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人生終わらせ屋、はじめました  作者: 秋桜
【第三章】お母さん
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親思う心にまさる親心――弐

 その日、保育士の関口由紀子と名乗る女性が時雨荘を訪れた。

 由紀子は客間の机を挟んで反対側に座る千崎たちを、まるで珍獣でも目の前にしているかのようにあからさまな驚愕と好奇心が入り混じった色を瞳に宿しながらじっと見ていた。

 由紀子は黒くて肩より少し長い髪を二つに軽く結い、簡素な身形をしていた。女性を捨てているとまではいかないが、お洒落に気を遣っている様子は見えない。しかし優しげで綺麗な顔立ちをしているため、それは気にならなかった。

「本当に綺麗な子たち揃いなんだねぇ。なんだかホストクラブに来たみたいだなぁ。行ったことないけど」

 身体を楽しそうに揺らしながら、由紀子が無邪気に笑う。

「でも、千崎ちゃんは佳代子に全然似てないのねぇ。可愛いけど、佳代子には紫な要素まったくないもの」

 由紀子がまじまじと柚里を見つめ、呟くように言った。

 千崎と柚里は由紀子の言葉の意味に一瞬理解が遅れ、理解と同時に顔を合わせた。千崎は苦笑いを隠しきれなかったが、柚里は不服に顔を歪めた。

「千崎は、わたしです」

 苦笑いしながら千崎は小さく手を挙げた。

「えっ!」

 由紀子は一呼吸遅れて驚愕の色を顔に出す。そして舐めるように千崎を見つめ、もう一度声を上げた。

「だって佳代子から、姪って――え、あなた女の子っ?」

 千崎は中性的だと言われるが、服装や雰囲気が少年のそれに近く、常より女と知られていても男として扱われることが多い。故に初対面では少年と認識されてしまう。女扱いされるのが苦手な千崎としては思っていてくれたほうが助かるのだが。

「佳代子さんのお知り合いなんですか?」

 柚里が若干不機嫌そうな声音で尋ねる。

 佳代子は町外れに住む千崎の叔母の名だった。

「ええ、大学生の頃からの付き合いでね。それで佳代子にここを紹介してもらったの。相談するならここって。あのね……」

 由紀子はふと真剣な目つきになり、机の上に身を乗り出した。


「死んだお母さんに会わせてあげたい、女の子がいるの」


「お母さん?」

 そう問い返したのは柚里だった。

 由紀子はそれにゆっくりと頷き返し、ショルダーバッグから一枚の写真を取り出した。

 そこには延々と続く桜並木を背景に二人の親子が穏やかな笑顔で写っていた。柔らかそうな長い茶髪の母親は子供のように。ウェーブのかかったこげ茶の髪を風に遊ばれている女の子は、少し落ち着いた表情で。

「今年の春に、保護者参加のお散歩の会があってね。いい一枚でしょ、わたしが撮ったの!」

 由紀子は背筋を伸ばして胸を張る。

 そしてふとその自慢げな顔に影を落とした。

「それが、最後の写真」

 最後。

 千崎たちは一斉に写真に視線を落とした。

 日付は三ヶ月前。舞い散る桜を背景に写る親子には、確かに言い知れぬ儚い色が現れている。

「二人は春に発生した土砂災害に巻き込まれて、お母さんの香織さんは発見されたときには……」

 千崎は由紀子の話を聞きながら、三ヶ月前の悲惨なニュースを思い出す。

 その時期、急速に発達した低気圧がもたらした雨に町外れの山が一部削れた。麓には土砂が流れこみ、数軒の民家がそれに埋まって、高齢者を含めた十数名の死傷者が出た。

 千崎はそのとき、隣町の大病院にいた。

 目の前をいくつものストレッチャーが乱雑な音を立てて過ぎてゆく。そこに声なき声で苦しむ少女が運ばれていくのを見た気がした。

「ああ、そうか」

 あのときの。

「真帆」

 千崎がそう呟くと、由紀子は驚いた顔をした。

 あの時、ストレッチャーが通り過ぎる時に誰かが悲痛な叫びを上げた。

 ――真帆っ!

 あれは誰だったのだろうか。

 大人びた低い声だった。その声で子供のように泣き喚き、何かを必死で引き止めていた。


なんだ、しょっぱなからこの暗さ。

覚えている方いるかわかりませんが、第一章でつばさの情報を教えてくれた静流の母は佳代子ですっていう。


そして佳代子は千崎の父の妹です。

いずれ彼らも出てきたらいいなぁ……。

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