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彼の異世界での始まり

私は、神の使いである青年に連れられ、彼がいるという別の世界へと飛んだ。


『ここは、リュブールという世界です。召喚された彼は、エデルトン王国にいます』

こちらの神の計らいで、私は彼が召喚される前の王城の中庭に来ていた。

「私は彼らには見えないの?」

『はい。私も貴女もこちらの干渉から外れています。傍観者なのです。

姿も声も相手にはわかりません』


せめて、彼には私の存在を教えたかったのだけど、私はこの世界では幻のような存在らしい。

そうしているうちに、中庭には7人のグレー系のフードコートを被った魔術師達が

地面に書かれた魔方陣の上に間隔を開けて立った。


『もうすぐ彼は現れる』


青年がボソリと私の耳に声を落とすと、魔術師達が一斉に呪文を唱え始める。

辺りが急に暗くなり、風が吹き荒れ始める。

『神の許可なしの呪文だ。無理やり異世界の空間が出来るところだ』

「この呪文を2度と言えないようにしないといけないのじゃないの?」

『その通りなんだ。彼らの書物で召喚の部分を消す作業をすることになっている』

「同じことが繰り返されないといいね」

私が寂しげに返事をすると、青年は頷いた。


青年は、今回が2度目だと零した。

「2度目?」

『前回は少し歪みが出ただけだった。でも、原因が分からずこちらの神は何百年と修復作業を行った。

今回、この召喚をしたことで貴女のいる世界であり、私の上司である神が気づいたのですが、既に遅く』

「前回気づかなかったという事は、別の世界だったの?」

『はい、その通りです』

前回は、私の世界ではなかった事と、その世界の神が幼かった事が原因で、召喚に気付けなかったということだ。

『神であるとはいえ、任されている世界は広く、1度に全てが完璧にはいかないと仰っていました』

1人の神が1つの世界を管理している事実を一般人である私が知っていいのかわからないのだけど、

彼の最期を看取れば、私はこの事実も全て記憶が失うのだからいいのかもしれない。


それが分かっているからなのか、昨日よりも青年の口は饒舌だ。

愚痴もため息も私に話して聞かせている。大丈夫なのかしら。



そうしているうちに、地面に記されていた魔方陣から竜巻のような煙が立ち、

それが収まると彼が眠っている姿で現れた。一緒にベッドに入って、私の横で眠ったままの姿で。

槇都まきと

私の夫になったはずの彼、朝凪あさなぎ槇都まきとは、目の前にいた。

私は彼に近づくが、彼には触れることが出来ない。彼の肩に触れようとしても通りぬけてしまう。

「う、ふ・・・ううう」


『遥さん』

青年は、しゃがみこんでいる私の傍で、私を見守ってくれる眼差しを向けてくれる。

「わかってる。干渉できないのは。でも、目の前にいるのに。助けることが出来ないなんて」

私が取り乱している間に、彼は目を覚まし、魔術師達や王とその臣下と話が始まった。



≪ようこそ、異世界の勇者殿。我が国の召喚によくぞ応えてくれた≫


薄暗い灰色のようなフード付きのコートを着た魔術師達は、その場で力の使い過ぎで休んでいる。

その中を王冠を頭に乗せた大柄な茶髪で口髭のある男性が、煌びやかな衣装に身を包みながら

槇都の前に近づいて来た。


「勇者?」

目を覚ました槇都は、目の前の男性を睨み付けながら呟いた。

「俺は勇者じゃない。俺は、どうしてこんなところに」

槇都は動揺している。異世界へ行きたい人間なら喜ぶところだろうか?だけど彼は違う。

好きな女性と偶然巡り合い、2年越しでようやく婚姻、これから新婚生活が始まるところだったのだ。

「今日は、婚姻届を2人で行く日だった。それなのに、どうして俺は」


≪勇者殿?≫


「何故俺なんだ。俺を召喚したんだ。元の世界へ戻せ。遥さんが待っている世界へ」

必死な形相で、国王の襟ぐりを掴み、揺さぶる姿に、私は涙が溢れて止まらなかった。

私が信じていた通り、彼は私を選んでいた。

この召喚は彼が望んでいなくて、彼は元の世界へ帰りたいと願っている。


「槇都。どうして、声が伝えられないの。槇都」

『遥さん、背景が変わります』

青年の言葉通り、見ていた場面が変わる。


国王と魔術師達が話し合いをしている。槇都は、どうやら別の部屋へ移されたようだ。

≪陛下どうしますか?異世界から呼び寄せたものの、我らには返す方法は・・・≫


この国は、100年以上前に偶然異世界召喚の呪文が出来上がり、無理やり異世界から勇者として

