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戦神楽Online ~フヨウとイリマ~  作者: 蓬 松
第一部おまけ
12/13

外伝一幕:イリマとスイ、始まりの物語

「はっ……はっ……」


 体が軽い、息は切れる…でも空気は綺麗だ。

 戦神楽onlineの舞台は現実とは違う歴史を歩んだ戦国時代の日本だという…

 その世界は何処にも継ぎ接ぎがなくて…何もかもが自然だった。


「……っだぁー!!」


 崖を跳ぶ、何に追われているわけでもない…しかし何故かとにかく体を動かしたかった。

 助走の終わりとともに振り上げた腕が…上がった。


「……っは」


 ちゃんと上がる、少し細いが、僕の腕だ。

 まるで枷をはずされたような気持ちだった。


「はは、ははは!……って」

 ふと冷静になる、届いてない。

 対岸には届かず、何もかも届いていない…僕ならあれくらい届いたはずなのに……

 そして、気付いた。

 まず、衣服が重い。

 そりゃそうだ、ジャラジャラと余計な飾りをたくさんつけて…いたずらのためとはいえ有り金全部はたいたのはマズかったな。

 次に、目測を誤った。

 確かに僕ならこれくらいの崖超えられただろう、鍛えたからだ。

 しかし、この脚はただでさえ鍛えた割に余計な筋肉がつかなかった華奢な僕の脚よりも細かった。

 おまけに、重い二つの固まりまで持ってるのは、僕がロリ巨乳が好みだからだ。


「あ、ちょっ…あ―――」


 そんな現実逃避に近い回り道の思考を経ても…僕は否応なく自覚した。


「わあああああぁぁぁぁぁ………」


 崖から森へ転落していくこの体は…葵フヨウ(おとこ)のものではなく、プレイヤーキャラであるイリマの…女の子のものなのだと。






 悪夢のような初のアカウント登録とダイブから三日後…僕はどうしても試したくなった事があって、再びこの世界にダイブしていた。


「うー…流石にはしゃぎすぎたかな……」


 普通夢なら転落で目が覚めるものだろうけど、しかしVRDMMOはそこまで柔なものじゃないようだ。

 僕はそのまま崖の下の森に突っ込んで、幸いなことに枝に絡まって止まったことで地面にキスしてリスポーンする羽目にはならずにすんだようだ。

 しかし、服はぼろぼろ、逆さまになってスカートはめくれて、四肢と胴体を蔦に絡まれたなんともな姿のまま動けなかった。


「うう…怖かった…夢にあるまじき怖さだった…ぐすっ」


 誰もいない、こんな恥曝しな状況を見ていないだろうという楽観からか、僕は正直な独り言をいいながら涙を流した。


 しかし、居た。

 目があった。


「……ぷふっ」


 笑われた。


 目の前…木につるされて斜めになってるから正確じゃないな。

 僕のつるされた木を見上げる位置の切り株に、彼女は一人でちょこんと座っていた。

 小さくて丸くて、和風なんだけどどこか西洋のシスターさんみたいな印象の記事の服を着ている。

そんな、天狗教修道士(プリースト)の小さな女の子だった。

 彼女は僕と目が合うと、急にオロオロしだしたが…こっちを見て、緊張気味に口を開いた。


「…わ」


「……わ?」


 言い返すと、彼女はプルプルしながら言った。


「笑ってませんよぶふすぅ…」


 ……我慢してるねーいい子なんだろうけどねー…でも涙目になって我慢するほど面白いですかそうですか…。


「いっそキルして…」


「そっ…そんなことしませんよ!いま助けますね?」


 そういうと彼女は風を起こして、僕に巻き付いた蔦をきように剥がして、風の腕で抱き留めた。


「おぉっ…と…と…ありがとぅ」


「いいんですよ、女の子がいつまでもあんな格好じゃいろいろと困りますしね」

 ピクッと眉があがった。


「女の子って…僕は」


(…て、そうだった―――!!!!!)


「ど、どうしました?どこかぶつけました?」


 地面につくやいなや急に落ち込んだ僕を見て、彼女は焦る。

 大丈夫です、ただの自己嫌悪だからー…ふと自分のあんまりな有様に気がついた。


「あーあ服がぼろぼろ…ログアウトしたら直るかなこれ」


「いや、破損は直らないんですよこのゲーム」


「うええ?やっちゃったなぁ初期のお金全部つぎ込んで買ったのに…こりゃあ辞めるしかないのかなぁ…」


 僕がそういうと、プリーストの彼女はハッとして、僕の肩に手を置いた。

 そして振り返った僕に、彼女は真剣な表情で言った。


「とりあえず、脱いで下さい!」


「………え゛?」






 再び袖を通すと、ピッタリだった。

 なんか肩とか出てるし、スカートも短くなって、くのいちみたいになってて恥ずかしいけど

 でも、さっきまでのような色々見えてる有様よりは、これはちゃんとした服だった。


「あ、ありがとぅ」


「こんなこともあろうかと、平民ノービス時代に裁縫スキルあげといて良かったです」


 自慢げにフンスと鼻を鳴らしながら、彼女は使い終わった裁縫セットをアイテムボックスに仕舞った。


「…この世界はね」

「……ん?」


 彼女は祈るように手を合わせながら、目を閉じて語り始めた。

 僕の目には、木陰に延びる日差しにが揺れるカーテンのように照らす彼女の姿がとても神聖なものに見えた。

 まだ幼いのに、衣装も相まって彼女はまるで本物の聖女のようだった。


「この世界は、楽しめば楽しむほど…こんな小さな絆が繋がっていくんです

まるで神様に祝福されるように、絆が巡って…その絆がさらなる絆と幸せを運んでくる…そんな世界なんです」


「絆…?」


「私と貴女もきっと…あなたにとって初めての絆だから、それを棄てるようなこと、しないでください…」


「……」


 小さくふるえる彼女のては、何の不安を表しているのか…それは今の僕にはわからないだろう。

 でも、彼女は僕にもっとこの世界にいてほしいと…そう、必死に頼んできているのだけは判った。

 僕に、この世界をもっとよく知ってほしいと…そう言ってるのが……

 僕は、彼女の頭を優しくなでた。


「わかったよ…辞めたりしないよ」


「……ふぇ」


 彼女は涙目をこっちにむけながら、驚きの声を上げた。

 僕にではなく、自分自身に…


「あ、あれれっ…なんで、わたし、泣いて…ふぇぇっ」


「…ふふふっ」


 あわてて涙を拭う彼女に、僕は思わず吹き出して…それでもっと彼女の頭をなでながらこの世界での私の名前を名乗った。


「イリマ…ぼ…わたし、イリマって言うんだ。君は?」


「ふぇぅ……スイ…スイです」


 落ち着いた彼女…スイは、まだちょっと潤んだ瞳で私を見上げた。


「おともだちに…私の、おともだちになってくれますか?」

 彼女の問いに、私は微笑んで返した。

「こちらこそ…喜んで!」


 こうして、僕とスイはサカキをおいてこの世界で初めての友達になった…

 いま思うと、本当にこの出会いが…今のフヨウとイリマに続く最初はじまりの絆だったのかもしれない………

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