表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
END OF THE WORLD~喪女JKの奮闘記~  作者: 月光神楽
2/3

第二話 暗闇から感じた暖かさ

時は流れ、今は放課後。

校内に居るほとんどの生徒が、部活に励み、青春の汗を流している。

それなのに私は…


「…こんな所で何をしているんだ!」


何の青春も感じない国語準備室。

辛うじて私の好きな本の香りが漂っていて私と有沢が長机に対峙して座っている。


そして私の片手には可愛らしいティーカップ。

目の前に置かれた甘い香り漂うクッキー。


そして口の中にもクッキー。

サクッと軽く、そして甘すぎず。

紅茶に良く合う味だ。

ああ美味い。


ポンポンと口の中に放り込む。


この際青春は諦めよう。

ああ美味い美味い。


すると目の前に座っている奴が、ためため息を吐いた。


「お前よく食うな。感動するよ、うん。でもそれ以上食うと豚になるぞおい豚」


「ふでいぶあだかりゃいいふだお(既に豚だから良いんだよ)」


有沢がまたもため息を付いた。

それもわざとらしく。


こんなのが画になるって言う女子が居るから困ったものだ。

こんな奴のどこが良いのか。


「てかお前、もう少し早く来ること出来なかったのかよ」


ほれっと腕時計を突き付けられる。


ちらっとそれを見る。

その針は4時15分を指していた。


私はもぐもぐと租借したものを飲み込み、紅茶を一口啜る。

ちなみにこれはミルクティー。

私はストレートは苦手だ。

これも相手の粋な計らい。

感謝感謝(棒読み


「時間にうるさい男は嫌われるぞ♥ッギャ!いったいんだけど!」


有沢はデコピンを私に食らわせ、口を引きつりながら額に青筋を浮かべる。


「お前…ここは一応学校だ。少し口を慎m」


「なに言ってんのケンケン。ここケンケンの言わば城なんだから自宅も学校もクソもないでしょうに」


ここは有沢が大抵引きこもっている準備室。

生徒から集めたプリントや、ノート、授業に使う備品が置いてある場所だ。

そしてこの学校には、現国の先生が二人しか居らず、もう片方の先生は、提出物こそここに置きに来るが、丸付けやお昼などは完全に職員室派。

なので実質この部屋は有沢の物なのだ。


「それ言うなよ。てかさっきの取り消せよ、俺は女子に好かれるんだからな」


「うわっすげえ自信。なんだか有り難いな。拝んでおこう」


ナムナムと手を合わせ、頭をちょこんと下げる。

ちなみに取り消す気はさらさらない。


そうしていると、今度はデコピンじゃなくチョップを食らった。


「いったい!グレードアップ!」


「パパに逆らうからだ、自分を恨め」


「パパ面してんじゃねーよケンケンこんな若いパパ持った覚えねーよ」


「…反抗期?パパ悲しい」


ヨヨヨと伏せた有沢を尻目に見ながら、残りのクッキーを拝借する。


ちなみに、有沢はパパじゃない。

有沢はパパの年の離れた弟だ。

じゃあ本当のパパはと言うと、もう居ない。

どこぞのドラマだと言う感じだが、私が中学生の時に他界した。

母もだ。

二人して結婚記念日に、とドライブに行ったきりだった。

勿論私も誘われてたが、私は二人で行ってきてと遠慮して、自宅で留守番だった。

さて、そろそろ寝るかと寝室に向かう途中にその知らせが入った。


即死だったらしい。

居眠り運転していてハンドルを誤った運転手が、対向車線に乗り込み、パパとママの車に真っ正面からドーン。

即死だったらしいから、焼死とか圧死じゃなかっただけでも感謝しなくてはと思う。

いや、感謝はしない。


その時支えてくれたのが、有沢だった。

父方も母方の祖父母も数年前に他界していて、親戚は私のことを邪険にしていた。

きっと私のことは引き取るだけ引き取り、遺産をぶんだ食った上で、私を居るけど居ない存在として、良いように使われるに違いなかった。

有沢が居なかったら、私はきっと孤児院に居ただろうと思う。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


