外伝二幕:ミカンとハクセン、はた迷惑な縁の神
私、葵ミカンには兄が居ます。
私よりも美人ですが男です。
私より男子女子問わずラブレター貰ってますが男です。
(そのケがあるのも居ますが、兄が実は男装の女子なんじゃないかというそんな現実よりも遥かに信憑性のある噂があったのもあります)
兄が東京へ進学して、念願の…そして思ったより大変だった一人っ子生活が始まって、早くも二年になりました。
私はどうしても、不安なことがあるのです。
「接続…」
私は今日もR.P.G.R.を被ってダイブします。
兄がやってた戦神楽onlineというVRDMMOゲームなのですが、兄は結局何度尋ねてもどんなキャラを使ってるのか教えてくれませんでした。
『ホームベースと、芦原神宮本殿、どちらのベースを使いますか?』
「芦原神宮本殿でお願いします」
水中に開いた門のような光を潜ると、砂利の心地よい踏み心地と音が草履を通して脚に伝わります。
芦原國、芦原神宮本殿…戦神楽onlineでの私が経営する支援系ギルド『巫女クラブ』の本拠地です。
境内に二歩三歩歩み入り、唱え慣れたいつもの言葉を唱える。
「『かけまくもたっときダイハクセンノヒメカミ、ゆらゆらとふるうゆめのうちうつしよがここにきこしめせとかしこみかしこみもしおす』~!」
そう、『この指とまれ』のように指をあげながら唱えると、周囲の空気のにおいが変わった。
「少しもかしこんでおらんのう?」
まるで霧が集まって水の固まりになるように、何処からか集まった白いもやが私の指の先に集まって人の形を取ります。
ぬいぐるみサイズの人型は、高い一本下駄を私の指先に乗せながらそう言いました。
「かしこんでます、友人として…ハクセン」
『彼女』はハクセン、私…神掛かりのミカンの相棒となる神様です。
神懸かりは現神人とは別系統の神薙の上級職となります。 本人が神になる現神人とは違い、神薙だった頃の神に祈る力を強化したジョブです。
こんなジョブをとらなければ、『何処にでも居るもの』として通常神薙全体に均等に力を分けるハクセンが一個のキャラクターとして私の目に見えることや話しかけることは無かったのでしょう。
あぁ話がそれました、そんな事はどうでもいいのです。
重要なのは仮想世界における疑似的なそれ(本柱曰く仮免許のようなもの)とはいえ彼女が神であること。
そして、気の許せる友人であると言うことなのですからして……
「ハクセン…これ見てこれぇ!」
私は、それまでの落ち着いた態度を棄てて、ハクセンにウィンドウから…今日、兄から届いたメールを見せた。
「なんじゃまた現世の兄上のことかえ?懲りん奴じゃのう天帝から下されとるぷらいばしい保護の律令で此方での名前は教えられんと…」
「違うんです!!あぁもう見て下さい全部!!」
私はありったけのメールを開きます。
添付画像つきの。
「これは、何度見てもおなごじゃのう」
「その横です」
……ハクセンがその瞳をちょっとずらし、その隣に『必ず』写っている男に視線を移した。
「……おう、こちらはイケメンじゃのう」
ハクセンの言うとおりです…彼は黙っていれば好青年、口を開けば田舎もん丸出しのゲームオタク…そんな(私の)評価を得ている生粋の残念人間なのです。
「榊ヤスシ…兄の親友です」
「なんじゃ、てっきり恋仲かと思うたわ」
ぐっ…!!改めて他人の口から聞くと、肩にズンとくるものがあります…!!
「…そうなんですよ、いや兄はそうは言ってないし、探ろうとすると否定するんですけど…」
「成る程のう…?必ず写っとるとなると疑いたくも…をや?」
ハクセンの視線が、最初に開いたメールに向き直ります。
「…む、じゃが一番新しいめえるには写っておらんのう?」
…そうなのです、兄が始めて(今更…?)オフ会に行ったときの写真だというのですが…
「しかし何故に髪飾りなんぞつけておるんじゃの?余計に美人なのが…」
「よく、見て下さい…」
「む?むむむ?」
恥ずかしそうに写る兄の後ろ……
窓の向こうに…うっすらとその顔が…
おわかりいただけただろうか…
「うわ恐っ!!?」
ハクセンは思い切りメールから引いた、神様のくせにこういうのは滅法だめなのだ。
「ね?やっぱり写ってるんですよ榊さんが!!怪しすぎますよこれ!!」
「ううむ…そういえば、兄上の君に戦神楽onlineを教えたのもこの榊とやらじゃったかの?」
兄上の君いうなイメージ似合うから。
「だからこそ、この人と会って…事情を聞かなきゃならないんです!!」
「ふむぅ…では、供物を捧げい。ヒントくらいは与えてやらんでもない」
そう、この親友は戦いの場においては一般的なMPを供物にするならばいつでも力をかしてくれるのです。
しかし、ここからが二次職独自の癖といいますか…神懸かりの相棒となるのは揃いも揃って癖のあるヒモロギ八百万の神の一柱。
その神独自に能力があり、その力には神の要求する供物を奉納する必要があるのだ。
私は、アイテムボックスから一冊のアルバムを取り出すと、バンと境内の祭壇に叩きつけた。
「では!!隠しスクショしたギルド内のカップルの秘蔵写真セットここ三ヶ月分冬の部編集版!!奉納分きっちり働きなさい神様!!!!」
ちなみに、うちの神様は『自称』縁結びの神…ダイハクセンノヒメカミといいます。
ヒモロギ八百万柱の神々の中でけっこうだぶりが多い人気職なんだそうです。
祭壇に開いたアイテムボックスにアルバムが落ちていきます。
そしてパンとハクセンが拍手、奉納完了の合図です。
「しかと承り候!!然らば相応の神威をきこしめさん!!」
その時、巨大な桃色の陣が境内に張られました。
すると浮遊漢を感じた私はいつの間にか境内から消えていました……
「……ハクセン?」
ヒクヒクと、眉がつり上がります。
見覚えのない町並み、しかしその目の前にそびえ立つ牛鍋屋の看板に私は見覚えがありました。
『柳生』
芦原國の真横に位置する敵國の、戦における最前線プレイヤーを数多く輩出しているともっぱら評判の大規模ギルドです。
その団員総数、ホームページ換算にしてなんと300、町人参加者を鑑みるに未知数の実力を備えた出雲國の看板ギルドの一つです。
私は芦原國から、ハクセンの奇跡によって一瞬にして…敵の牙城の前に叩き出された…そう言うことなのです。
「ハクセエエェェェェェンさあああぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!??」