(1)The world is for one
初投稿です。
色々と始めてで良く分からない点も多いですが宜しくお願いします。
第一話は一年ほど前に書いた作品です。
誤字脱字や変な表現は直しましたが基本的にはそのままです。
下手くそですが宜しくお願いします。
毎日が平凡だった。
ただ淡々と日々を過ごしていた。
自分に意味を見出せていなかった。
――そうあの日までは
これは色んな思いから紡がれた物語
――――あなたは信じますか……?
***
――本日は晴天なり。
春の心地よい風が流れる。このまま時が止まってしまえばいいのに……なんて思うが現実は非情である。
何故そんな現実逃避をしているのか?それはこの長い長い上り坂のせいだ。傾斜角度が小さいのが唯一の救いだが、見た者の体力を奪っているのは間違いない。
自転車を両手で支えて押しながら坂を上っていく。入学式の翌日だというのにテンションが上がりにくいのはこの坂のせいか、僕の元々の性格のせいなのかは分からないが前者が無いとは言い切れないのがまた事実である。
僕が入学した学校は『夢海ヶ丘高等学校』ここらではかなり有名な進学校だ。学業と部活動に力を入れており、事実バスケ部や野球部では何度も優勝をしていた。と言っても僕がこの学校を選んだ大きな要因は『自転車で通学出来る距離』と言うことだ。
自転車を押して何分立っただろう。十分ぐらいだろうか? そうすると大きな建物が見えてくる。学校では考えられないほどの広さ……はさすがにオーバーすぎるかもしれないがそう言ってもいいほど、この学校の設備は凄かった。五十メートルの室内プールに総合体育館が大、小合わせて三戸。四面もあるテニスコート。本館の他に部活動用の別館なども有りかなり大きな学校だ。
校門をくぐると大きな桜の木が出迎えてくれる。綺麗に咲き誇っている桜は僕らを静かに見守るようにしてそこに根を下ろしていた。
自転車を駐輪場に押し込むようにして停めると鞄を肩にかけてから昇降口へと向かった。昇降口に着くと自分の下駄箱から真新しい上履きを取りだした。やっぱり新しいと履きなれない感覚がある。
教室は特に変わりも無く普通で、机の並び順は男子の列女子の列と別れており、クラス人数40名弱分の机が綺麗に並べられている。
僕の席は教室のほぼ真ん中と言う所だ。ちなみに僕の名前は『城井 誠人』席の場所は五十音順で割り当てられているので妥当だと言える。
学生鞄を自分の机に置くと椅子に腰を下ろした。それから教室の時計で時間を確認する。本鈴まで後10分ほどという時刻だった。まだ高校生活二日目なので特にやることも無い。
そのまま先生が来るのを待つ事にした……。
キーンコーンカーンコーン……キーンコーン……
本鈴の鐘と共に担任が入って来た。さすがにまだ二日目と言う事で既に皆教室に揃っている。と思ったが彼にはそういう常識が通用しなかった。
担任が出席を取る。淡々と生徒一人一人の名前を呼んでいき、そして僕の名前を呼ぶ。問題は次だ。
「鈴代 悠也……居ないのか?」
僕の後ろの席の主は未だに不在だった。
そのために担任が仕方なく出席簿に書き込もうとした時だ。
ガラッ!
