九
「ブラウスでも、何か上着を貸してくれるだけでいいから」
「そういうわけにもいきませんし、たまたま手持ちに都合のいいものが有りませんので」
「だからって、こういったものを借りるのは」
「気にしないで下さい。そもそも、わたしの不注意が原因ですから」
「どちらかというと、私が気にするのだけど……」
「かといって、上半身、裸というわけにもいきませんでしょ?」
「……それは、そうだけど」
「仮にこのままということになって、わたしがユーフェさんを置いて祭事に出掛けたりしたら、兄に首を絞められてしまいます。何より、わたしの気が済みません。ここは、わたしを助けると考えてもらえれば」
ユーフェは呻くような声を出した。
我を通してサラネに迷惑を掛けるのも気が引ける。さすがに首を絞められたりはしないだろう。確かに斬られるより、首を締められるというほうが現実味がある気がしなくもないが。
不承不承サラネに渡された衣服に袖を通す。
サラネの家に入るなりブラウスを脱がされてしまい、上半身肌着という心許無い格好になってしまった。サラネは桶に水を入れると腕を捲り、手際よく染みの部分を揉み解した。後はしばらく浸けておくという。
「肩と腰を合わせて」
うっすら黄色味がかった白のドレスを、サラネに手伝ってもらいながら身に付けた。
ドレスは綺麗だと思う。それでもユーフェは複雑な思いを抱かざるを得なかった。自分がこういった衣装を着るなんて冗談にしか思えない。まるで女装しているかのようだ。
「どんな感じです?」
ユーフェは気恥ずかしさから赤面してないだろうかと不安になりながら答える。
「ちょっと胸がきついかも」
サラネはユーフェの胸を見ながら数瞬沈黙した。
「まあ、これぐらいなら我慢して下さい。回ってもらえますか?」
言われた通りにその場で回転して見せる。裾が翻る感じに戸惑いを覚えずにはいられない。
「いいんじゃないでしょうかね」
納得したようにサラネが微笑んだ。
「髪を結ってる時間はないですけど、お化粧してしまいましょう」
ユーフェはぎょっとして頭を振るう。
「ユーフェさんはあまり外見に頓着なさらないようですけど、その姿でお化粧をしないとかえって不自然に思われますよ」
「そうですよ。そのままで出て行かれてはサラネも不本意でしょうしね」
突然のヘスルの声にびっくりする。
「なんでここに? いつから?」
ユーフェは自分の長い耳が熱くなるのを感じた。
「いやあ、責任の一端は私に有りますし。ちゃんと着替え終わってから入りましたよ。そこら辺はわきまえてます。ひっぱたかれるのが目に見えてますから」
ヘスルがサラネの家に入ってきたのにまったく気付かなかった。ドレス姿を見られてると思うと顔から火が出るかのようだった。何でそんなに恥ずかしいのかユーフェ自身にも理解できない。
「ユーフェさんには、淡い桃色の紅が似合うと思うんですけど」
ヘスルは平然とした語調で提案してきた。
サラネは不満そうに返す。
「センスだけはいいんですね」
ユーフェはそんなやり取りを聞きながら諦めに似た心持ちになってきた。二人ともユーフェを気に掛けてやってくれていることなのだから。感謝する気持ちは確かにある。だが、
「二人とも有難いのだけど、はめられた気がしてならないのはどうしてだろう?」