言ってすぐに何かが変わるわけでもなかった。
抗うつ剤は、効き始めるまでに2、3週間かかるらしい。
ただ、副作用はすぐに出た。
睡眠を取ってもすぐに起きてしまったり、性器がすぐに萎えてしまって射精が出来ないという恥ずかしい副作用だった。
射精が出来ないというのはなかなかにつらい。
特別女と交流があるわけでもないが…
いつからだろう…自分にとってはとても重要な感覚が芽生えていた。
その感覚に名前があるのかわからない
ただ、この感覚によく聞く感情の名前が無いのは、きっと特殊な感覚だからだろう。
喜び、悲しみ、虚しさ、楽しさ、怒り…etc
どれにも当てはまらない。
この感覚を言葉にするのなら、長い小説を読み終わった時のあの余韻のような切なさに近いかもしれない
僕は小説を読んでは、その余韻に浸るのだが、あまりにも胸を締め付けるようで、とても苦しく、とても快感であった。
自分が壊れてしまいそうなほどの苦しさと快楽
昔と比べて喜怒哀楽がめっきり薄くなった僕にとって一番の快感だった。
僕はこの快感を得るために生きているのかもしれないと思うことがある。
のちのち、この感覚はうつ病から来るもので、うつ病が治るとともに無くなってしまうものだとわかるのだった。