「はい! 悠也居ます!」
教室のドアを勢いよく開け放った身長の高い男子が入ってくる。
「悠也……お前入学式の時も遅刻してただろう」
担任は呆れた声で言う。
「いや~すいません。二度寝しちゃって……てへ」
「てへ……じゃない!早く席に着け」
「あはははは……」
笑いながら彼は僕の後ろの席に着いた。
僕は顔をユーヤの方へ向けると
「ユーヤさすがに酷いよ……二日連続は……」
半分諦めが入った声色で呟いた。
「マコト、お前は朝眠かったら二度寝しないのか!?」
「眠くてもしないよ……」
肩を落としてため息を吐く。
「マコトこう考えろ。俺がおかしいんじゃなくて皆がおかしいと、朝の七時に人間は起きられるように出来ていないと!」
「力説されても困るよ……それに遅刻しないのが普通だよ……」
「うっ……」
さすがに反論出来ないのか、ユーヤの口が噤む。
僕は顔を前に向けると会話を終了させた。そして先生の言葉に耳を傾ける。要約するとこんな内容だ。
『これから校内の案内を行う。詳しい事は後で説明するが入る部活動を決めておくように』
先生が教室を出て行く。時間まで教室待機と言うわけだ。すると後ろからトントンと肩を叩かれる。
「マコト、どうする?」
「どうする?って……部活の事?」
「それもあるがこの後のことだよっ正直校内案内とかメンドクサイじゃん」
「確かに、わざわざする事でも無いかもね。でもどうするの?」
するとユーヤはビシッと人指し指を僕に向けて、
「マコト考えてくれ!」
「いや……いやいや考えないよっ!何言ってるの」
「マコト……俺の頭じゃ考える事なんてたかが知れてるんだっ」
「いや……落ち着いてよ。純粋に校内案内受けようよ……」
と言っていると教室に先生が入ってきた。
「ほら、ユーヤ諦めて案内を受けようよ」
「マコト……仕方ないお前がそこまで言うなら……」
何か腑に落ちないがユーヤを連れ出せたので良い事にする。
それから四十分ほど案内を受け教室へと戻ってきた。
「なんだかんだ言ってユーヤ楽しんでたじゃん」
「あれだな!この学校凄いなっ!体育館に冷房完備とかマジヤベェ」
……驚く所はそこなのだろうか?
自席に腰を下ろすと、色々見たおかげかテンションが上がったユーヤを見ていた。
「ん?なんだ俺の顔を見て」
「いや、本当に面白かったんだなと思ってさ」
するとユーヤは顎に手を当ててじっと俺の顔をのぞき込んできた。
「……どうしたの?」
「いや、こう見るとやっぱお前可愛い顔をしているよな。なんでお前男なんだ?」
「え!何言ってんの!?」
「いや、お前超童顔じゃん。しかも中学生の時告白された事あるじゃん。男に」
「……やめて。それ黒歴史だから」
顔に手を当てて嘲笑する。勿論自分に対してだ。
僕はかなりの童顔なのだ。中学時代はそれがコンプレックスで一人称を『オレ』にしたりなど男っぽく見えるよう努力したのだがやはり一人称は簡単には直せず……。おかげで良く正反対の悠也と比べられたりした。当時告白してきた方は転入生で何故か僕を女だと思ったらしい。普通は制服で分かると思います。
ユーヤの身長は180cmを超えていて顔も悪くない。だが性格に少し難があり、……とても簡単な言葉で言えばアホである。
ちなみに僕の身長170cm。……すいません盛りました。本当は166cmぐらいです……。顔は、どうだろう僕は余り良いとは思わないが、ユーヤは「ショタ萌えの時代が来たか」とか昔良く分からない事を言っていた。
まあこんな感じで僕の容姿を軽く伝えて見ました。
――誰得だよ!
***
そして放課後
「で、マコトは部活どうするんだ?」
ホームルームも終わり、帰宅の準備をしていると後ろからユーヤが声をかけてきた。
「まだ決めてないけど」
腕を動かしながらそう答える。
「ユーヤはバスケ?」
「ああ、一応スポーツ推薦で入ったからな」
ユーヤを見ると既に帰る準備は万端のようだ。
「明日からだっけ?仮入部期間」
少し急いで準備を終えると席を立った。
「あ~、わるい先生の話聞いて無かった」
「ユーヤに聞いた僕のミスだよ……。確か明日から一週間仮入部期間だよ」
僕が先に教室を出て、後からユーヤが付いて来るように出てくる。
「つまり、明日から部活動に参加できるわけか」
「そういう事だね」
ユーヤと肩を並べて廊下を歩く、身長差がかなりあり僕が見上げる形になっている。
「……マコトはもうやらないのか? 運動」
少し気まずそうにユーヤは言った。……確かに避けては通れない話題だ。
