表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/13

第九幕:イリマとフヨウ、ヨシノを停める

 意識を失った私は、柳生のホームベースで目を覚ました。 すぐ目に入ったのは、こちらを覗き込む真剣な目…

 ……はれ?染井さん?


「イリマ、大事ないか?」


 ……ふぁ? ……ふぁ!?


「ふぁぎょあ?!」


「む?」


 奇妙な悲鳴を上げる私にヨシノは首を傾げた。

 私は何故か布団を羽織ったまま部屋の端に非難した。


「どうした?何処かおかしいのか?」


「おぉおおかしいもにゃにも!!どうしてヨシノが私の部屋に居るんよ!!」


「あらぁ、私が許可したのよん?」


 ふすまを開けてヤナギが入ってきた。

「感謝しないとよ?すかさず抱えてどこかに寝かせるように指示したのは彼なんだからねぇ?」


「え……ぁ、ぁぅ…ありがとう」


 看病してくれてたのか…それは逆にこっちが悪いことしちゃったかな……?

 縮こまって頭を下げる。


「構わんさ、思ったより軽かったしな」


「ぅぅ、抱っこされたんか……」


 何でこんな男らしくてカッコいいんだコイツはぁ、これでネナベなんだから信じられないよ……って


「……っっっ!!!!」

「どうした?」


「イリマちゃん?」


 急にはっとした私に、ヤナギとヨシノは心配そうに声をかける。


「す、すぐ戻ります!!」


 私はあわててその場からログアウトした。






 ぷるるるるる、ぷるるるるる……

 感覚分けの体操をするのも忘れて、私…いや僕は染井さんに電話をかけていた。


「出てっ……出てっ……っ!!」


『染井です、只今電話に出ることが出来ません。発信音の後にメッセージを送っ』


 切った。

 視界がぐるぐる回る、頭もぐるぐる、心もぐるぐる……


「な、なんてこった……まさか、まさか…!!」


 染井さんが、ヨシノ!?

 しかも、イリマにも惚れてるって!?

 確かに似てるとは思ってたけど…いやいやいや、まだ早い、決めるにはまだ早い!!

 もう真夜中だし電話に出ないのは当然というかこんな時間にかける僕のほうがおかしいわけで!!

 デートだって、たまたま日にちが同じってだけかもしれないじゃないか!!


「って、そうだ!!……接続アクセス!!」


 マズい、ヨシノはまだギルドに居るだろうか!?

 早く会って、どうにかして確認をとらないと!!






「では……イリマも、私のことを!?」


「いやぁ~本人はそうとは言ってないけどねぇ、あの初々しい反応見れば誰でも解るわよねぇ……」


「……」


 ……布団から出られません。

 ログインしたら、ヤナギがなんか有ること無いこと話してました。

 なんだこれなんだこれ…いやいやいや、これはマズい。

 なんかヨシノも顔真っ赤にして固まってるし、ヤナギはなんかテンション上がってるし!!

 あんた私は誰にも渡さないとかサカキに言ってたじゃないか!!?


「そうか……そうとは知らず、私はよくもずけずけと……」


多分、気絶したのはヨシノの気持ちにびっくりしたからだと思ってるな……いやびっくりしたけどっ。「いやぁ、イリマちゃんとはもう二年のつきあいになるけどね。あの子潔癖症というか、男を寄せ付けないところがあるから…ちょっと心配でねぇ」


 潔癖症でなく本当に興味なかっただけだから!!いや今でもそうだから、そうだよね!?

 ……ヨシノはネナベだし……良いんだよね?


「ヨシノと初めて会って逃げ帰っちゃった時は心配したけど、あれからあの子オフには顔を出してくれるし、ヨシノと阿修羅蜘蛛を討伐したクエの帰りには……本当に、恋する女の子の顔だったわ」


 ややや、やめてぇーっ!!

 布団の中で顔を埋めてる枕が解りやすいくらい熱いいい!!!!

 必死に声を出さないように布団の中で悶えていると、急にヤナギは真剣な声で…ヨシノに言った。


「……ねぇ、本当に戦神楽辞めちゃうの?」


「……」


 ヨシノは、未だ赤い顔で口をつぐんだ。


「私は……愛する人を裏切ることは出来ない」


 ……っ!!


