魔王という存在
1年間、王都より少し離れた騎士訓練施設で魔王、魔族と戦える者達を集めて訓練をした。
魔王とその魔族を倒すのに、勇者1人に数人の何かしら得意武器や力を持つ者だけで倒すことは
ゲーム以外ありえないことだ。
実際に戦うとなると、魔族と戦うことが出来る兵士も必要だ。兵士希望者を募り
、なんとか3千人の兵を戦える状態までにした。
1年というあまりに短い期間。槇都は、戦士の性格や力量でグループを分け、
それぞれのメニューを作り身体強化を図った。
分隊し、攻撃専門、追撃専門等歴史の戦闘態勢を思い出しながら、前衛後衛も気に掛けた。
≪マキト殿の戦術の考え方は素晴らしい。他国で戦争をした過去に戻り、再度使いたいくらいだ≫
槇都の従者兼補佐及び監視者として傍にいる、将軍職の男は感心しきりだ。
「ゼルファセス」
魔族、人間に近い姿のハーフの軍勢と彼は戦っていく。彼は恐ろしい形相で、命を消していく。
私は恐ろしいと思った。彼がこれほど残虐になれるのはどうしてなのだろうと。
異形、魔族、魔族とのハーフ達は、自分達の国を守っている。彼らを攻撃しているのは、彼。
何人も倒れていく魔族。私には人を殺していく殺戮にしか見えない。
この魔族達の国は、彼が守ることになった国とは全く干渉がない。ただ怖い存在というだけで、
彼らは滅ぼされようとしているのだ。
元の世界の知識のある私なら、彼らと交易を始め、彼らしか作れない技術を取り入れるべきだと思う。
どうして姿形が違うだけで魔族なんだろう。
魔王が立ち、いろいろな人種を受け入れている国は、魔王の国と呼ばれている。
その魔王は、話が分かるということで、彼は魔王に会えるよう魔王のしもべに
話をつけることにした。
やはり、街の人達が言うとおり、魔王や魔王の国の者達は悪い者達ではない。
話し合いが出来る者達だ。
彼が自分の考えを伝えると、返事が来た。
しかも友好的な内容だ。
彼らは、こちらの国と国交を持ちたいだけで、戦いを求めていなかった。
このすれ違いの考え方はなんだ?
王や宰相、貴族どもは、話し合いの場を持つことを考えなかった。
俺は話し合いをすることで、誰も傷つけることなく戦争をしなくて済むなら
それを望む。
国境で話し合いを行うことになり、テントを張って待っていると、魔王が姿を現した。
その姿は成長を止めた老紳士といった風情だ。遥に言わせれば、渋いオジサマだろう。
彼は、魔王の前に駆け寄る。
「貴方が、皆が言う魔王なのか?」
「そうだ。私は魔王。魔王と呼ばれるのは、力があるためだがね」
「貴方は、日本人ですか?」
数百年前、この国を救う為、召喚された人間。その人間が目の前に存在していた。
「私は昔、いきなりこちらの世界へ召喚された。言われるまま他国と戦争。
終われば元の世界に返すと約束したが、約束は果たされず。時を止めて今いる場所で暮らして、
王族どもから逃げていた。
そのうち私の力で助かった者や弊害を受けた者達が集まるようになり、この場所が国として栄えだした。
魔族もハーフも受け入れたお蔭で私は魔王と呼ばれる」
「それって。この国の人達が魔王を作ったということになるじゃないか」
彼は魔王と呼ばれる者と対峙して、召喚の間違いを悟った。
だけど、彼以外のこの国の兵士達には理解出来ず、彼の目の前で無力な優しい指導者である魔王を
切り裂いた。勇者としての彼を無視して。
彼は話し合いで解決できるなら、それで済ませたいと思っていただけに、
魔王を剣で貫いた兵士を殴って転ばせた。
周囲の兵士達は、魔王と魔王の国の者達の討伐に来ているわけだから、
勇者がしたことに驚いた。
勇者が裏切ったと誰もが思った。
彼は、周囲の反応を無視し
倒れた魔王の傍らにしゃがみこみ、彼は魔王になってしまった同じ郷の人間に謝罪した。
「済まない。俺達の国では、争いよりも前に話し合いというものがあるから
話しが分かる貴方と話し合い、このバカな魔王討伐を止めたかったのに。
この国のバカが貴方を」
彼は勇者の前に仰向けで寝かされたものの、苦しそうに傷を抑えているが、苦笑している。
「いや、それに気づいてくれた者がこの世界に現れただけで、私は今まで生きてきた甲斐が
あったというものだ」
魔王の軍も近くに来ていて、彼らを見守っていた。
魔王が、勇者は自分と同じ考えだと言葉を乗せたことで、魔王軍は勇者を受け入れてくれた。
「私は、この世界ではまがい物。いつか消えると思っているが、こんな形で消えることになるとは。
だが、勇者に私や皆の意志を委ねることは出来るだろうか」
元日本からの召喚者であり、現魔王はそのまま息を引き取った。
彼は、勇者の前で自分のしたことが無駄でないと最期まで言い
光の粒子となって、空へ消えて行った。
ここに魔王は、倒されたことになる。
だけど、彼が魔王と話を聞いていた周囲は裏切りだと受け取っていたことに
気が付いていなかった。
その話を傍観者として聞くことになった遥と青年は驚いていた。
「まさか。最初に無理やり召喚された人が、帰れずにまだ生きていたなんて」
『驚きです。このような報告は聞いていません。歪みが正せない理由は、彼の存在も関わっていますね』
「どういうこと?」
『この世界にはいてはいけない魂です。彼もこの世界にいたという事実を消滅させることになります』
「もしかして子孫がいない?彼はこの世界で恋愛していれば、子供とか孫の存在があるのじゃないの?
その人達もいなくなるの?」
『そうです。この世界のつじつまを合わせる為に、いなかったことになるはずです。ただ、違う形で
存在することになるでしょう』
勇者が裏切った。
彼が召喚についての話を、一緒に来てくれた兵士達に話をしようとするが、誰も聞く耳を持たない。
魔王の味方になった勇者ということで、全ての兵士達が彼の敵になってしまった。
「聞いてくれ」
勇者が魔王になった。
彼に剣をぶつけてくる者、矢を射る者が彼を追い詰めてくる。
彼は魔王に変わり、兵士達と戦うことになってしまった。
魔王の軍は、勇者の味方になり、彼を助けてくれるが、彼の心はもう壊れかけていた。