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今何回目の人生?  作者: 雪鈴空斗
二回目の人生
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二回目の人生??


 私は、転生でもしたのだろうか。


 気がついたら知らない部屋の天井。そして知らない優しそうな女性と男性。

 そして、自分は赤ん坊になっていた。

 状況を何日もかけて理解し、なんとか自分が小さくなったということを受け入れたときに真っ先に思ったのはそれだった。


 いつ自分は死んだのだろうか。あの時の最後の記憶を思い出そうとするけど、思い出せるのは眩しい光の中非常に眠かったということくらいだった。

 何もかもが分からない中、気がついたら歩けて、しゃべれるようになった。


「…はあ」

「あら、どうしたのリア?」


 私がため息をつくと、パンを作っていたお母さんが微笑みながら言った。

 どうやらうちはパン屋を経営しているようで、一日中香ばしいパンの匂いがあり、朝昼晩毎回違ったパンが食卓に出た。

 私はお母さんを心配させないように、慌てて笑顔を作って大丈夫と答えた。

 お母さんは元から大して気にしてなかったようで、そう?とだけ言うとパン作りをまた始めた。

 私はなんとなく一人で考え事をしたくって、庭に行ってくるとだけ言って、庭へと移動してベンチに腰をかけた。


 私が転生したとして、私が死んでからどのくらいの月日が経っているのだろうか。

 見たところここは平和なようで、戦争のせの字もないくらいだ。というか、大体ここはどこだろうか。私が住んでいた小国だろうか。それとも別の国なのだろうか。

 本棚に並んでいる本の背表紙は見慣れた文字だ。アリア王国とその周りの小国、つまり私の前世とでもいうのだろうか。その私が住んでいた国辺りはすべて共通文字共通言語だったので、恐らくここはアリア王国付近のはずだ。

 尽きることのない考えに飽き飽きして、思わずまたため息をついてしまう。


「…悔しいなあ」


 心をからっぽにしてボーっとしていると、ふとそう思った。

 なにが悔しいっていったら、死んでしまったことだ。

 前世の時、私は必死に努力して魔術師となった。その時、魔術師というのは男がなるものだという価値観があり、中々認めてもらえなかったのだけど必死に努力して何とか認めてもらったのだ。

 それがすべて、水の泡となった。

 魔術師となって、人を笑顔にしたかった。戦争に参加して、人を笑顔どころか悲しませてばかりだったけど、戦争が終わればきっと笑顔にできると思い続けて頑張ってきた。

 その頑張りも、だめになった。

 また一からやり直し、か…。


「…」


 青い空を見つめる。

 記憶を持ったまま転生なんてしなければ、こんな思いせずにすんだかな…。

 ………あれ、記憶をもったまま…?


「!そうだ!」


 一つの考えが思い浮かび、私は慌てて立ち上がり、家の窓から見えない位置へと移動する。

 もし、記憶があるのならば…!

 見えない位置に移動し、私は深呼吸をして、右手を突き出した。


「っは!」


 前世で使い慣れた、魔術式を組む。

 それと同時に、右手るの先に水色の魔術陣が現れる。

 できた…!

 一瞬油断しそうになるけど、慌てて気をしっかり持って魔術式を組むのに集中する。やがて、魔術が完成する。あとは発動というだけだ。


「…発動!」


 久々にこれを言った気がする。

 魔術が発動し、目の前に水が現れて重力に従い地面に落ちていく。まるで滝のように。

 成功だ。思ったとおり、魔術は使える。感覚もちゃんと覚えている。

 よかった…前の苦労が水の泡にならずにすんだ…。ホッとしたら、体の力が抜けて思わず地面に膝をついてしまう。ついつい、口から安堵のため息が生まれる。


「…なんか、魔術が使えただけで元気になってきた気がする…!」


 我ながらなんとも単純だと思う。

 でもあの地獄の勉強をせずにすむと思うと、なんか嬉しくなってきた。当然私の魔術師という腕は未熟で、まだまだ勉強が必要だというのも分かっているのだけど、それでもなんだか嬉しい。


 よし、情報集めをしよう。

 不自然じゃないように、お母さんたちにここがどこでどういう場所で、魔術師というのはどうなっているのだとか、そういったことを訊いてみよう!





「お母さん、ここどこ?」

「え?」


 し、しまったあああ!!

 ついつい言葉が思いつかなくって、直球ストレートにいってしまった…!いきなりこんな質問されたら、いくら親とはいえ不審がられたりとか心配とかされるよ…やっちゃった… 

 どうしようどうしようと混乱していると、予想外の返答がきた。


「ここは自分の家よ?」

「………へ?」


 ニコニコしながら答えているお母さんは、わざとでも意地悪で答えているわけでもなく、本気で答えているっぽい。

 いや、たしかにそうなんだけど…そうなんだけどね?間違ってないんだけどね?それだけでいいのかお母さんよ。

 どう答えようか迷っていると、お母さんは私が望む返答をあげられなかったことに気づいたらしい。困った顔をして「えっと…」と言いながら考えるような仕草をする。

 やがて、ポンと手を打って困った顔から一転、晴れやかな顔をした。


「パン屋よ!」

「…………………」


 これでどうだ、と言わんばかりのドヤ顔でこの言葉である。

 …私、生まれてくるところ間違えたのかな。なんか前世のお母さんが懐かしいよ。小さい頃に亡くなったから、どんな人だったかほとんど覚えてないけど。


「あの…お母さん?」

「?何かしら?」


 おずおずと、私は直球にきちんと丁寧に分かりやすく訊くことにする。

 不審がられるとか、そういうのはもう気にしてなかった。このお母さんなら、なにを訊かれてもニコニコしてるだろう。前々からちょっと抜けてるなとか思ってたけど、ここまで抜けてるんだから、大丈夫でしょう。


「どこの国の、どこの町の、どこのパン屋さんなの?」


 そう訊くとお母さんは困惑した顔をした。

 あ、やば…やっぱり直球ど真ん中すぎた?やっぱり、変な質問だっ…


「ええと…この国なんて名前だったかしら…」


 それかよおおぉぉぉ!!!

 困惑してたのって答えられないやつだったから!?ってゆーか自分が住んでいる国くらい覚えときなよ!!本当大丈夫なのこの人!?記憶力とか記憶力とか!!


「どうした?」

「あ、お父さん。丁度よかった。ねえこの国の名前ってなんだったかしら?」


 パンを売っているお店の方が一区切りついたのか、タオルを首にかけたお父さんがやってくる。

 よかった、お父さんならそこそこの常識人のはずだから、きっとちゃんとした答えを返してくれ…


「…………なんだったかな」


 お前もかああぁぁぁ!!

 え、ちょ、なんでお父さんまで答えられない!?そこそこの常識人じゃなかったの!?実はすごい抜けてたりする!?というかこの夫婦大丈夫なの!?いやもう真面目に!!

 と心の中でツッコミをしているとお父さんがガハハと豪快に笑った。


「冗談だ冗談。さすがにこの国の名前を忘れるわけなかろう」

「あ、よかった、じゃあお父さんもお母さんもちゃんと覚えて…」

「母さんじゃないんだから」


 お母さんはまさかのガチでしたっっ!!?

 

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