「そうだね……。もうやらないと思う。でも文化部でも良い所有りそうだし探してみるよ」
「……そっか。なんかわりぃ」
ユーヤは後頭部を掻いて気まずそうにする。
「なんでユーヤが謝るのさ」
「とりあえず、な」
少しの沈黙の後、ユーヤは思い出したかのように言葉を紡いだ。
「そういえばマコト、駅前に新しいラーメン屋出来たんだが行かねぇ?」
僕はそれをユーヤなりの気遣いだと受け取った。
「うん良いね。たまには行ってみようか」
素なのか、考えてやっているのか分からないけど、それが咄嗟に出来る彼を少しカッコ良く思えた。
「あっ、やべ金ねえや……」
……やっぱりカッコ悪いです。
***
学校生活三日目。
『将来の目標、高校で何をしたいのか』をテーマに作文を書くことが今日の課題だ。
『作文は適当に書き連ねて空白を埋めて行き、終わったら残った時間を机に伏せて待つ』これは昔、ユーヤが言った作文のやり方である。「これで作文は余裕!」と豪語していたが肝心のユーヤは書き始めるのが遅く、『適当』の中身が書けないので作文の授業はいつも時間ぎりぎりに課題が終わっていた。そのため現在も後ろで「むむ……」という唸り声と共に髪を掻き毟る音が聞こえる。
(頑張って、ユーヤ)
と心の中で応援しながら僕は机に伏せた。
「じゃ、俺は男バス見てくるからよ!お前も良い部活見つけろよ!」
と言ってユーヤは教室を飛び出して行った。
さっきまでのびていたのに帰りのホームルームが終わったら直ぐに立ち直る。アホだなぁ……としみじみ思った。勿論良い意味で。
とりあえず僕も部活を探す事にした。部活動の場所は職員室前に掲示されているので向かう事にする。
職員室は二階にある。昨日の案内で大体の場所は把握していたので迷うことなく着く事が出来た。職員室前には女生徒が一人、掲示された紙とにらめっこをしているだけでかなり静かな場所になっていた。
でも、これは当たり前なのかもしれない。
この学校は勉学と部活に力を入れていると先日言ったが、同じ部活動と言っても文化部には力を入れていないのだ。どうしてなのかは分からない。
そのためにこの学校に来た時点で何に所属するか決めている生徒が殆どだ。また勉学に励んでいる生徒は幽霊部員として適当に部活に入るかそもそも入部すらしないのだ。つまりユーヤの様に既に部活を決めているのが普通ということになる。
僕は女生徒と同じように部活を探す事にした。
掲示されている運動部の数はかなりあるようで、文化部の欄を探すのに少し苦労をしていると横から疑問符が付いたのが分かるぐらいの「あれっ?」という言葉を聞く。僕は少し怪訝な表情でそちらを向いた。
女生徒の身の丈は僕より10センチほどか低く、髪は丁寧に切り揃えられているセミロング。少し幼い顔立ちをしていて、頭にはちょこんと可愛いリボン付けているので余計に幼い様に見えた。胸元の大きなリボンが特徴である学校指定のセーラー服を着て、僕の横に立っていた。
「あぁ、やっぱり同じクラスですよね」
と彼女は言うが悪い事に僕は覚えていなかった。
「あれ、勘違い? 悠也さんと仲良いですよね?」
「あ、うん。多分それで合っていると思うよ」
まあユーヤはあっという間に覚えられるよね。
「やっぱり、合ってました。良かった……実は誰も居ないから少し不安だったんですよ」
「えっと……」
「あ、わたしは千代川って言います。千代川 皐月 えっと、同じ学年のバッジです」
胸元についている小さなバッジを見せてくれる。
この学校は制服に付いたバッジの色で学年を判別出来るようになっている。一年が緑、二年が青、三年が赤といった具合だ。千代川さんのバッジは僕と同じ緑色なので同じ一年という訳だ。
「僕は、城井……」
「城井誠人さんですよね。覚えやすかったです」
「あ、そうなんだ……。ごめん、僕だけ覚えて無いみたいで」
覚えていない自分が少し嫌になる。
「いえ、わたしが少し気になっただけですので……」
少し残念そうな表情をしているのに気付き、慌てて話題を変える。
「えっと千代川さんも部活探し?」
「はい。余り運動は得意では無いので……城井さんも?」
「そうですね。何か良いのあった?」
「う~ん、まだ迷い中なのですが……」
千代川さんは文化部の欄を指で指してピックアップしていく
「文芸部、手芸部、書道部など良いかも知れません」
とても整った口調をしていて、人を不快にさせずに男女の両方から好かれる子だと良く分かった。
