入学式
「ということなので、皆さんには立派な魔術師になってほしいと私は思います」
長い長い話がようやく終わり、私はこっそりと息を吐いた。
現在、魔術学校の入学式の最中。入学生たちは椅子に座り、絶対に役に立ちそうにない先生方の話を聞いていた。
その中に、ヒースやセイン、ついでにレフィの姿はない。
正確には、まだ見つけてない。
試験の日の夜、宿が別々だったのでそれぞれ別の宿に泊まってから翌日の合格発表では二人に会えなかった。
そこから、運がないからか二人…三人と顔は合わせていない。
教師だったらしい(試験官やってたから当たり前だろうけど)シセリー先生には会えたのだけど、残念ながら話すチャンスはなかったので話せていない。あれからあの竜がどうなったかとか訊きたいのに。
やがて入学式は終わり、クラスごとに別れて教室へ行くことになる。
試験を受けたほぼ全員が入学できたらしいこの学校の一年生の数はそこそこのもので、五クラスほどに別れている。つまり、あの二人、あるいはどちらかと同じクラスになるのは五分の一といったところだ。
ちなみに私のクラスは一組。担任の先生が誰かは不明だが、シセリー先生であることを祈る。
「こんにちはー」
「覚えてるー?」
一組の教室に入るなり、そう声をかけられたのは、一組の男女。
その息のあった二人には、見覚えがあった。
「ええと、エリスとユリス?」
「ビンゴ!」
「正解ー!」
試験日に、試験官たちがいる場所を教えてくれた双子だ。
彼女らも試験日以来会っていなかったので、そこまで長らく会っていた訳でもないのになんだか懐かしく感じる。
「合格したんだね!よかったぁ」
「というか、あの不祥事によって試験ができなかった人たちはみんな合格だよ」
「っていうか、あの試験って魔術を扱う才能ってやつが一切ない人を落とすだけのものだからね」
「「だからあたし(僕)たちが受かって当然!」」
「そ、そっか…」
その言葉に苦笑しかできない。
「それよりも、同じクラスなんだね、二人とも」
「うんあたし貴女と一緒で嬉しいよ」
「エリス…」
…あ、初めて双子の片割れだけが話した。
ちょっとビックリしながら、微笑んでくれるエリスに向かって微笑み返す。
すると横から、エリスでもユリスでもない声が聞こえた。
「やーリアちゃん。元気?今日も元気はつらつ?」
「あ、レフィ」
この学校の制服を着崩して着ていてそこに立っているのはレフィだった。
…うん、レフィも久しぶりってかんじがするわ。うん。
「レフィも同じクラスなの?」
「うん、君もどうやら一組のようだね」
ニッコリスマイルでそう言ったレフィは、私の後ろの方にいる二人に目をやる。
するとすぐにその視線に気づいた双子は、息を揃えてしゃべりだす。
「どーもー」
「こんにちはー」
「あたしエリス」
「僕はユリス」
「「どうぞよろしくー!」」
「ご丁寧にどうも。俺はレフィっていうんだ。よろしくね。君達は双子、かな?」
「「ご名答ー!」」
「仲が良いねえ」
レフィがニコニコしながら言う。それから私に再び視線を合わせた。
「そういえば、ヒース君やセイン君の姿が見かけないね。別のクラスかな」
「いやいや?」
「二人とも一組だよ?」
「え?そうなの?」
「「うん、間違いなし!」」
「どこからそんな情報を…」
「「企業秘密でーす!」」
「…その情報、絶対に確実?」
「「当然!」」
即答で答えた二人に、レフィは驚いたように何度か瞬きした。
しかしすぐにいつものニコニコスマイルへと変える。
「へえ、君達は情報屋さん?」
「うんー」
「たしかにそうかも」
情報屋なのか二人とも。
だけどなんだか、この二人がそう言っても納得できる。そういえば出会った時も試験官たちのいる場所を教えてくれてたし、あれって情報提供してくれたってことだよね。
「…でも、ヒース君やセイン君たちどこにいるんだろうねぇ。このクラスにはまだ来てないみたいだし…迷ったかな?」
「可能性は」
「あるねー」
…たしかに。
この学校は結構広くって、地図と先生たちがあっちですよーとかって声を出してくれなかったら、私は絶対ここに来れてないと思う。
あの二人…ヒースの方は心配なさそうだけど、セインだったらありそうだ。なんとなく。
…ん?もしかして、ヒースとセイン一緒にいたりする?だからヒースもまだ来ないのかな?
