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機密情報

 村民の団結力はすさまじかった。


 一週間という短い期間で、約三割ほどの家屋が元通りになっていた。怨神に押し倒されたはずの木々も、ほぼすべてが綺麗になくなっている。それらは家屋の建て直しに利用されているようだ。動物の力も総動員されているようで、人間に連れられて木材を運んでいる馬もあちこちにいる。


 当然だが、真っ先に修繕されたのは長老の家らしい。私の生まれるより前にそこにあったであろう建物が、ほぼ完璧な形で再現されていた。


「すごい……」

 来訪者に連れられ、村を見渡しながら、私は思わずつぶやいた。

「すごいよな。みんなまだまだ現役でよ、嬉しい限りさ」

 そう言って来訪者も笑った。


 それだけではない。村民らはこれ以上ないくらいに優しかった。働き盛りにして一週間も怠けていた私に、白い目を向けてくる者は一人もいなかった。気まずい思いで村を歩く私を、咎める者は誰一人としていなかった。久しぶり。元気か。大丈夫か。もう動けるのか。穏やかな顔でそう言ってくれる彼らに、涙をおさえて返事をするのが大変だった。


 賊のように、奪うことしか考えない人間もいる。

 そして村民のように、他者への愛を忘れない人間もたしかにいる。


「じゃ、俺は仕事に戻るからな。おまえらも早く仲直りしろよ」

 言ってから、来訪者はいずこへと去って行った。私とショウイチだけが残された。


「……じゃ、入るよ」

 彼の顔を見ずに、私は問いかける。

「……ああ」

 彼もたぶん、私を見ないまま応じた。


 扉を開ける。

 その先は、見慣れた村長宅そのものと言ってよかった。

 太い丸太がいくつも連なった床。その中心部を、村一番の職人がつくりあげた赤い絨毯が横断している。同じく丸太によって構成されている壁には、鹿の頭部や、獣の毛皮が飾られている。


「おお、チヨコ、ショウイチ、待っておったぞ」

 そして絨毯の先に胡座をかいて座っている老人こそが、村一番の権力者――長老である。


「なーに言ってんだジジイ。さっきちょっと挨拶したじゃねえかよ」

 髪を掻きながら言うショウイチに、長老は眉根を寄せた。

「あんな一方的な挨拶があるか! まったく、その歳になって礼儀も知らんとはな」

 大仰にため息をつく長老。ショウイチも悪びれることなく、腕を組んでそっぽを向いている。久々に会った長老に対してこの態度。彼は相変わらず、肝心なところが成長しない。


「まあよい。二人とも、そこに座れ」

 言われて、私とショウイチは数歩進み、そこに腰を降ろした。私は正座、ショウイチは胡座という格好になった。


 うむ。長老はうなずくと、まず私に顔を向けた。

「チヨコ。あれから一週間が経つ。心境のほどはどうかの」

「……自分でもよくわからないんです。ですがもう過ぎたこと。彼のことは忘れます」

「うーむ」

 長老は片手で頬をさすりながら、しばらく黙考していた。やがて神妙な声でつぶやく。

「つまりは、現在まだ心の整理がついていないんじゃな」


 痛いところを突かれた。顔を落とし、

「はい」

 と小さく返答する。


「いや、いい。仕方のないことだ。わしとてばあさんを亡くした。気持ちはようわかる」

「すみません……本当は真っ先に働くべきなのに……」

「気にせんでよい。村の者はみな、お主の心境を理解しておる」

「…………」


 いけない。


 また『あれ』が起こる。ミノルの顔を、声を、腕を……思い出してしまう。


 その私の思考さえも読み取ったのか、長老はやや明るい声で言った。

「チヨコ。あわよくばミノルに会いたいか」

「……はい、まだ」

「そうか。……会える方法なら、なくもない」

「え……?」

 思わず顔を上げる。

「いいか。これから話すことは言い伝えにも記されておらん機密事項じゃ。心して聞け。いたずらに村民に吹聴するなよ」


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