葬式の日は生憎雨だった。


空が同情してくれてるのに、なぜか泣けなかった。

そんな私を親戚は良くない目で見てた。


最後にパパとママが入った棺から顔を見たときでさえ泣けなかった。


泣かなかった。


式が終わり、精進落としが行われている、部屋に向かうと早々と親戚が自分の席へ座り、お酒やらなにやら好き勝手していた。


私が自席へ座ると、全ての視線が私に注がれた。


ある人が、パパの兄弟で二番目の人に預かってやれないかと聞いていた。


パパの弟さんは、もちろんと言ってくれたが、その奥さんがうんとは言わなかった。


自分達にも子供がいる。教育費がこれ以上増えるのはごめんだ、と。


他にも親戚がいて、養ってくれるという申し出もあった。

だが、血のつながりすらあるのかないのかと言う遠い親戚で、大抵そう言うのは遺産目当てだと言うのが見え見えだった。

実際、誰が私を養って、遺産を手に入れるかと、小声で話し合っているのが聞こえた。


もういっそのこと、孤児院に入るかとボーとしていると、後ろから雨に濡れた有沢が肩をつかんできた。


「なんでそんなに濡れてるの?傘は?学校は?」


後ろを振り向くと、みるに耐えないくらいびしょ濡れの有沢が何ともいえない顔で突っ立っていた。


有沢が通った後には、塗れた足跡が残っていて、畳が黒くなっていた。


周りの人たちが怪訝な顔をしているのを無視して、有沢は私の視線に合わせてしゃがみ、嫌がる私をギュッと強く抱きしめた。


「ごめんなぁ、待たせたな。もう大丈夫だからな、俺が居るから、もう大丈夫だから」


呪文のように大丈夫と何度も言われ、今まで抑えていたものが崩壊した。


「ぅうっ…」


有沢は冷たかったけど、とても温かかった。

私も冷たく濡れてる有沢の背中に手を回して、大声で泣いた。


「うわああああああああっ」


両親が死んでから、初めて泣いた。


有沢が、私の肩に顔を埋め、温かい雨を降らした。

それが心地良くて、すごく安心したという事は、有沢にもまだ言っていない。


私が泣き声そこそこになると、有沢は私の頭を撫でてから大声で周りに宣言した。


「歌帆は俺が預かります」


そのとたん周りから、止めろ、考え直せと、避難の嵐が殺到したが、有沢は決して首を縦に振らなかった。


そのうち、周りの人も諦め、好きにしろと離れて行った。


その中で、まだ遺産を諦めていない奴も多く、去り際に、嫌になったらいつでも連絡してとか、失礼な奴だと遺産を寄越せと言ってくる奴もいた。


その言葉に震えていると、有沢がそいつ等をギッと睨み、私を抱きしめた。


もうこの時点で、私の中の有沢は、両親と同じくらいの信頼を得ていた。


当時の有沢は、まだ大学生で、養う余裕なんて無かったはずなのに、よくここまで育ててくれたなと思う。


そして運命のいたずらで、同じ学校の生徒と教師という関係になった。


もちろん周りには秘密だ。


あの日、どうして有沢がびしょ濡れだったのかと聞いたことがある。

その時はお酒が少し回っていて、少し照れながらも、ちょびちょび語ってくれた。


どうやらその日は、教員採用の試験があり、葬式とかぶってしまったので、大急ぎでテストを終わらせて、タクシーで向かっていた。


が、どうやらそのタクシーのカーナビが壊れてしまったらしく、いつまで経っても目的地に着かない。


挙げ句の果てにはここどこ状態。


仕方ないから、タクシーを諦め、移動に邪魔な傘は捨て、色んな人に聞きながら、走って式場に向かったらしかった。


付いた頃にはもう式は終わり、少し泣きそうになりながらも、精進落としだけは参加しようと、部屋に向かった。


そして、部屋に着いたとき頭を鈍器で殴られたかのような気持ちになったそう。


