六
村の祭儀が近づいてくると、ニーサは祈祷師という立場上細々とした打ち合わせに顔を出さなければならなくなってくる。大半は長老が済ませてしまえば事足りることではあったが。その日も長老が丸投げした案件を処理して帰宅の途に就いていた。
祭儀に思いを馳せ、それとは全く別のことを考えながら歩いていた。
ニーサ本人が表立って動いては恐らく事がうまく運ばない。サラネなら事情を話せば協力してくれるだろう。だが、サラネだけだと勘付かれる危険がある。最低でも後一人ぐらいは協力者が欲しい。長老に話をしてみようかと思いを巡らす。否定する声がすぐに湧いてくる。長老が絡むと無駄に話が大きくなり、相手を抜き差しならない所まで追い込んでしまう気がする。
ニーサの目に、自分の家の扉を叩く男の姿が映った。
「ブセント、どうかしましたか?」
ブセントはニーサに振り返り挨拶をした。
「午後からとの約束でしたので、ユーフェメディナさんはまだおられるかなと」
「もう向かっていると思いますよ」
ニーサは微笑みを浮かべる。
「どうです? あの方の剣技は上達してますか?」
ブセントは少し考えて、
「本調子になれば技量は、私以上だと思います」
ニーサはなるほどと頷き、宜しくお願いしますと頭を下げた。
「では、私も向かってみます」言いながらも、ブセントはニーサの顔をじっと見る。「何か悩み事でもあるのでしょうか? ニーサ」
「どうしてそのように思うのです?」
内心驚きつつも、普段と変わらぬ口調で尋ね返した。
「これといった理由はありませんが、そんな気がしただけです。お気を悪くされないで下さい。祭儀も近づいてますので気忙しくてお疲れなのかと」
「毎年やってることですからね。そんなことはないです」
ニーサは笑って答え、悪戯っぽく付け加える。
「ちょっと悪巧みをしてるだけですよ」