余計なことをセインが言ってヒースを怒らせて、二人で漫才している内にいつの間にか変な所に行ってしまう二人…ありそう。多いにありそう。
「ありゃまあ。二人とも成人はしていなくってもちゃんと物事を判断できる年なのは確かなのに、迷子とは…」
困ったものだねえ。
そう口では言っていながらも、レフィの表情は面白いことが起こったと言わんばかりだ。
…絶対に心配してないなこの人。
「まあそうだとしてもさー」
「地図があるから来れないことはないだろうね」
「地図…か」
ヒースならちゃんと読み取れる気がする。
セインだったら………ノーコメント。
「…あるいは、双子ちゃんたちの情報が間違ってて、二人はもう他の自分のクラスにいるとか?」
「「ない!」」
「よっぽど自分たちの情報の確かさに自信があるんだね…」
またもや双子は即答。今度のレフィの表情は苦笑だ。
「レフィって、クラスメイトの情報力も信じられないような」
「疑い深い人なんだね。それとも、僕達が信用できないの?」
「いやいや、あくまで可能性を指摘しただけだからね?どーぞご安心を」
「「うわーん、レフィの馬鹿ぁ!」」
「あれー?なんか俺悪い人になっちゃってるー?」
苦笑しながらレフィは両手を軽く挙げる。もう勘弁、ということだろうか。
それを見た双子は顔を合わせて勝ったと呟く。…この状況、ノーコメントの方向でお願いします。
「おい君達、そこで何してるんだ」
その時、声がした。年配の男の人の声だ。見ると正装した初老の男性がそこに立っている。手にしているのは、黒い表紙の薄いノート。
………。
「もしかして、先生?」
「そうだ。私が今日からこの一組の担任の――」
「シセリー先生じゃなかった…」
若干ショックだ。
シセリー先生がよかったな…。美人だし、結構仲良くなった(はず)人だし。
思わずがっかりして肩を落とすと、
「先生、こちらのハンカチを忘れていま…あら、リアさんにレフィさん」
「シセリー先生!」
シセリー先生登場。
「どうもーシセリー先生」
「こんにちは、ちょっとお久しぶりです」
「こんにちは二人とも。私この一組の担任だから、二人ともよろしくね」
「え?本当ですか!?」
「ええ」
ラッキー!担任じゃないけど副担任だけど。
そうして喜んでいると、双子が交互に息ぴったりに先生二人に報告する。
「先生先生」
「実は実は」
「どうかしましたかね?」
「はいはいー」
「そうなんですよー」
「「実は二人ほど生徒がまだ来てなくってですねー」」
「二人…?」
シセリー先生が眉をひそめる。
レフィが苦笑しながら双子の言葉に自分の言葉を付け足す。
「ヒースって子とセインって子です。二人とも、このクラスでしょう?先生」
「ええと、ちょっと待っててください…」
初老先生はそう言って持っていたノートをペラペラとめくる。
やがてその手はあるページでぴたりと止まり、そして数秒してノートを閉じて私達に向かって頷く。
「たしかに、その名前の生徒はいますね。ええと、その二人は道にでも迷ったんですかね」
「その可能性が一番高いですね、今のところ」
「ふむう…よしシセリー先生、二人を捜索しましょう」
「了解しました」
二人で頷きあって、初老の先生がノートを切ってその紙にサラサラと書いてまた切って、片方をシセリー先生に渡す。
それから、連絡をまわすのだろうか、二人同時に同じ魔術陣を組み始める。
が、
ドカアアンン
「「「「!!?」」」」
爆発音が、響く。