私が居るのに、誰も慰めの言葉をかけない。

挙げ句の果てには、遺産相続の話をしている。


このとき死ぬほど後悔したと言っていた。


悲しみが大きすぎて、私の存在を忘れていたと。


そして、哀愁漂った私の小さい背中を見たとき、ぞわぞわとした物を胸に押し込めながら、私を振り向かせ、泣きたくなったと。


あれほど何も見えていない目を見たことないと。


もうこの時点で、覚悟は決まっていたと。


その後色々手続きして、今現在一緒の家に暮らしている。

消して広くはないが、私は満足だ。


「本当ごめんな。行くのが遅れて」


話終えると、有沢はビールを持ちながら、片手で目を覆った。


私も泣きそうになった。




▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


と言う事があり、パパではないが、第二の親として今現在お世話になっている。


私を育てながら試験勉強をし、希望の学校に勤めることができた有沢を私は一生尊敬する。


「別に、反抗期じゃないよ。パパじゃないけど有沢は私の親でしょ」


ズズズッとミルクティーを啜る。


そのとたん伏せていた顔を上げ、何とも嬉しそうに私の頭を撫でた。


「そうかそうか、反抗期じゃなくてツンデレか」


「おっまじっありえないっ」


パパパパパッと手を振り払う。


ケラケラ笑う有沢を睨んでいると、有沢の後ろの机に見覚えのあるノートが置いてあった。


「あれは…」


そうだっ!!忘れてた!!


バンッと立ち上がり、有沢がビビったのも気にせず真っ直ぐノートのもとへ向かう。


そう、あれは私の命の次に大切な…


「ごめんね!もう離さないからーーーっ」


ルートが細やかに記載されたノートである。

ああ、ノート、本当にごめんなさい。

もう二度と離さないから。


「ムフッムフフフフフ」


とノートに頬を擦り付ける。


有沢はそんな私をあきれた目で見つめる。


「お前そんな男のどこが良いんだよ?俺の方が格好いいじゃねーか」


茶色の髪を払い、決めポーズをとる。


そんな有沢に若干引きながらも、応答する。


「二次元の方が面白いし楽しいし優しいしイケメンだもーん。ケンケンとは違うもーん」


有沢は、はぁ、と息を吐き、頭を掻いた。


「お前、ケンケン止めてくれ。ぞわぞわする」


「だってここは学校でしょ?学校ではケンケンって言わないと。どこで誰が聞いてるか分からないんだから」


私だって好きでそんな気持ち悪い徒名で呼んでる訳じゃない。


ぼそっと言うと、また有沢にど突かれた。

でもその顔は晴れやかでキモかった。


視界が何だか見えずらくなってきたな、と思い窓の外を見ると、空がもうオレンジに染まっていて、校舎内からは足音が消えていた。


「今何時!?」


「うわっ!!」


グイッと有沢の腕を引っ張り、時計を確認する。

…見えない。


もっと顔を近づける。


今度は辛うじて見えた。


「…はあっ!?五時!?」


ヤバい非常にまずい。

タイムセールが始まってしまう。


このままでは今週一杯、二人とも腹ぺこで過ごさなくてはいけない。


非常にゆゆしき事態だ。


「もう帰る!タイムセール!カレー!」


今夜のメニューとこれから向かう場所を早口にまくし立て、ポカンとしている有沢に背を向けて、素早く部屋から飛び出した。


タッタッタッと一段飛ばしで階段を駆け下りる。


有沢が帰ってくるまでに夕飯を作っておこう。


大好物のカレーを目の前にして、顔を綻ばせた有沢の顔が頭に浮かぶ。


無意識に口元が緩み、少しワクワクしながら駆け足に学校を後にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