「わたしはこれから見て回ろうと思っているんですが、城井さんはどうするんですか?」
「僕はもう少し見てから回って見るよ」
「そうですか。では、また明日」
ペコっと頭を下げるので僕もつられて頭を下げる。
千代川さんは少し微笑むと少し小走りでその場を去った。
千代川さんとの邂逅も終わり、五分ほど掲示物を見ていくつか見学する所を決めた。一番最初は文芸部。千代川さんにお薦めされた上に本を読むのは好きなので丁度良いかなという気分で選んだだけなんだけど。
『場所:別館三階』としか書かれていなかったので一先ず別館に向かう事にする。別館は本館から渡り廊下を通って行く事になるが、渡り廊下は一階と二階にあるのでそのまま二階渡り廊下に向かった。
渡り廊下を渡ると本館とは少し構造の違う別館に着く。別館は特別教室と文化部の部室があるだけで本館と比べると少し見劣りするが僕は十分に感じた。
しかし三階に着いたものの場所が分からない。特別教室を抜いて考えても、結構部屋がある。備品など置く部屋や他の部室もあるだろうからどれが正解なのか分からない。せめてドアに『文芸部』と書いたボードでも付けていて欲しい。
仕方ないので端から攻めて行くことにした。
一応ノックもする。――もしノックしてもドアが開かないなんて事になったら……恥ずかしくて周りをキョロキョロしている自分が目に浮かぶ。
コンコンと二度ノックし、ドアノブを握る。少し力を入れてドアを押すと抵抗も無くドアが開いた。一応正解のようだ。
――え?
中には人が居た。開いているのでそれは居るだろう。変なのはそこじゃない。部屋の中心には普通の良くある白色の長テーブルがある。でも何故かその上に座り本に目を落としている女生徒が居た。女生徒はまるで日本人形のようにしかしここで生きているという確かな存在感があった。だから少し不思議な感覚を僕は持った。
パイプ椅子はテーブルに突っ込まれているが、それらは完全に役目を果たしておらず、女生徒はそれが当たり前であるかのようにテーブルの上に腰を下ろしており向きは丁度こちらの方、ドアの正面を向くように座っているので知らずに入って来た人は驚くはずだ。
どうすれば良いのか迷っていると女生徒は本に目を落としながらぽつりと言った。
「……奏はまだ来てない」
「あっ、そうですか」
いきなり言われたので当たり障り無い返答をしたが
奏とは誰なのかも知らないし、ここが何の部室かも聞いていない。……多分文庫本を読んでいる所を見ると文芸部だと思う。
僕は部室の中に入ると部屋の中を見渡す。小さな窓から太陽の光が入ってきてるため、明かりがいらないほど明るかった。部室は教室より二周りほど狭く、入って右側の壁には黒板。その前には大きな机が二つ並び、卓上は液晶テレビが一台ずつ置いてあった。脇には脚付きのホワイトボードもあり、多分黒板の代わりに使っているのだと思う。他には引き出しと開き扉の付いた戸棚が壁に寄り添うように置いてあり中にマグカップ等の食器が収納されていた。
数分ほど部室内を軽くザッと見て少し疑問に思った事がある。『文芸部なら本棚位あっても良いんじゃないか?』……と思ったが冷静に考えると基本的な活動は図書室で行っていて、文集を書くときや休憩などにこの部屋を使っているのかも知れない。食器棚とかもあるようだし。
兎に角、部長が来るまでここで待たせてもらう他無いだろう。
――十分ほど経過し、別に部長を待たなくても良いんじゃないかな? とか思い始めた矢先。
バタン!と部室のドアが開かれる。
「や~新作のゲーム買いに行ったら遅く……」
部室に入って来た女生徒と目があうと途端にもの凄いスピードで僕の目の前まで接近してきた。
「……入部希望者かっ!」
「え、いや、あの、顔が近いです……」
僕が慌てて言うと彼女は少し身を引き、僕の肩をポンっと叩く。
「いやー良かったよ……今年はどうしようかと思っていた所だ」
「いや、僕に話をさせて下さい」
「少年。君の名前を聞かせてくれるか?」
ダメだ。完全にあっちのペースだ。
「あ、もしかして少女だったか?」
「いや、少年です。紛れもない男です」
「ふ、冗談だ。我が部は男子禁制なのだが、ショタなら大歓迎だ!」
男子禁制!? 何やっているのこの部活……後、僕ショタじゃないです。
「僕は城井誠人です。後私この部に入ると決めた訳じゃ……。それに何をやる部活何ですか!?」
「ふむ、誠人女史か。おっと冗談だ。少年」
完全に遊ばれている僕。
