犬猫は三日扶持すれば恩を忘れず――肆
女性の霊がきらりんを見かけたことにより、彼の浮遊霊説は確定した。
さらに何かを探しているように彷徨っていたことから千崎はもう一つ確信したことがあった。
「千代子さんを探しているんだ」
滝川の会わせてやりたいという言葉が脳裏を過ぎる。
きらりんは確かに会いたいのだ。死んでもなお。
千崎たちは翌日も放課後は捜索に時間を費やした。昨日と同様に二手に分かれ、千崎と柚里のそれぞれの憑依能力を生かし、捜索を続ける。
梅雨の時期は悪鬼が増えやすい。襲われた場合は密と和泉が対処した。
「いました?」
「いや……こっちのほうで見たと言う情報が」
「わたしたちもです」
千崎たちはそれぞれ聞いた情報を元に町外れにやってきていた。周囲に民家はまったくなく、畑や田んぼが延々と広がっている。時々作業中の農家の人は見かけたが人間であるため、聞いても意味はない。
霊の姿もまったくなく、本当に自然が広がっているだけの場所だ。
「ところで……」
千崎は柚里の姿を見て言いよどむ。
「なんで、そんな泥まみれなんだ?」
柚里と和泉が身に纏う黒学ランは所々砂がついて灰色になっている。彼らの普段なら鮮やかな髪色もそのときは薄汚れていた。
「――なんででしょうかね!」
柚里はきっと和泉を睨み上げた。
そして語る。
柚里たちはここへ来るのに時々観光客が訪れる自然豊かな森を抜けてきたのだが、その際に前を歩く観光客が数百円を小高い谷川へ落としてしまい、それを見た和泉がわざわざ川まで下りて探し出したのだという。
彼は守銭奴で利己主義である。己に利があれば他の犠牲は省みない。
「……一日でいいから、密くんと交換してくれませんか」
「断る」
千崎が彼と組んだら、平静を保っていられる自信がない。その点、柚里は優しいので彼の奇行にも結局は付き合えるのだ。
「あ、あれあれ」
自分の扱いの酷い話が聞こえていないのか、もしくは慣れているのか、和泉はのんきに声を上げた。
そこには見覚えのある猫が。
「きらりん」
密がぽつりと言う。
確かに鈴のついた青い首輪をした黒一色の猫――きらりんだ。
しかし警戒しているのか千崎たちが一歩近づくたびに一歩遠ざかる。一気に距離を縮めれば瞬く間に逃げ出すだろう。
霊とはいえ猫だ。その身軽さや足の速さは変わらない。
と千崎が考えている間に和泉が走り出した。
「ちょ、おい!」
千崎の思ったとおり、きらりんは和泉に警戒して走り出す。
「壁!」
和泉は走りながら右手の人差し指と中指を立て、叫ぶ。
きらりんは真っ直ぐ走り続けたが、すぐに見えない壁に衝突し、立ち往生する。しかしすかさず横道に逸れ、逃げようとした。
「壁、壁!」
和泉もすかさず対処する。きらりんの左右に先ほどと同じ見えない壁を作り、きらりんの逃げ道を前後左右どれもを塞いだ。
そのまま追い詰められたきらりんを端に追い込み、得意げな顔で振り返る。
誉めてと言った顔で見つめられた三人は一斉に顔をそらした。
今回も和泉さん祭り!
彼は本当に可愛いです。
ていうか某結界師みたい笑
こんな大雑把な技、絶対ないから信じないでくださいね。