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人生終わらせ屋、はじめました  作者: 秋桜
【第一章】依頼:宝探し
3/31

梅に鶯、柳に燕――壱

今更ですが、第一章は「人生終わらせ屋、はじめました」から読んでいただいたほうが良いかもしれません……

ああ、今更だ。

「すいませーん」


 一人の少女が時雨荘を訪れた。

 短い茶色の髪が少女の動きに合わせてふわりと揺れる。赤いランドセルについた鈴付きのキーホルダーが遠慮がちにちりりんと静かな時雨荘に音を響かせた。

「ふぁーい」

 密は久々に晴れたので陽気に庭で洗濯物を干し、柚里は時間さえあれば弓の稽古に精を出している。千崎も時間さえあれば勉学に勤しんでいるため、つまり応対に出たのは比較的いつも暇な和泉だった。

「げっ、和泉……」

 少女は和泉の姿を見て、失礼極まりない反応を見せた。しかし当の和泉はすでにその反応には慣れており、むしろ嫌味ったらしく笑ってみせる。

「密くんが良かった……」

「小学生のくせに色気づいてんじゃねぇよ」

 和泉がそういうと少女は恥ずかしそうに顔を赤らめ、和泉を睨みあげた。

 そしてふと何かに気付いたように視線を固定する。その先にはこの古びた日本家屋には不釣合いな明るい水色の傘が一本。

「……これわたしの!」

 和泉が雨の日に差して帰ってきた傘だった。よく見ると内側に名札がついている。

 ――松原つばめ。

「落ちてた」

「絶対嘘だ! だってちゃんとコンビニの傘立てにかけたもん! 和泉が盗んだんでしょ!」

「言いがかりはやめろ。誰かが盗んで落としたかもしれねぇだろ」

 和泉はおどけたように両手を胸の前で振り、つばめを嘲笑いながら見下した。

「この平和な町内でそんなちっさい悪事働くの和泉くらいだもん! 今度こそお巡りさんに言いつけてやる!」

 つばめの甲高い非難の声に千崎が姿を現す。庭にいた密もこっそりと玄関の様子を窺う。離れた道場にいる柚里だけは騒音が聞こえていないようだった。

「お巡りさんも面倒くさくて動かねぇよ、たぶん。密の折れた使用済み箸やるから、機嫌直せ」

 密が無言で持っていた洗濯物を地面に落とした。

 折れた使用済み箸、つまりゴミで口封じされようとしているつばめは、何故か心が揺り動かされている。

「わ、わたしはそんな変態じゃないもん! パンツぐらい持ってこないと動かないから」

 密は拾い上げた洗濯物に顔を埋めて激しく首を振る。

 十分変態である。

「仕方ねぇなぁ。待ってろ、持って――」

 和泉の言葉が言い終わらないうちに千崎が飾り物の刀で和泉の頭部を強打した。

「持ってくんな!」

 和泉はそのまま玄関に伸びてしまった。

「絶対に許さないから。絶対にお巡りさんに言いつけるし、先生にも言いつけるし、お母さんにも言いつける」

 つばめはそういうと自分の傘を持って出て行ってしまった。

 しかし十秒も経たないうちにダッシュで戻ってきた。その手には四つに折りたたまれた跡がある見慣れたチラシがあった。

「これ、無料で引き受けてくれたらなかったことにしていい」




 つばめの依頼は「宝探し」。

「つばめちゃん、この仕事ちゃんと理解してくれてるんでしょうか」

 稽古から戻った柚里が、梅干を口に投げ込みながら呟く。

 ――つばめの宝を探して。

 つばめが言ったのはただこれだけ。手がかりは一切教えられず、見つけられなかったら交番行くからと勝手に帰ってしまった。

「ほっとけばよくねぇ? 明日になれば忘れてんだろ」

 金が発生しないとなればやる意味はないのか、せっかくの依頼に乗り気ではない和泉。

「誰のせいだ。お前が傘を盗むから……」

「コンビニの前に落ちてた。風で傘立てから飛ばされて落ちたんだな」

「それは落ちてたとは言わない。拾ってくるな」

 珍しく密が怒っているのか並べられた食卓の上に、和泉の分だけおかずがなかった。

「宝探しってどういった宝なのでしょうか。宝石とか価値のある宝なのか、つばめちゃんにとっての宝なのか」

「後者だろ。小学生だぞ」

 千崎は煮物をつつく。柚里は味噌汁に何故か柚酢を加えていた。

「だとしたら何でも宝物になりえますよね。好きな人にもらった物とか、好きな人の写真とか」

「……柚里、発想が乙女すぎ」

「本来、この乙女仕事は千崎くんですからね。感謝してください」

 何の感謝だろうか。

 千崎は味噌汁の水面に映る自分の顔に問いかける。自分は乙女仕事など担っていたのか。

「とにかくつばめちゃんという子を調べる必要がありますね」

「調べるって……近所の子って認識しかないが」

 松原という家は比較的近所だが、親しいわけではない。千崎たちも唯一つばめと顔見知り程度である。

「たしか静流しずると同じ小学校じゃないか?」

「では静流ちゃんに聞いてみましょうか」

「数年前に兄が隣町で事故に遭って亡くなっている、たしか」

 密がぽつりと呟くと全員の箸が止まる。

 柚里が満足そうに人差し指を立て、不謹慎にもにやりと笑った。

「それです!」



和泉さんは好かれ嫌われが五分五分。

時雨荘のトラブルメーカーです。今回も彼が若干トラブル招いてました。


感想を書いてくださった方の案をお借りしてサブタイトル変更済み。

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