「私は詩集院 奏 (ししゅういんかなで)。おねーさんの事は好きに呼ぶと良い。学年は二年で一応この部の部長をやっている」
詩集院先輩は僕より少し低い位で女性としては大きい方だ。綺麗な黒髪が腰にかかるほど長い。目元が若干ツリ目だが顔立ちは整っており美人という言葉が当てはまる。正直、顔が近い時にドキッとしてしまった。
「ふむ、少年。おねーさんが美しすぎて妄想に耽るのは良いが、なるべく本人が居ない時にするべきだと思うぞ」
「妄想してませんよっ!」
いや確かに綺麗ですけど、妄想まではしてないです。って誰に言い訳しているんだ僕は。
「この部活って……文芸部じゃないんですか?」
絶対に文芸部じゃないと思いながらも聞いてみる。
「当たり前だろう!」
先輩は右手人差し指を僕へと向ける。
「ここは〝ゲーム研究部〟ゲームを愛して止まない者達の研究の場だ!しかし私が認めた者しか入れない!主に美少女!」
狭い部屋に先輩の声が響き渡った。
言葉だけを理解すると研究というのは建前でゲームをやる部活って事だろう。
「……で、詩集院先輩」
「おっと先輩は要らんよ。そういう堅いのは好きじゃない。奏ちゃんと呼ぶと良いぞ」
――いや呼べませんよ。それにさっき好きなように呼べって言いましたよね?
「……それは置いておきまして。僕入部するなんて言っていませんよ?」
「何!?」
その発言がショックだったのか、詩集院先輩は肩を落として落胆した。
「部員が足りなくてな……。もしも誰も入って来なかったら廃部になるんだ。これで廃部にならないと思ったのだが……。仕方ないか、無理強いするのは良くないしな……」
あれ?なんか僕悪者?
「少年。君に会えてよかったよ。これからも仲良くしてくれ。私が卒業するまで……な」
いや、先輩まだ二年生ですよ!? もう会えないみたいな感じ。なんですか、僕が悪いんですか。
「……入りますよ。この部」
ここに来たのも何かの縁かもしれないと少しばかりポジティブに考える事にした。
「さすが!少年。いやー君は入ってくれると信じていたよ!」
さっきの落胆した人とは思えない明るい笑顔になる。
「はぁ……そうですか」
僕は今、彼女と正反対の表情をしているのだろう。
「それで部長。あの人って……?」
相も変わらず、テーブルに腰を下ろしている人へと目を向けた。
「うん……? あぁ、あかりんの事か」
「あかりん……?」
先輩は何故か自慢をするように説明をし始めた。
「あの本を読んでいるのは黒乃 灯クラスは違うが同じ二年だ。私は親しみを込めてあかりんと呼んでいる。我が部のマスコット的ポジションだ! 可愛いからな。後、私を部長と呼ぶのは構わんぞ」
許可が下りたのでこれからは部長と呼ぶ事にします。
部長が僕に説明している時も、黒乃先輩は顔を上げる事も無く活字の海を潜っていた。
「いや~今日もあかりんは可愛いな~抱きしめたい。」
と部長は変態なことを言っているが、黒乃先輩の反応は無くページをめくる手元しか動かないためか、その声が届いているのかすら分からなかった。
……この人本当に動かないな。等身大の人形ですなんて言われても驚かない自信がある。
――そんな事思っていると
「……区切りが付いた」
黒乃先輩は文庫本を閉じてテーブルから降り、スカートの裾を払う仕草を取った。テーブルに座っていて分からなかったが、彼女は僕達よりも遥かに小さくて本当に人形のようだった。
「あかりん、その本は面白かったかい?」
「……犯行トリックが簡単すぎた。Whydunitに期待している」
それを聞くと部長はクスクスと笑いながら
「実際には凡夫に楽しめる内容でも、あかりんなら名探偵より先に真相にたどり着いちゃうからね。あかりんの簡単という言葉は信用し難いよ」
「……奏は過大評価しすぎ」
「『か●いたちの夜』を初プレイでしかも一番最初の犯人指名で犯人を当てた人を私は初めて見たよ」
「……あれは簡単」
「いや、普通の人は始めにBADENDを見る。私もその口だ」
……このままだと置いて行かれる。というか僕の事忘れてる。
「すいません、凡夫の自分じゃ付いていけないです。」
「何を言っている。その顔は非凡だぞ。イケメンなんかより希少でステータスだ!」
部長は親指と人差し指で輪を作り僕に見せた。部長なりの気遣いなのかもしれない。
「全く……。何故エロゲーの主人公はあんなにリア充なんだ……私達はあんなのについて行かないよな!」
「…………」
部長が同意を求めたが黒乃先輩は無視をしていた。
「ま、まさか。あかりん……既にけいけ……」
ビシッ!
