決まりきった運命
作者はバトル描写が苦手です。
よって、伝わりにくいなどのことがあると思います。それは作者の表現力不足です。申し訳ありません。
それを頭に留めた上で作品をお読みください。
すべては仕組まれている。
そう、分かっていた。
それでも、なにかに引きつけられるかのように、俺たちは。
「やっと登場かい? 勇者サマ」
「ああ、待たせたな魔王。ようやくお前を倒すときが来たようだ」
「へえ。そこまで言うからには、なにか秘策でも持ち合わせているんだろうね?」
そう言っては彼女は――魔王は、妖しく笑った。
倒す、なんて。自分が発した言葉なのに、信じられないと思った。
ありえない。倒す? 俺が、彼女を?
愛しているのに?
そんなことを考えている間だって、俺の口許には不敵な笑みが浮かぶ。
腰にかけた鞘から白く輝く刀身を抜き、魔王に見せつけるかのように構えた。
刃なんて向けたくないのに、俺の体はまるで言うことを聞かない。
物語は、進むのだから。
「何のためにこの剣を持ってきたと思っているんだ」
「……ただのなまくらかと思えば、それはいつかわたしを葬った、あの忌々しい剣か」
「ご名答。そのいつかのように、これでお前を封じてやろうってことさ」
体が、体が、動く。
魔王が忌々しいと吐き捨てた剣が、俺に力をみなぎらせる。
どうして俺は、“救世主”として生まれてきたんだろう。
どうして彼女は、“魔王”として生まれてきたんだろう。
どうして俺たちは、こんな風になったんだろう。
「そんな昔の話を信じているのかい? わたしは昔とは違うよ?」
「俺のことをなめるなよ。歴代救世主のなかでも稀代の天才と呼ばれた実力、見せてやる」
「ふん、戯れ言を」
「戯れ言かどうか、確かめさせてやる」
俺が剣を構えた。
彼女の体から膨大な量の魔力が流れ出した。
お互いが万全の状態になった瞬間、戦いの火蓋は、切って落とされる。
俺の思い通りにならない体が、彼女へ刃を向けた。
やめてくれ、やめてくれやめてくれやめてくれ!
なんでこうなる、俺は彼女を斬りたくない、殺したくない、封じたくない――
こんなに彼女を愛してるのに、なぜ!
「お、らっ!」
「あはは、遅いよ!? どうしたんだい救世主!」
「くそっ……!」
「ほうら、わたしにその自慢の剣を当ててごらんよ!」
体がうまく動かない。
俺の気持ちが通じたのかもしれない、と思ってみたりする。
そんなのはありえないこと、分かりきっているはずだったのに。
「それでも天才かい? ふん……期待外れだよ」
「あ゛ぁっ!!」
首筋に攻撃を一撃。
それだけで、俺の体力は目に見えて減っていく。
ああ――また、か。
また、繰り返すのか。
「……またね、救世主サマ」
表示さえされないような小さな声で、魔王は言った。
いや、きっと表示されないのだろう。
だってそんな言葉はきっと、“プログラムされていない”のだから。
黒くなる世界。
ただただ響く、この世界の操作者の声。
『あーあ、またかよ』
たった一瞬だけ、画面の向こうの少年が、見えた気がして。
そして彼は、
リセットボタンを、押した。
「やっと登場かい、勇者サマ?」
そう言って妖しく笑う、一人の魔王。
“バグ”と名づけられた俺の気持ちが泣き叫ぶ。
「……ああ、待たせたな魔王」
こんにちは、巻き戻されたラストシーン。
このゲームはいつになったら、終わりますか。