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人生終わらせ屋、はじめました  作者: 秋桜
【第二章】依頼:猫探し
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犬猫は三日扶持すれば恩を忘れず――伍

「千崎くん、柚里!」


 きらりんを追い詰めた和泉は得意げに二人を振り返った。

 和泉に憑依能力はない。

 千崎と柚里はその場でジャンケンし、負けた千崎がきらりんを憑依させることになった。

「……怯えさせたら憑依も難しくなるだろうが」

 憑依されやすい体質とはいえ、千崎と柚里の場合は憑依の際に相互の同意が必要になる。拒絶している霊体を無理やり憑依させるのは難しい。霊体にとっても同意せず千崎や柚里などの憑依能力に長けた人間に憑依するのは難しいのだ。

 ましてや猫である。猫が人間に憑依したいと考えているかどうか疑問であり、怯えさせなくても難しい。

 千崎はしゃがみこみ、猫に手を差し出した。

「――おいで」

 滝川の話では千代子にしか懐かなかったという。

 千崎は動物に懐かれやすいわけではない。

「千代子さんに、会いたいんだろう」

 千崎の言葉が通じたのかは疑問だが、きらりんは逆立つ尻尾を静め、金色の瞳を千崎に向ける。

 しばらく沈黙が流れる。

 千崎は仕方ないとため息をついて、カバンからにぼしを取り出した。

 滝川から聞いたきらりんの大好物だ。というか猫ならたいてい好物だろう。

「千代子さん、きっと待ってる――おいで」

 一歩でも動いたらふりだしに戻る。そんな気がして千崎は今の場所から動くことができず、そこから精一杯きらりんに手を伸ばした。

 きらりんはにぼしにつられたのか、千崎の言葉に引き寄せられたのか、どっちもなのかどっちでもないのか、分からないが一歩ずつ千崎に歩み寄る。

 肉体を持たない霊体では匂いなど分からないはずだが、それでもにぼしの匂いをかぎ、触れることの出来ない千崎の腕に擦り寄るしぐさを見せた。

 そのまま千崎の中に吸い込まれる。

「ど、どうにか……」

 憑依に成功した千崎はそれだけで気力をすり減らし、その場にしりもちをついた。

〈にゃー〉

 しりもちと同時に千崎の口から誰も想像し得なかった台詞が漏れる。

「おまっ――勝手にわたしの口を使うな!」

〈にゃー〉

「やめてくれーっ!」

 他人から見れば一人芝居をやっているように見えてさぞ滑稽なことだろう。実際他の三人は必死に笑いをこらえている。

「で、きらりん。君は一体どこにいるんですか?」

〈にゃー〉

「よければ案内してください」

〈にゃー〉

「通じてます?」

〈……にゃー〉

 柚里の質問に千崎の口を借りたきらりんが返事はするものの、すべて猫語だった。

 考えてみれば人間の言葉を解さない猫が、人間の身体を乗っ取ったからといって人語を解すわけではない。

〈にゃぁ……〉

 つまり千崎が無駄に恥ずかしい思いをさせられているだけである。

「やめてくれー……」

 長時間憑依されていたら猫語が移りそうで怖い。千崎が辟易した表情を見せると、きらりんは鳴かなくなった。

 その代わりにふと緑豊かな自然の風景が千崎の脳裏を過ぎる。

 木々が聳え立ち、地面は草花が生い茂っている。西の空からもたらされる夕日が差し込んだ木漏れ日を彼はじっと見つめていた。

 そこは暗く湿っていて、かびくさい。身体はクモの巣に引っかかり、蟻には登られ、散々だ。

「これは――お前の記憶なのか?」

 憑依能力を有する千崎と柚里は憑依した霊体の記憶を提供されれば共有できる。つまり今、千崎はきらりんによって彼の記憶を提供されているのだ。




今回は千崎くん祭り?

柚里に鳴かすより千崎くんのほうが萌え~だと思って。


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