黒乃先輩の鋭いチョップが部長に撃ち込まれる。
「……ありえない」
「そうか、よかっ……はっ! という事はあかりんはまだしょ……」
一瞬元に戻ったように見えたが、直ぐに部長は暴走してしまった。
「落ち着いてください!」
「ふっふふ……少年。人にはやらねばならない時があるのだよ。そう今がその時だ、真相を突き止めるまではまだ終わらんよっ!」
ダメだ……止まらない。
「……大丈夫、まだ乙女」
という先輩の一言で暴走モードに突入した部長を一瞬で元に戻すのだった。
「そうか!未経験か。良かったよ、もしもの時はその野郎を殺す所だった」
にこやかに微笑を浮かべているが、言っている言葉とのギャップが違いすぎて逆に恐怖を煽る。――この人を怒らせないようにしよう。僕はそう心に決めた。
「さて、冗談はこれ位にしてだ」
冗談だったの!?
「少年。君に頼みがある」
「城井誠人です。部長」
「あ、すまない少年」
……諦めた方がよさそうだ。
「はぁ……で何ですか頼みって?」
「ふむ」
部長はテーブルのパイプ椅子を引き、そこに腰を下ろし足を組むとそのまま続けて言った。
「さっきも言ったが本来部員が最低5人居ないと部活成り立たないのだ。私が頼みたいのは新しい部員を探してきてくれと言う事だ」
多分校則にある部活動規定だろう。それで部員が5名必要と言う事だ。
「そんな事言われましても、知り合いなんてそんなに居ませんし後二人なんて無理ですよ?」
「大丈夫だ。もし見つからなければ去年の方法でどうにかしよう」
「去年の方法……?」
少し言い方に引っかかるものを感じ、つい言葉として出てしまう。
「簡単な方法だよ。少年は気にしなくて良い。後、募集部員は女の子。出来るだけ可愛い子でゲームが好きかどうかは問わない」
――いつの間にか募集条件が増えてる!?
この理不尽な状況を打破するため黒乃先輩の助けを借りようとしたが、既に黒乃先輩は定位置で読書を開始していた。
(黒乃先輩、この人止められるの貴女だけです……)
と心の中で呟く。
「ゲーム研究部なのにゲーム好きじゃなくて良いんですか?僕もそこまで好きじゃないですけど」
もう諦めて話を進める事にする。
「あぁ、入って来た部員には私が直々に仕込んでやるからな嫌でも好きになるだろうよ……ふっふっふ」
(入る部活間違えたかな……)
「何か言ったかね?少年」
「いえ、何も言ってないですよ……」
――この人読心術でも持っているんですかね……
「そうか。なら良いんだ」
部長はテーブルに突っ込まれていたもう一つのパイプ椅子を引くと、
「ほら君も座ると良い。立ちっぱなしも辛いだろう?」
「あっはい」
部長が引いてくれた椅子に腰を下ろす。
「まだ後一週間もあるからな。気楽にやってくれて構わない。それよりもだ……」
部長は制服の懐からビニール袋を取りだしてニヤリと口元を上げると
「今日発売のゲームだ!少年もやるかね?」
――そんなこんなで僕の学校生活が本格的に始まるのだった。
読んでくれてありがとうございます。