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今何回目の人生?  作者: 雪鈴空斗
二回目の人生
14/22

戦闘終了

「…へ」


 竜の方を見た瞬間、思わずそんな声をあげてしまった。

 いやだって、仕方がないよね?だって、あの竜が…。


「小さく、なってる…?」


 小さくなってるというか、ぬいぐるみみたいになっているというか…。


「キュー」


 そう、竜は鳴いた。か、かわいい…!

 サイズは抱っこできるくらいの大きさで、何又にも分かれていたしっぽは一本のみ。小さな羽もついており、ちゃんと飛べそうだ。


「私が治癒魔術をかけた途端にこうなったのよ」


 試験官さんがそう言い、竜へと視線を向ける。

 その竜といえば、周囲の呆然とした視線を物ともせずに、羽をパタパタと動かしながらキューと鳴いている。そうしながら、竜は私の方に近寄ってなぜか私の周り飛び回る。


「え?ど、どうしたのかな?」

「…懐かれたのでは?」

「…そうなの?」


 セインの言葉を聞き竜へと視線を合わせてみるが、竜が人の言葉などしゃべれるわけもなくただキューと鳴いた。

 それから竜は私の肩の上で止まる。…ちょっと、重い。


「…どうやらその竜は傷が痛くって暴れていただけのようね。それにしても、なぜ小さくなったりできるのかしら…」

「まあなにはともあれ、一件落着ってところか」


 うん、と笑顔で頷くと試験官さんが微笑ましそうに瞳を細めた。

 そうしていると、我に返ったらしい他の試験官の人たちが私の方へと向かってくる。


「君、その竜をいったん渡しなさい」

「また暴れないという確証はないからな。危険だ」

「え…でも…」


 予想外の言葉に、私は言葉に詰まるしかない。

 視線を肩へとやると、試験官たちを恐れているのかキュウ…と鳴きながら、私の方へと身を寄せる。

 ヒースが眉をひそめながら試験官たちに反論してくれる。


「敵意やら殺意やらは一切感じませんので、引き渡す理由はないですが」

「しかしだね…その竜はさっきまで暴れていたのだよ?」

「…今この竜をリアから引き離したほうがこの竜が暴れる可能性の方が高そうですが」


 ヒースの呆れ気味の声によって、試験官たちが私の肩にいる竜へと視線を向ける。

 たしかに今私はこの竜にものすごく懐かれているっぽいし、それに竜はなんか試験官たちを警戒しているようだから引き離した方が暴れる可能性が高いような気もしなくはない。

 だけどなぜ、私はこんなにこの子に懐かれているのかな。…傷を治す治癒魔術を使ったのはこの女の試験官さんだし、私はナイフを抜いてあげただけだし…。

 うーんと悩んでいると、試験官たちがどうしようかという空気になったのを感じた。女性の試験官さんはどこかどうでもよさそうな顔をして、口を開く。


「とりあえず様子見でいいと思いますよ先生方。たとえ暴れたとしても、この子たちが死ぬ可能性は少ないですし」

「た、たしかにその子たちの実力はかなりのものだったが…」


 試験官の一人が迷うような目で私を見る。

 そうして、やがて大きな溜め息をつき肩を落として「まあ、いいだろう」と言ってくれた。


「キュー!」

「わっ、ちょ、急に暴れてどうしたの?もしかして、私と一緒にいれるのが嬉しいの?」

「キュウ!」


 そうだと言わんばかりに鳴く竜。

 その光景を見て、セインがフッと笑う。…ちょ、なにそのカッコイイ笑み…!


「仲が良いな。本当に、よく懐かれたようだ」

「…魔物と仲良くなってどうするんだ。魔物を退治するのが魔術師の仕事だろう。…というか、魔術試験はどうなった?」


 ハッとしたヒースの声に、私もようやくそのことに気づく。竜のことで一杯一杯になっていたけど、今って魔術学園入学試験最中だったんだよね…!?

 私が試験官さんたちの方を見ると、不思議なことに誰も焦った表情をしていなかった。

 それどころか、めっちゃ落ち着いた顔をしている。え、なんで??

 頭に疑問符を浮かべている私たちに、試験官さんが優しい声音で教えてくれる。


「入学試験というのは別に迷路から脱出できたら合格って訳じゃないの。素質が多少なりともあれば、誰でも入れるものなのよ。まあそれは知っているかもしれないわね。それで、その素質があるかどうかは校長が判断なさるんだけれども、貴方達は誰がどう見ても素質がありそうだから、問題ないわね」

「本当?よかった…!」

「…なんか適当っぽく聞こえるのだが、それでいいのか?」

「そんなもんだから、いいのよ」


 ヒースの怪訝な声にそう答え、試験官さんは他の試験官たちに顔を向ける。


「とりあえずこの竜はいったん置いといて、試験ができなくなってしまった生徒たちをどうするか相談しましょう」

「そうだな。たしか生徒たちは待機させたままだったな…。とりあえず、校長の意見も聞かねばなるまいな。…君達」

「はい?」

「とりあえずここで少し待っていてくれないか?まあその竜を今すぐ我々に渡してもいいというならば、宿へやら帰ってもいいが」

「い、いえ!ここで待ちます!」

「そうか。それじゃあシセリー君、ここで彼女たちと共に待機しておいてくれ」

「了解しました」


 試験官さん…シセリーっていう名前だったんだ。なんか綺麗な名前。見た目も美人さんな彼女には、似合っている名前なんじゃないかな。

 改めてシセリーという女性を眺めていると、不意にポンと肩を叩かれた。

 見ると、何を考えているのか分からない表情をしたセインと特になにも思ってなさそうな表情をしているヒースの二人。…二人に接してると分かるけど、こう見えてセインの方が何も考えてなくてヒースの方が何か考えてたりする方なんだよね…ちょっと不思議。