国を守らせる人間を呼び寄せることに取り組んだ。それは偶然のことで、異世界から来た者は、

何かしら力を持っていた。

当時、魔族や魔物が多く、国が滅びかけた。魔術師達や国王が、国の存亡をかけて一か八か掛けたのだ。

それが1回目の召喚。その時勇者に祭り上げられた者がどうなったのか、詳細は分からない。

元の世界へ戻れたという事も残っていない。そもそも偶然召喚出来たということもあり、返す術はない。

今回、魔王の存在、魔族が集う国の存在が明らかになり、討伐問題が浮上。

前回同様、勇者にそれらを押し付けようと考えたのだ。


「酷い。勝手に勇者扱い?」

『隣国との同種族の戦とは違いますからね。魔族を倒せる者が必要なんでしょう』




背景はそこから、彼が休んでいる部屋へと変わる。

「ここは、ゲストルームなのかしら?」

『そのようですね』

貴族風の部屋で、貴族の衣装に着替えさせられた彼が、窓から外の様子を伺っていた。

「槇都」

その隣に立ったものの、彼には私は見ることが出来ない。彼の横顔をずっと見続けていると、

扉をノックする音が聞こえてきた。


≪勇者様≫


身長は私と同じ位の金髪碧眼の美少女が中世欧州辺りのドレス姿で登場。

何をするのか静観していると、彼女は彼の胸に飛び込んだ。

≪私、勇者様に憧れていましたの。私が生きている時代に、勇者様に会えるなんて夢のようですわ≫

彼女は、彼をベッドへ誘導していく。

既成事実を作り、彼をこの世界に取り込もうと企んでいることが分かる。だが、本当にその美少女は、

彼を好いている様子だ。


彼をベッド上へ押し倒すと、彼女は微笑んだ。

≪昔から勇者様のお話は聞いておりました。ずっと憧れて、ようやく今日、想いが通じるのかと思うと。私は、貴方の妻になりますのよ≫

彼女は、国王の姪で国王と父親から勇者と婚姻許可を貰い、自分は妻になるのだと目の前で言い切った。


ゲームでもある王道の内容だ。その異世界で出会った美少女と結婚したとか。

一緒に戦った仲間の中に王女がいて、一緒になったとか。

今、槇都はそのイベントになっている。

「槇都」

私は彼の名を必死に叫んだ。彼には私の声も届かず自分の姿を見せることも叶わない。

今目の前では、夫の浮気現場を見せられているのと変わらないのだ。

「嫌、その女性に触れないで」

彼には聞こえないけど、気が付いて欲しくて必死に叫んだ。他の女性に触れないで。

その想いは、どうやら届いたようだ。

「悪いけど、俺の上からどいてくれないか」

彼が不機嫌も露わにする低い声。私は、彼の言葉に安堵した。思わず笑みがこぼれる。

彼は、私を覚えている。浮気をするような人じゃない。

そう思うと、嬉しくて。


≪え?≫

今までぶしつけな言葉を吐かれたことがないのか、美少女は動きを止め怯んでいる。

「その国王とあんたの父親は言わなかったのか?俺は話したはずだ。

俺には元の世界で待っている妻がいる。あんたと浮気する気は全くない。

俺は、元の世界へ戻すという条件でここにいる」

酷く怒った男性の侮蔑の視線を受け、美少女はゆっくりとベッドから降りる。

≪どうして?私は誰からも美しいと言われていて、あちこちから求婚されるほどなのに。

身分も上の私の誘いを断るなど。失礼だと思いますわ≫

王の姪であることに誇りを持っているのだろう。


「今、説明したはずだ。俺は妻帯者。あんたの国は、浮気や不倫は当たり前なのか?」

≪え?何を言っているの?国王とか貴族の中には側室はいます。妻は1人ですが、

側室は何人持とうが・・≫

必死に食い下がろうとする美少女に呆れたのか、彼はベッドから降り、すぐさま扉を開けた。

扉の前では、兵士2人と侍女が2人控えていた。

「おい。そこのバカ女を引きとってくれ。俺は元の世界では妻がいる。

こんな理解に苦しむ女を寄越すな」

兵士も侍女も驚いて、すぐには動けなかった。王の姪という立場の少女を

無下にしたことに驚いたというところだ。我に返った侍女がようやく返事が出来た。

≪は、はい≫

慌てて侍女達は、美少女を支え部屋を退室していった。

扉前で監視している兵士は頭を下げると、扉を急いで閉めた。

扉の向こう側では、美少女が発する罵倒が聞こえるが、彼は無視してベッドに倒れこんだ。


「お疲れ様」

労いの言葉をかけるが、私が見えない彼には届かないのがもどかしい。



この国に繋ぎ止めることを考えた国王達の目論み(この国の女性を妻にする)は、外れたことになる。











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