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第一幕:フヨウとサカキ、そしてイリマの生まれた経緯

桜が満開のこの季節・・・僕、葵フヨウは人工の桜並木を歩きながらその見事な優美さにため息をついた。

T大は他の都内のどの大学よりもいち早く工業デザインを推していて

このキャンバスが創立した時にも当時のデザイナーが大きく協力していたそうだ。

まぁそんな背景はともかくとして、登校中の僕の背後から駆け寄る影に気づけなかったのは本年度初の失態だと言わざるを得ない。


「イ・リ・マ・たああぁぁぁぁぁっん」


「ひきゃああぁああぁぁぁぁぁぁあああ!!!?!?」


春の通学路に悲鳴が響いた。

ほぼ本能的に背後から抱きついてきた馬鹿を背負い投げ、背中から眼前のコンクリートに叩きつける。

今度は馬鹿の断末魔が響いた、大惨事である。


「何するんだよイリ・・・」


「まだ寝ぼけてるのか榊!!僕はフ・ヨ・ウ!!葵フヨウ!!」


威嚇する猛獣の如し、怒髪天を突いた状態で馬鹿に叫ぶ。

馬鹿こと榊は目をこすり、細めた目でこちらをじぃと睨んだ後に心底残念そうなため息をついた。


「はああぁぁぁぁ・・・そうだった、リアルのお前はフヨウだったよなぁ・・・」


「お前は僕を何だと思っているんだ?」


こめかみに青筋を浮かべながら、嫌々ながらも榊に訪ねる。


「女顔のネカマ」


踵落としが顔面に決まり、再び馬鹿の断末魔が響いた。


僕、葵フヨウはT大に通うしがない工学科の大学二年生だ。

榊は高校からの悪友であり、自他共に認めるゲームヲタク。

僕にR.P.G.R.や戦神楽オンラインを薦めてきたのも彼である。

まぁそれにハマって榊以上にレベルをあげるに至ってしまった僕もゲーヲタである事は否定できないわけだが・・・

まぁそういった理由もあって、戦神楽での僕の秘密(ネカマ)を唯一知るのが榊だった。


「うぐおぉぉぉ・・・まだ頭に響く」


「堂々とに人のコンプレックスを陳列するからだろ?」


そう、僕は言われなければ女性と言っても勘違いされそうなほどの見事な女顔である。

背も低いし、鍛えてはいるが必要以上の筋肉が突くこともなく華奢な体格。

ワックスを掛けてめがねをかけて、黒い男子的な格好をしていなければ落ち着かないほどのコンプレックスなのである。


「そういう割にはイリマたん演る時はノリノリじゃないかよぉ」


「だぁぁもう、あんまり大声でそういう事を公に言うなよ!!

あれだって最初は死にたくなるほど恥ずかしかったんだから・・・」


そう、何故そんな僕がわざわざコンプレックスを自ら助長するようにネカマなんてやってるかというと・・・かなりばかばかしい失敗談を開かすこととなる。




~2年前~


当時、その夜の僕はいつもは分けて使っている両親と祖母のお年玉を一気に使って初めての1万円以上する買い物に興奮を隠せないまま購入したばかりのR.P.G.Rのパッケージを開いた。


