情報収集!
アリア王国王都下町。
それが私の今住んでいるところらしい。あの後お父さんから聞いた言葉だ。そのすぐ後、なぜそんなことが気になったのか訊かれて誤魔化すのが大変だった。
でもまあ、貴重な情報を手に入れられたな。アリア王国か…まさか敵国に生まれるとはね。それにしても、ここが王都だとするとこの平和ようから戦争はもう終わったと考えればいいのだろうか…。
まあそういうのもゆっくりと情報を集めていけばいいだろう。
と、考えていたらいつの間にかもう九才。時の流れって残酷だわ…。
ここまでで得たことといったら、上記のこととうちがそれなりに評判の良いパン屋で、文明が前世のときよりも発達していることだ。
文明の点については、新聞等が上がる。前世のときは人手が足りなかったからなのか、新聞なんてものはなかった。人から人へが普通だ。それでも、前世の時からガラリと変わっているわけでもないので、特に苦労することはなかった。
でもまあ、それでもビックリすることもある訳で…。
たとえば、今私の目の前にある巨大な建物。
王立図書館、という建物。なんでも、たくさんの本があって無料で読めて、なにか色々とややこしい手順を踏むとそれらを家に持ち帰って読めるらしい。
前世の時代のときにはこんな建物はなかったから驚きだ。いやはや、やっぱ時代は進んでるんだね。うん。
最近私はお父さんお母さんに文字を習い、スラスラと読んでいても不審に思われないようになったのだ。本当は、二回目の人生だから生まれたときから文字…本が読めるのだけど、さすがに習ってもないのに読むのは不自然だ。そこで、私はお父さんとお母さんから教えてもらうまで本は読まないことにしたのだ。
本来ならもっと早く文字を習い、そして本で情報収集するべきだったのだけど、パン屋のお手伝いとかそういうことをしていると忘れてしまうのだ。ちなみに、最近パン作りが上手くなってきた。お店に出すにはまだまだだけど、食卓に時々あがるくらいだ。前世はあまり料理を作る機会がなく料理ができなかったから、上達できてちょっと嬉しい。
っと、思考が脱線した。
情報収集のために来たんだから、ちゃんと本読んで今が何年だとかそういうことを調べないと…。
私は慌てて図書館に入った。
「…うわあ…」
入ったら予想通りというべきか予想外というべきか、ものすごい量の本。天井まである本棚には隙がなくびっしりと本がある。
私は、図書館内のどこにどういう系の本が置いてあるかというのが書かれている地図を見て、歴史系の本がある場所へと向かう。
途中、図書館に小さな子が来ていることに驚いた人々が私に注目したけど、無視だ無視。
「………ええと…」
来たのはいいけど、どの本を読めばいいんだろう…。
専門的なものから他国の歴史書もあるせいか、この歴史系だけでも相当数だ。しらみつぶしにそれらしきタイトルの本をあさっていくしかないかな…本はあまり得意じゃないからげんなりする。っていうか、どれにしよう…。
「えーと?『アリア王国の誕生』『アリア王国の国王たち』『アリア王国の経済』『アリア王国が男女平等になった訳』…なんじゃこりゃ」
っていうか多いよ。なにこれ、殺す気?いじめ?いじめ、駄目、絶対だよ。
なんだかものすごく泣きたい気分になってきた…。それでもくじけず、頑張って私は目当てのものを探す。
「『アリア王国の食料』『アリア王国より俺様帝国の方がカッコイイと思う件』『家政婦は見た!アリア王国の内情』『みんな大好きアリア王国』…」
「…おい、そこの人」
「『アリア王国って言いにくいと思うの私だけ?』『アリア王国ってタイトルにつkとけばなんとかなる』…」
「おい!」
「え、私!?」
肩を急につかまれて焦った。
てっきり他の人に話しかけてると思って油断してたわ…。まさか私に話しかけてたりしてたとは…。
私は申し訳ない気持ちになりながら振り向くと、そこには一人の男の子がいた。
…そういえば、なんだか言葉使いは大人みたいだったけど声はなんだか高かったような…。
男の子は、分厚い本を小脇に抱えていた。年は私と同じようだけど、立ち振る舞いやら雰囲気やらがなんだか大人っぽい。その子は、下町ではあまり見ないような上等な服装だった。…もしかして、貴族とか…だったり?
男の子はポカンとしている私を見て、不機嫌そうに眉をひそめた。え?何々?私なにかした??
