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人生終わらせ屋、はじめました  作者: 秋桜
【第三章】お母さん
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親思う心にまさる親心――伍

「ちさきくーん、お絵かきしよーっ」

 元気な声で呼ばれて、千崎はうんざりとした顔で振り返った。

 いつの間にか園児は室内に入り、いつの間にか千崎はエプロンを首から提げ、いつの間にか当たり前のように園児に遊ばれている。

「みろよ、ちさきぃ!」

 無駄に大きな声で男の子に呼ばれたので振り返る。

「すっぽんぽんっ!」

 何故。

 振り返ると男の子が素っ裸で廊下を走り回っていた。

「えーとぉ……」

 どう反応して良いのか分からず、千崎がため息を吐くと、横から密が出てきた。

一樹かずき、早く着替えろ。風邪を引く」

 密は男の子の背中を押して、年少のクラスに入っていく。

 千崎がちらりと覗くと、密は中腰になって男の子の着替えを見守り、さりげなく手を伸ばしては手伝っていた。

「お母さんっ……」

 いつの間にか千崎の隣にいた和泉が嘘くさい涙声で呟く。

 千崎も和泉と大体同じことを考えていた。密のポジションはお父さんというよりお母さんであると。いつもは無感情のくせに子供を見守る目は慈愛に満ちている。

「密くんもまた性別間違えちゃった人の一人ですかね」

 柚里が数人の園児を引き連れてトイレから出てきた。

「まともなの俺だけじゃねぇかー」

「何勘違いしてるんですか。性別語る以前に人間として疑わしいバカのくせに」

 柚里は和泉を一刀両断してそそくさと年長のクラスに入っていった。

「え、ちょ……酷くねぇ? あれは酷くねぇ?」

 和泉が涙声で千崎に同意を求めるが、千崎はそれから逃げるように年少のクラスに入った。

 部屋の中には真帆の姿があった。

「ちさきくーん、みて! あゆみ、かんじかけるんだよぉ」

 一人の女の子が騒々しい足音を立てて走ってくる。そして千崎の足元までやってくると、嬉々として持っていた紙を掲げた。

「ほらっ!」

 いびつな線で、愛美あゆみ、としっかり書かれている。芸術的に見えなくもない。

「すごいなぁ、愛美の愛は難しいのに」

 千崎がぽんぽんと頭を撫でると、愛美は顔を赤くして嬉しそうに笑う。

「ちさきくんの字は?」

 愛美が紙とペンを差し出し、好奇心いっぱいの目で千崎を見上げる。

 千崎はそれを受け取り、壁を支えにして自分の名前を書いた。

「さきってむずかしい……」

「ひそかくんは?」

 別の女の子が顔を赤らめて尋ねてきたので、千崎は自分の名前の横に密と書いた。

 園児たちは先ほどよりもみるみる難しい顔をして、その字を見つめる。

 遠くで由紀子が「絵本読むよー」と明るい声で園児たちを呼び集める声がして、園児たちは足早に駆けていった。

「うおっ」

 急にエプロンの裾を後ろから引っ張られ、かがんでいた千崎は体勢を崩しかけた。

 振り返ると、ぬいぐるみをしっかと抱いた真帆がいた。

 真帆は真顔で一つ瞬きをすると、細い腕を真っ直ぐに伸ばして廊下のを指差す。

 それが示す先には紫の髪を忙しなく揺らし、園児に振り回される少年の姿があった。

「柚里?」

 千崎がそう尋ねるが、真帆は真顔のまま困ったように首を傾げた。

 ――ゆずり?

 口がそう動く。

 何がどうして真帆が柚里を気にかけたのか千崎には分からないが、確かに彼と真帆には似たような共通点がある。似たもの同士は気配で分かるものなのかもしれない。

 真帆は次に柚里を指差した人差し指を千崎の手元に移した。

 柚里の漢字が気になるのだろうか。

 千崎は紙に「柚里」と記した。その横にふりがなも振る。

 真帆はその紙を千崎から受け取ると、真顔だった表情を一気に崩して嬉しそうに笑った。


ほのぼの回です。

名前の話は、去年ボランティアをした保育園のみんなと同じようなことがありまして。

キラキラネームが流行る今日この頃、アイスちゃんとかダイアちゃんとか。時代は進化しております。

名前のごとく、彼らの笑顔もキラキラしており、非常に!可愛らしかった…

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