「本当にヘッドホンみたいだなぁ、こんなので本当にゲームとかできるのかな?」


今となっては当たり前だが、当時はVRD機器なんて言うものはまだ立体投影画面もできていない世の中では明らかなオーバーテクノロジーだった。

まして当時僕らが暮らしていた田舎は文明的ではあれ未だプリクラがはやっているような時代のままで

電気屋だけが近未来的内宮間みたいな扱いになっていた。

たぶん僕も榊に薦められなかったら電気屋なんておそれ多くてこたつの買い換え以外の理由で足を運べそうになかっただろう。


説明書道理に無線端末をパソコンにつなぎ、R.P.G.Rを頭にかぶって布団に寝転がる。

そして目を閉じて「接続(アクセス)」と口にすると、後は音声認識でR.P.G.Rが起動し

まるで布団に大穴が開いたかのような一瞬の浮遊間とともに僕は眠りについたと自覚していた。


『リプロダクションギアのご使用、有り難う御座います

あなたに快適な夢の世界をご提供いたします』


まるでプールの中のような橙色の無重力空間の中、不思議と不快感はない。

そろどころか初めてR.P.G.Rを起動したときの僕の感想はまず「夢とは思えない。」その一言だった。

夢特有の認識の曖昧さとか、自分の仮想体がうまく動かない感じとかもまるでなく

思い道理の鮮明な意識と体の動きを再現していた。


「うわぁ、凄いなぁ最新機器!!」


純粋に感動した僕は、早速榊に薦められたオンラインゲーム"戦神楽オンライン"の起動画面をチュートリアルに従いながら立ち上げる。

元々R.P.G.RはVRDMMOの為に同時に作られていたこともあって、はじめから戦神楽がダウンロードされているものが殆どである。

購入してから面倒くさいダウンロード手順を省略できるので、はじめから入っている物をかって置いて良かったと今更ながらに思っていた。

開いた画面にすり抜けるように入っていくとその先は打って変わって深海のような青と水色が入り交じった空間だった。

深海をイメージしているのだろうか、所々の水色は水面から射している光のように揺らめいて視界を彩っている。


『ようこそ戦神楽オンラインへ、この世界での貴方の貴方の肉体、アバターを作成する作業へと移行します』


するとアナウンスの声と共に眼前の海水?が凝縮して、まるで長方形の姿鏡のように今ののっぺりとした僕の仮想体を映し出した。


『ご自分の姿をイメージしながら質問に一つ一つお答えください、貴方のイメージや身体情報を元にこれからコンピューターが貴方のアバターを作成いたします』


「はい!」


アナウンスの声に、僕は深く考えずアバターのイメージを想像していた。

今思えばこのときから失敗していたのだ、説明書をよく読んでいなかったから・・・あんな事をしてしまったのだ。




『お疲れさまでした、これで貴方のアバターは完成いたしました。』


「よっし、じゃあ早速榊に会いに行くか!!」


アバターが完成するやいなや、僕は矢印のマニュアルに従って空間を蹴り深海の空間を出る。

水面から顔を出すと、一瞬にして夜と昼が入れ替わったかのような錯覚に陥った。


「わぁ・・・!!」


そこはまさしく、朝を迎えた活気あふれる城下町の風景そのものだった。

まぶしい日差し、今までの空を灰色に感じさせるような彩りある真っ青な空

そして町に溢れる和洋折衷な異文化の服装を身につけた人々がPCもNPCも区別が付かないくらいに通い、まさしく此処が只のネットゲームなんかでは決してない『異世界』である事を物語っていた。


「すいませ~ん・・・ちょっと、すいませ~ん!!ふぅ、イリマさんですね?」


すると僕がいつの間にかたっていた所に人混みをかき分けてやってくるおかっぱ頭の少女が、いままでの近未来的な出来事と真逆に紙媒体のチラシを手にしてやってきた


「新規ユーザー紹介キャンペーンにご参加頂きましてまことに有り難う御座います!!

私当キャンペーンにおけるイリマさんのユーザーサポートに派遣された町人(NPC)のお栗と申します」


「あ、あぁどうも。こんにちは」


必死に人をかき分けてやってきたのだろう、息を切らしながら一息突いて自己紹介を始めるこのお栗と名乗るNPCは、とてもRPGで村人をやっているような一般にいうNPCとは思えなかった。