「そういえば、二人ともどうするの?宿の方に帰る?」

「…僕の方はここにいる。その竜が最終的にどうなるかも気になるしな…」

「ああ」


 チラリと竜へと視線を向けるヒース。

 その横にいるセインは頷いたので、これはヒースと同意見ってことかな…?

 二人ともう少しいられると思うと、なんだか無性に嬉しくなって笑顔でお礼を言うと、大したことじゃないからなと言ってヒースはそっぽを向いてセインは口元を緩めてくれた。

 そうしていると、私達の会話を聞いていたらしいシセリー試験官が微笑みを浮かべながら、


「仲良いのね、貴方達」


 と、微笑ましいものを見るかのような口調で言った。

 たしかに、短時間だったけど仲が良くなった気がする。…別に仲が悪かったわけではないのだけど。

 仲が良い、という言葉に真っ先に反応したのは、ヒースだった。ふいとシセリー試験官から視線を外して、否定的な声をあげる。


「別に、そんなことありません。普通です」

「そうかしら?」

「そうです!」


 ハッキリとそう言ったヒースだけど、その表情はどこか嬉しがっているようなものに見えた。

 もしかして、仲が良いって言われたこと結構嬉しかったりするのかな…?

 首をかしげてヒースを見ていると、私と同じくヒースをじっと見ていたシセリー試験官がヒースの心情を察したのか、クスクスと上品な笑い声をあげる。

 するとヒースは不機嫌そうに眉をひそめる。笑われたのが癪にさわったのだろうか。けれども、さすがに試験官に向かって怒るようなことはしなかった。


「…ところでリア、その竜は一体どんな体の仕組みになっているのだろうか」

「え?さあ…?それは分からないけど…」

「解剖してみるか」

「お前は何をサラッと怖いことを言っているんだ!」


 ヒースがセインの頭をバシンと良い音をさせながら叩く。

 うん、今の言葉はたしかに怖かったよ…。若干(?)引いた顔でセインを見ると、彼は少し焦った顔をして冗談だと慌てて弁解を始める。


「ただの冗談だから、そんな目をしないでくれ。本当に解剖する気はない!」

「キュウゥゥ…」


 怪しい、とでも言うかのような声を竜が出す。うん、その気持ち分かるよ竜…。

 セインが言うと冗談に見えない聞こえないから、本当…。

 私とヒースと竜の二人と一匹で疑わしい目でセインを見ていると、シセリー試験官がプッと吹き出すのが聞こえた。


「貴方達、漫才でも、してるの?フフッ」


 こらえきれないようで口元に手をあてながら、シセリー試験官は声をあげる。

 どうやら、私達のコントが彼女のツボにはまったようだ。それにしても、美人は笑っているだけでも絵になるなあ…。


「…試験官は、笑い上戸なんですか…」

「え?うーん、どうかしらねぇ…」


 シセリー試験官の笑いが収まってきたところで、ヒースが呆れ顔で問いかける。

 シセリー試験官は一瞬キョトンとした顔をすると、困ったように笑って首を傾げる。そういえば、さっきも笑っていたし…。

 やがて結論が出たのかシセリー試験官はスッキリとした笑顔を見せる。


「そうかもしれないわね」

「…そうですか」


 ヒースの返答はどこか投げやりだ。


「…それにしても、この竜ってどうなっちゃうんだろう…」

「野生に返すんじゃないか?」

「あるいは、解剖され――「もうそれはいい」ぐっ!?」


 言葉の途中でセインはみぞうちに肘をいれられる。当然、それをやったのはヒースだ。


「…それはあの人たちが決めることでしょうから、特に気にしなくってもいいと思うわよ。まぁ、そこの金髪の彼の言うとおり野生に返されると思うけれど」

「そっか…」


 野生に返すとなると、一生会えないかもしれないんだ…。

 竜へと視線を向けると、竜はキュー?と鳴く。ちょっと名残惜しいなあ…。

 私は竜の頭へと手を伸ばす。

 もう会えないかもしれないと思うと、なんとなく竜に触りたくなった。

 そして、その手があと数ミリで届くという瞬間、


「誰!?」


 私の鋭い声に、その場にいる全員に緊張が走る。

 私の視線の方には、茂みがある。

 そこから、元々隠れる気はあまりなかったのか人があっさりと出てくる。


「あーあ、見つかっちゃったか」


 残念、と言うその台詞は男のもの。

 そして残念と言いながらちっとも残念そうではないその声音は、自分の真意を悟られないようにするためのものだ。

 警戒したヒースが、私の横に立った。


「誰だ、お前」

「…」


 答えず、男はただ姿を現す。

 

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