 ヨシノも染井さんも、正直過ぎる。

 私はもう、何も言えない……何かいったら、私はどっちも裏切ることになるんじゃないか……そう思うから。


「……っ」


 ……でも。


「……や、め」


 でも!!

 このままじゃ二年前のままだ!!!!


「辞めへんでよ!!!!」


 布団から飛び出して、私はいつの間にか叫んでいた。


「い、イリマちゃん!?」


「だ、大丈夫なのか?」


 驚いた二人は固まっている、私もそうしたいけど……それよりも先に、考えるより先に私は口を動かしたかった。


「裏切りなんて、誰も思わへんよ……私やって、リアルに好きな人くらい居るんや」


 私の言ったことに、ヤナギとヨシノは心底意外そうな顔をする。

 恥ずかしいけど、言わなきゃいけない……ヨシノの正体が染井さんだったらなおのことだ!

 ヨシノにはまだこの世界を辞めてほしくない!!


「ヨシノさん!!」


 そのとき私は、きっと咄嗟に良いことを思いついた気でいたのだろう。

 ヨシノの正体も聞き出せるし、自分の気持ちにも整理がつくと。

 だから……私はヨシノに歩み寄って、彼の手をつかみ上げた。


「……ヨシノさん!!デートしよ!!!!」


 私がヨシノにそう言うと、前一日の夜が明けて、後一日の光明が室内に射していた。






 海、まだ時期尚早と言う人もいるだろうが、あいにく此処はファンタジーの世界だ。

 赤い屋根に白亜の壁を持つ琉球建築と西洋建築が融合したような町並みが、海に向かって滑るように緩やかな坂に並び建って蒼い空と海を彩っている。

 此処は常夏の海に面した観光海遊國『瑠璃江るりえ』。

 ゲーム準最強クラスモンスター『海の守護者』を國主としている戦国時代のヒモロギ列島には珍しい不可侵の中立地帯で、各國に対しても空間孔をオープンしている一種の観光地。

 そして、今此処は……



「……」


「……」


 右もカップル、左もカップル、國を挙げて、縁結びのお祭り真っ最中。


 ていうか、焦ってたからってヤナギにデートのオススメスポット訊いたのがそもそも間違いだった……かも。

 ポロリと自らの軽はずみな行動に情けなくなって涙を流していると、ヨシノのが急に口を開いた。


「イリマ……」


「わひゃっ!? な、なんでしょぉか?!」


いきなり肩にポンと手を置かれ、反射的に私はビクッと肩を跳ねあがらせてしまった。


「す、すまん」


「あ、あぁぁええんよ? えへへ、こっちこそビクつき過ぎやんな?」


「そうか……」


なんとかから笑いでしのいだ……看板娘としての人付き合いスキルに救われてしまった気がして、自分で自分が情けない気分になる。

そもそもヨシノが本当に染井さんか、私自身確信はしてるけど証拠は何もないんだ。

もし、違ったら……いや、そんな事今は関係ない!!

