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人生終わらせ屋、はじめました  作者: 秋桜
【第一章】依頼:宝探し
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梅に鶯、柳に燕――陸

「和泉」


 千崎が静かに呼ぶと、和泉が渋々と持っていた紙袋をつばめに差し出す。

 中には今はどこにも置いてないような旧式のゲームカセットが入っていた。

「探すの大変だったんだからな……。こんな田舎町の中古屋じゃ売ってねぇし」

 和泉が恩着せがましく首を鳴らす。

「つばさは、これを買いにあの日、百貨店に行ったんだ」

 千崎がしゃがみこんでつばめに言った。

 誰のために。

 つばめは忘れもしない記憶を思い出す。

 ずっと後悔していた。まさかあれが最後の言葉になるなんて思わなかったのだ。

 ――大っ嫌い! いなくなっちゃえばいいのに。

「ゲームなんかどうでもよかったのに」

 父親が死んでから兄はおかしくなった。妹の自分から見ても異常なほど父親にべったりで何をするにも一緒だった。そんな父親がいなくなって兄は笑うことを忘れて、家に引き篭もり、ゲームばかりするようになった。

 昔の元気な兄が大好きだった。勇ましく悪戯をしては怒られ、懲りずに繰り返す。何度泣かされたかしれない。それでも大好きだった。

 笑って欲しかった。

 父親がいなくなって兄が笑わなくなって、家は一気に明るさを失った。どんなに自分が元気に明るく振舞おうと明かりにはなれなかった。

 ――お兄ちゃん、笑って。寂しい。

 そんな時、兄が自分のカセットを不注意で壊してしまった。

 あれほど怒るつもりはなかった。いろいろな感情が混ざり合って一気に爆発した。そのきっかけがゲームだっただけのことだ。

 ――大っ嫌い! いなくなっちゃえばいいのに。

 次の日、兄はこの世から本当にいなくなってしまった。

「ゲームなんかどうでもよかったのに……」

 つばめの嗚咽がしばらく静かな丘に響いた。



〈ごめん〉

 ずっと後悔していた。謝れなかったこと。

 つばさは柚里の身体から抜け、妹の頭を撫でた。

 当然、つばめは気付かなかったが、彼は確かにいつかの笑顔のように笑って見せた。

 そしてつばめが涙を止めるころには、彼の姿は千崎たちにも見えなくなっていた。




「結局、タダ働き……密のパンツでも売ってく――っ」

 いまだ空っぽの豚の貯金箱に頬ずりをしている和泉の頭を千崎が持っていた参考書で叩いた。

「むしろ和泉くんにとっては出費でしたね。ゲームカセット」

「え、あれ割り勘じゃねぇの?」

「傘を盗むとどうなるか、これで反省してくださいね」

 時雨荘にはいつも通りの何もない日常が戻っていた。

 しかしここにいる誰もが数日前とは少し心持が変わっていたのは確かだ。

 千崎たち四人は生まれつき見鬼でそれが災いを呼び、それぞれが嫌な思いをしてきた過去もある。

 その力を誰かのために自らの意志で使ったのは初めてだった。

 自分の能力を嫌悪し、奥に秘め、触れないように生きてきた。しかしこうして同じ能力者の四人が集まり、自分たちの能力に向き合う一歩を恐る恐るみんなで踏み出した。

 そんな話をどんな思いで"あの人"は聞いてくれるだろうか。

 千崎は縁側に座り込み、腕輪の瑪瑙をじっと見つめた。

「あのっ……」

 千崎たちがいつものように他愛のない会話を繰り広げていると、庭にもう見慣れた少女が立っていた。

「ふほーしんにゅー」

「うるさいっ!」

 からかう和泉を一喝するとつばめは栗色の髪を揺らしながら、和泉の元へ駆け寄った。

 思わぬつばめの大接近に和泉は狼狽する。

 つばめはそんな和泉の様子に勝ち誇った笑みを浮かべ、先ほどから握りっぱなしの拳を突き出す。殴られると思った和泉がとっさにガードするが、つばめの拳は和泉の顔面すれすれで止まる。

「手、出して」

 和泉が恐る恐る手を出すと、つばめはそこに銀色のコインを二枚落とした。

 裏に桜模様のある百円硬貨である。

「文句は受け付けないから!」

 そういって全速力で去ってしまった。

 残された和泉たちはしばらく呆然と渡された百円硬貨二枚を見つめる。

「――報酬?」

 和泉が呟く。それが火種になったのか四人は笑い出した。

「良かったですね。タダ働きじゃなくて」

「二百円って少ねぇなぁ」

 和泉は文句を垂れながら丁寧に貯金箱にそれを入れた。






感想を書いてくださった方の案をお借りして、サブタイトルの形を変えました。わたしの軽い頭ではお借りするしかなく、お恥ずかしいですが。

その代わり大字にしてみました。


わたし的に今回の話の資料をネットで調べていると、驚くべき事実に出会いました。つばめから渡される百円硬貨について……不安になったので調べてみたことが。

わたしとしては桜模様があるほうが「裏」だと考えてました。よく「裏表どーっちだっ」て遊びますよね。皆さんも桜模様があるほうが「裏」だと思っているのでは…。父に尋ねてみたところ、父もこっちが裏だと。

法律上は決まってないそうなのですが、製造する上で便宜上は桜模様が「表」なのだそうです。まじかー。

今回の話の中では「裏」とさせていただいてます。こっちのほうが違和感がない……もし皆さんから「表でしょ!」て意見が多く上がれば変えます。どうなんでしょうかね……?笑

さらに側面のギザギザは103個あるそうです。

仏教に少々通じているわたしとしてはそこは108じゃないのか……と一番に考えてしまいました笑


あとがき長いぞー笑

宝探し編は今回で無事終了~。

明日からは新章です。すでに書き終わってます。

楽しみにしてくださってる方がいるのか疑問ですが、お楽しみに!

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