「君、何一人でブツブツ言ってる。ここは図書館なんだから静かにしたらどうなんだ」
「え、あー…ごめんなさい…」
どうやら図書館とは静かにしなければいけない場所らしい。男の子は少し声をひそめながら注意してきた。そういえば、入ってきた時『お静かに!』とかいう張り紙があったような…。
男の子は見事な金色の髪を揺らしながらハアとため息を出した。…見た目は変わらないけど、一応私の方がお姉さんなんだけど…なんか下に見られてるかんじがする…。やっぱ貴族だからなのかな…。
「で?」
「…でっていうと?」
「何を読みたいんだ?」
どこか不機嫌そうに男の子は言った。
…これは、手伝ってくれるということなのかな…?
私はおずおずとどんな本が読みたいのかを伝える。
「ええと…この国が戦争した時とかのやつかな…?いつどこでどんな理由で戦争が起こったのか…とか、そんなかんじの内容の本」
素直に伝えると男の子は目を丸くしてキョトンとした顔をした。
…こ、こんな子供が読むのはやっぱりおかしかったかな…?変な奴とか思われてたりして…。なんか傷ついてきた…。
私が暗い顔をしているせいか、男の子は慌てたようにすこし早口でハッとしたように言った。
「あ、いや、すまない…そ、その、そういう勉強も大切だよな。中々の勉強熱心でいいと思うぞ!?」
「そ、そう…?」
「ああ!」
全力で頭を縦に振る。その様子がおかしくって、思わずクスリと笑ってしまう。
途端に、彼の顔が真っ赤になる。まるでリンゴみたいだ。どうしたのだろう。
「?どうか、した?」
「え、あ、いや、なんでも!というか、本だったよな。そういうものだったら…あれだな」
男の子が慌てたように指差した先には、赤い背表紙の一冊の本。少し高い位置にあって、たとえ大人でも女性だったら届かない者が多いだろう位置にある。タイトルは『アリア王国の戦争歴』だ。たしかに、私が探している本の内容と同じっぽい。
「わ、ありがとう!それにしても、すぐに出てくるなんてすごいね。もしかして図書館にある本はほとんど読んでたりする?」
「いや…ただ、僕も似たような本を以前探していたからな。それでたまたま覚えてただけだ」
「そうなんだ。それでも覚えてるなんてすごいね。ようし、じゃあ早速とって読むか」
この身長ではまったく届かないので、近くにあった脚立を取ってその本の真下まで取ってくる。そして脚立に登ろうと足をあげ、
「待て待て待て!」
ようとしたら男の子に止められた。
見ると、なぜか再び真っ赤な顔でこちらを見ている。視線だけで何?と問うと伝わったらしくあのなあと真っ赤な顔で怒り出した。
「君は今、どんな格好なのか自覚があるのか?」
「え?ええと…」
今の自分の格好⇒そんなに派手じゃなく質素なドレス。
………………っは!
「ごめん、私うっかりしてた…」
「ようやく気がついたか。まったく、君には危機感というものがないの…」
「ドレス姿じゃ動きにくいから脚立に上がるのも大変よね」
「そこじゃないいいぃぃぃ!!」
大声を出した男の子。図書館内では静かにしなければいけないことを思い出し、私は慌てて口元に指をあげてシーッというポーズをする。
途端に、男の子は額に青筋をたてさせるんじゃないかと思うほどの顔をする。
「それ君にやられるとすごいムカつくんだけど…」
「え?なんで?っていうか、どうしようドレス姿じゃ取れない…」
「…ハア」
オロオロしていると、どいてろと男の子が言う。
そしてそのまま、脚立を登り本を取ろうとしてくれる。
そんなカッコイイところに、年下なのに思わずドキンと心臓を高鳴らせながら、私はそれを見つめる。
男の子が本に手を伸ばす。が、
「………」
「………」
届かない。
いやもう、あとちょっととかそういうレベルじゃなくって、本当に全然届いてない。かすりもしない。
男の子はそのままの姿勢で固まり、やがて体全体をプルプルと振るわせる。多分、怒りで。
…そういえば彼の身長、私の周りにいる同年代の男の子たちに比べたら少し低いような…。
「………そこの君」
「あ、はい」
「ちょっと離れててくれ」
「え?な、なんで…」
「いや、ただ…」
彼は爽やかすぎる笑顔を浮かべながら言った。
「ちょっとジャンプするんで、その時巻き込まれないように、だ」
「いやいやいや、危ない!危ないから!!」
全力で止めました。
結局、彼のジャンプを必死で止めている声に驚いて来た大人の男性の方に取ってもらいました。
私が本を手に取ったのを見届けると、男の子はどこかに行ってしまった。…お礼、言えなかったなぁ…。
あ、ちなみにその本によって、私は大体前世の自分が死んでから三百年後の世界に転生したことが分かりました。
結局私の前世のいた国らを含めた小国はすべて負けて、今はアリア王国の一部に見事になりました。
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