確証がないなら、確証を得て……そして……そして……


「私……どうするつもりなんやろ……?」


 っだぁぁぁぁ……一気に肩の荷が重くなったような気がする。

 考えないようにしてたのに…


「イリマ」


「はひっ!!?」


ヨシノは今度は肩に手をふれずに、いつの間にか正面から私の顔をのぞき込んできていた。


「……やはり、イリマも戸惑っているのか」


「え、えぇお恥ずかしながら……」


 ヨシノは、自嘲するような笑みを交えて語りながら踵を返した。


「そうだろうな、折角好いた相手が女だったんだ。ましてそんな女に好かれているとさえいると言われて……この提案も、焦った末に勢いで出たようなものなんだろう?」


 ぐ、狼狽えた理由以外はバレてる……


「デートをしたところで、今更そういった関係になれる筈もない」


「……っ、そんなこと」


「ない、と言うつもりか?」


言い返そうとしたところで、ヨシノは歩きながらも切れ長の目をこちらに向けて遮るように言った。

一瞬気圧されるけど、こらえて私は言葉を絞り出す。


「私やって、リアルに好きな人はおる……私も、その人と漸くまともに向き合って付き合えそうなんや」


「ならば何故……」


「切欠は貴方やからや、ヨシノ」


 その言葉を聞いたヨシノは、立ち止まった。


「私は、私はその人に見合わないと心のどこかで思うとった!」


一歩。


「でも、貴方に出会ったから私は自分を見直す切欠を貰った!」


一歩、ヨシノの背中に近づく。


「私は……自分でその人に好きと、ようやく言えたんや!」


ヨシノは、目を見開きながらこちらに振り向いた。


「イリマ……お前……」


「それに……私も、やから……」


 気がおかしくなりそうなくらい、心臓がバクバクと暴れている。

でも、いわなきゃ……言わなきゃいけないんだ。

ヨシノにだけ、惨めな思いはさせちゃだめだ!


「私も……ね、ネカ……」




「キャアアァァァ!!」




 言い掛けた言葉を、悲鳴が遮った。



「……なんやねんもおおぉぉぉぉ‼」



「何だアレ!! イカだぁぁぁデカいイカのモンスターが出たぞぉぉぉ!!」


 カップルの一組から発された警報に、街道を往く人々が蜘蛛の子を散らすように逃げ始めた。

 私たちの周りも含め、辺りは一気にパニック状態になってしまった。


「な、なんやこれ!?なんかのイベントかいな!? あわっ、はわわわわっ!?」


「っく、先がまるで見えん……イリマ!!」

 気がつけばいつの間にか人の荒波にもまれてヨシノが遠くに…いや、私が遠くに流されてしまおうとしている。

 やば……このままだと、こんな所ではぐれたら折角のデートが……何も言えないで終わる!!


「ヨシノぉ!!」


 ヨシノに伸ばした手を、別の何かが横からつかみ取った。

 ……いや、縛り上げた。

 そして私は、まるで一本釣りよろしくそれに力いっぱい引っ張り上げられた。


「……へ?にゃああぁぁぁぁっ!?」


 情けない悲鳴を上げたのは、引っ張り上げる勢いもさることながら腕を掴むそれがごく最近地獄の責め苦を味わったあの釣り舐めのようなぬるぬるした何かだったからだ。

 いや、それはまさしく触手だった。

 根本に目をやると、それは殆ど白くヌメった薄紫の巨大な烏賊だった。

 軽く建物を包み込めるデカさで、それが明らかにただの烏賊じゃない事はわかる。

 ただ、何のつもりかエラは海賊の帽子みたいに黒く染まりドクロマークをつけていて、片目にも黒い眼帯を巻いている。

 確かこいつは『海賊烏賊』……子分を含めた集団で異国にわたろうとする船を襲いに来る番人モンスターだったはず……何でこんな所に!?

 そう思った矢先に触手はぐるりと私の胴回りを巻いて、中空の私はなす術なくその眼前に連れてこられる。


(た、食べられる!?いや、ここでリスポンした方がヨシノには早く合流できるか……)


 そう思って、怪獣映画よろしく最悪な末路を覚悟して目を瞑ったその時。

 ぬろぁんとしたおぞましい感覚が足の先から脊髄を通って脳天まで駆け抜けた。


「……っひぃ!?っあ、え!?」


 全身に鳥肌を立たせながら目を開くと、烏賊の目がさっきより間近に迫っていた。

 水棲生物のくせに、なぜか聞こえる『ぶふぁー、ぶふぁー』という荒い息……本来意志疎通なんか不可能の筈の眼が、何故かにやけていると判るようなゆがみ方をしていた。


『うじゅるるるるぅ……れべる……たかい、オンナぁ……うろろろぉ』


 最悪……と言ったのを訂正する。

 もっと最悪の結末があったと、熱を帯びた触手にお尻を撫で回されながら気がついた。


『安産型だぁぁぁぁ……♪』


 ぞっわぁぁぁぁぁ……!!


「いっ……いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!!??」

次回:イリマとヨシノ、ラブコメる

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