第一話 喪女な私が告白なんてされる訳がありませんでした
初めまして、月光神楽です。
こちら、記念すべき第一話です。
グロ要素、ホラー要素はまだありませんが、順々に増やしていこうと思っています。(そうならざるをえない
ホラー目当てじゃない方でも楽しんでいただけたら幸いです。
オレンジ色の夕陽が照らす屋上。
静かに対峙する二人の影法師がゆっくりと延びる。
最終下校の放送が微かに聞こえてくる。
もう校舎内には私と彼の二人しか居ないかもしれない。
今まで足元を見ていた彼が、キリッと顔を上げる。
「ごめん、こんな時間に呼んで」
夕陽が彼の顔を赤く染め上げる
私は顔を紅くしながら、ふるふると首を横に振った。
「うんん、良いの。それより話って…?」
彼こと「佐久間祐一」は、校内1、2を争う程のスポーツマン。
サッカー部のエースで、女子の憧れの的だ。
顔は文句の言いようのない程美形で、はにかんだ顔がもうもうお日様より眩しい。
チラッと覗く歯が白く、これが彼の焼けた肌とよく合うのだ。
性格も文句無し。
誰かのためにいつも尽くし、仲間外れは許さない。
誰にでも優しく差別もない。
そんなパーフェクトな彼がなぜ私を呼び出すと?
そんなの決まっておろーが。
(告白に決まってんじゃねーかよ!遂に…遂にこの時が来た!!)
彼にバレぬよう小さくガッツポーズする。
ああ…やっとこの時が来た…ありがとうございます神様。
早希は幸せにございます。
今までどれだけの時間を費やしたと…テスト勉強の間を惜しんで休み時間にトイレでピコピコ。
授業中にノートを取り出してルートの確認。
提出用ノートと間違えて提出したときは冗談抜きで吐くかと思った。
まあ何とかなったが。
顔を少しへにょっとさせた佐久間と向かい合う。
ああこの顔も保存しないと。
そう思い右手の人差し指をクイッと動かす。
スカッ
指が中を掻いた。
あれ、と自分の手を見つめる。
無いぞ。
私の命の次に大事な大事なPSP。
「ないっ!!!?」
スカート、ブレザー、足元、ポッケ、背後と順々に見ていくが無い、無いぞ。
サッと顔から血の気が引いた。
私の奇行に動揺している佐久間に近づく。
「佐久間!!」
「ハイッ!!」
可哀想に背筋をピンッとし少々怯えた顔をしている。
いつもならゲス顔連発の保存しまくりだが今はそんな暇はない。
「私のPSPはどこ!!!?」
「PSP!!!?」
はぁって顔をして来る佐久間にビキッと青筋が立つ。
効果音付きで。
「はぁっ?って…私のPSPどこよ!!」
逆ギレですね。
たち悪いですね。
私の言葉に佐久間は困ったような笑みを見せる。
絵になるな。
「PSP…君、最初からそんなの持ってなかったよ?どうしたの?そんなに声荒上げて…そんなに大切な物なの?」
いつもの君らしくないよ。
眉を寄せ、明らかに困惑した顔を見せる。
「あ、え、…違うの…その、」
あれっと首を傾げる。
PSPなんて私持ってたっけ。
それにこんな制服持ってたっけ。
「あの…私の名前…」
「名前?華宮早希さんでしょ?」
本当どうしたのってコロコロ笑う。
そっか、そうだった。
私の名前は華宮早希で、私立大崎学園に通っていて…
そして目の前にいるあの人が私の…
「早希さん…良いかな?」
ドキッと胸が高鳴る。
「はい…」
高鳴る胸を押さえながら、彼の目を見据える。
「早希さん…いや、早希。俺、早希の事が」
ああ…やっとだ
ドキドキと波打つ胸をキュッと絞める。
「俺、俺と…!!」
やっと私
……大………!…大さ…
うるさいな…良いとこなんだよ
大……大澤………
んん…なんか聞いた事あるような…
大澤!!大澤歌帆!!
雷のようなゴロゴロとした声に、私の意識が急浮上した。
「大澤歌帆!!!?」
「んぁいっ!!?」
寝ぼけ眼を擦りながら、パッパッと辺りを見渡すと、好奇に満ちた目がいくつみ見つめてくる。
クスクス
ちょっといけてるわちゃわちゃ系女子が肩を震わせ笑っている。
え、今の夢?嘘だろ。
「大澤…お前、俺の授業中に良い度胸だな」
ハッと顔を上げると、そこには鬼教師『有沢健二』がそびえ立っていた。
やはり夢だったか…。
内心ガックリと肩を落とす。まあまあPSPは健在(バックの中)らしいのでひとまず安心。
そんな私の横で有沢は咳払い。
とりあえず、何か言うのが一番良さそうだ。
「おはようございます?」
「ああ、おはよう。良く眠れたかい?」
「はい。お陰様で…フゴッ」
言い終わったのを見計らい、有沢は私のほっぺを鷲掴みにした。
PTAに訴えるぞ。
有沢は爽やかスマイルを私に見せつける。
周りの女子達がキャーッと色めき立った。
うるさい豚ども。
こんなクソイケメンのどこが良いんだ。
イケメンだから良いのか。
納得納得。
「後で職員室に来ること」
嫌です先生とは言えず、できる限りほっぺに力を入れながら返事をする。
早く離せよクソイケメン教師。
PTAに密告するぞ。
「分かりました」
私の返事を聞き、うんと頷いた有沢は、どっこらせと私に合わせていた目線から腰を上げ、ノートを片手に教卓へ戻る。
ノート?
「ちょっ!!それっ!!」
ガタッと椅子から飛び上がる。
ちょっと…あれは私の…
ルートを細やかに記載した命の次の次に大切な!!
「あ、これか?」
有沢がパタパタとノートで扇ぐ。
畜生、さっさとその神聖なノートから手を離せゲスめ。
ああ…扇ぐなよ!!
「返して欲しけりゃちゃんと職員室来いよ」
クソ、バレてた。
行くつもり無かったのに…
有沢はニヤニヤしながらご機嫌そうに椅子に座った。
キーンコーンカーンコーン
それと同時にチャイムが鳴る。
「今日はここまで!!」
有沢が伸びをする。
「おい、忘れるなよ」
悪戯が成功した子供のようにニヤッと笑ってきた。
クソイケメン
ああ…めんどくさい。
私は宙を仰いだ。
それにしても
ああ、今日はなんて不幸なんだ。