「普段はそこの茶屋で店番をしておりますので、気軽にお声をかけてください

私にできることであれば・・・えぇと、勧誘主さまの検索からキャンペーンの検索説明。あとキャンペーンアイテムの封印解凍などの権限を天帝様から頂いておりますので」


どうやら普段は違う仕事をしているようだ。

天帝とは設定上存在するこのヒモロギ列島の支配者であり

僕たちPCにクエスト依頼を、こうしてお栗さんのようにNPCにキャンペーン進行の協力依頼を授ける神様のような存在らしい。

尤も神様なんてキャラクターはヒモロギ列島には八百万も居るようなのでその上に立っている天帝はそれ以上なのかもしれないが・・・


「あ、そうだ。お栗さん、榊が今何処にいるかわかりますか?僕・・・いや、私の誘い主なんですけど」


「砲撃士のサカキ様ですね?お待ちください・・・」


にっこりと答えたお栗さんが念じるように目をつぶると、すぐに目を開けてお辞儀をした。


「この近くにいらっしゃいますね、伺いましすか?」


「あ・・・そうだ、ちょっと待っててくれないかな?」


その時、少し前から・・・具体的にはアバターを作るときから考えていたいたずらを実行に移すべく、僕はお栗さんを少し待たせて防具屋へと駆け込んだ。

これも、今思えば顔から火が出るほどアホなことを思いついたものだと自分を殴りたくなることだった・・・。




そして準備を終えてお栗さんに案内してもらい、サカキのアバターを見つけた。

後ろからこっそりと近づき、にやけるのをどうにか隠しながら気づかれる前に話しかけた。


「もし、お侍様」


サカキは突然話しかけられたことに驚いたかのように振り向き

それと同時に呆然と目の前の"美女"を見つめていた。


「少し、お聞きしたいことがありますねんけど・・・」


それもその筈、僕が使っているイリマというアバターは紛れもなく現実にはあり得ないほどの美少女

さらに初期でもてるだけの所持金で集めた女性用防具の中でもひたすら綺麗で尚かつ美しいものを選んで身につけてきたのだ。

えせ関西弁は話し方でばれることをおそれてのことだ。


「人を、探しておるんですが・・・」


「え、あ、え?」


突如現れた美少女に、しばらく口をぱくぱくと開け閉めしていたサカキだが、すぐに持ち直しいようにきりっとした表情で手をさしのべてきて・・・


「人探しですか、お嬢さん?よろしければぼくがおつきあいしますが・・・」


と、所々間違えた敬語で乗ってきた。


「ぷっ・・・・・・うくくっ、はっあっははははははは!!」


たまらず僕は吹き出しその場にて笑い転げてしまった。


「え?・・・ハァ!?」


しばらく呆気にとられていたサカキだが、すぐに真相に気づいたのか怒りとも戸惑いとも悲鳴ともとれる声を上げる。


「あっはははは、騙されてやんの榊ぃ」


笑いすぎて涙目になりながら元の口調ではなすと、榊はやはりといった感じで


「やっぱりフヨウかよぉ!!しまったぁぁ野郎に騙されるなんて一生の不覚・・・っ!!!」


"ネットの方では"落とした女は数知れずと自称している榊のことだ、さすがにショックだったのだろう

悶えている榊の肩をたたき、慰める事にした。


「まぁまぁ、一応女性アバターであることには変わらないんだからそう落ち込むなって・・・」


「・・・・・・え?お前それほんまもんの女性アバター?」


すると、榊は一瞬心底意外そうな顔をして僕を見上げた。

そしてあぁと納得するように頷く。


「そうだよなぁリアル男の娘を気にしてる奴がまさかネトゲでまで男の娘やるなんて普通ありえねぇよなぁ」


「うぐっ・・・」


榊の反撃が始まった、いや元々このいたずらのためにこのキャラを作ったんだからもう満足だし

そろそろログアウトして新しいキャラでも作ろう、そう思っていた。


「そ、それじゃあ新しいキャラ作りに戻るから・・・もうちょっとここで待ってて」


「は?お前このゲーム・・・」



「一人一つまでしかアバター登録できんべよ?」




「・・・・・・・・・は?」



長い沈黙がしばらく僕の思考を停止させた。






それから2年、何だかんだでこのゲームにはまった僕は今もイリマとフヨウの二重生活を送っている。









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