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プロローグ:イリマとフヨウ

苔生した岩が乱立する瓦礫の舞台に、少女は黒い刀を手に現れた。

流れるような薄香色の髪に紫紺色の戦装束、美しいとも可愛らしいとも取れる顔立ちの少女は懐へと手を忍ばせて内容を確認する。


「回復札も残りわずか、か…ちょお飛ばしすぎてもうたかな…?」


やがて少女はその愛らしくも美しい顔立ちに、さらに凛々しさを持たせるような視線を舞台の奥へと投げかける。

すると瓦礫の舞台の中央に少女のおよそ4倍もの高さを持ち、なおかつ重圧を持たない場違いな黒い正方形が出現した。

黒い正方形はブゥンと電子的な音声を鳴らしながら荒削りしていくように崩れながら形を変え

やがて人の形になったかと思えばさらにその周囲に情報の粒子が色のついた雪のように降り積もりソリッドな情報の骨組みに過ぎないそれ(・・)に滑らかさと重圧を持たせていく。

やがてこの瓦礫舞台の守護者とも言えるそれ(・・)は無骨な巨鬼の姿をとって生命を吹き込まれたかのようにその巨躯を揺らした。


「お出ましやな、悪いけど経験地の足しにさせてもらうで」


『GAHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!!!!』


少女が巨鬼を指差し挑発するようにそう言うと、巨鬼は受けてたつとでも言わんばかりに巨鬼の身の丈もあろう巨大な鉈をその手に召還して咆哮をあげた。

少女は身を前に乗り出して駆け出し、巨鬼の後ろを取ろうとするが

巨鬼はその巨躯からは想像もつかないような速さで振り返り後ろを取られるのを避けようとする。


「うぉっとと、そう簡単に後ろさらしてくれへんか!」


おどけるように笑った少女に怒りを覚えたのか、巨鬼はその尋常ではない膂力を生かして鉈を少女の居る場所へと振り下ろした。


ゴガァン!!!!と、轟音とともに爆発的な土煙が上がる。


やがて土煙が晴れると鉈は深く地面を抉り苔生した瓦礫が放射状に吹き飛んでいた。

その場に少女の姿は・・・ない。


「ナイス足場や♪」


余裕を感じさせる言葉が巨鬼に投げかけられる。

少女はいつの間にか地面に埋まる鉈を持つ巨鬼の手の上に踏み込んでいた。


『!!!!!!!!!!!!』「ほぁ!!」


まるで蚊をたたくかのような動作で巨鬼は鉈を持っていない左手で右腕を叩くが、少女は軽々とそれをよけて巨鬼の腕を駆け上る。


「失礼な(やっちゃ)ぁなぁ!!」


右肩まで上ったところでダン!!と跳躍しがむしゃらに振り回される巨鬼の左手を飛び越える。

そして少女は軽く刀を持たない手で刀の刀身に何かを書き込んでいく。

そのままくるりと空中一回転してガゴ!!と遠心力のかかった踵を巨鬼の頭に一撃!!

すると、巨鬼の頭の動きに合わせるように、巨鬼の頭上に沿って動く一本のラインが少女の目に映る。

微かに減ったそれは巨鬼の残るHP(生命力)を示すライフバーである。

ふらつく巨鬼の角へ黒い刀を薙いで二撃!!急所であったのか今度は巨鬼のライフバーが半分ほど削れた!!

黒い刀の切れ味は鋭く、まっ平らに切れてしまった角に両手を向ける巨鬼の脳天めがけて少女は器用に刀を振りかぶる。

刀身に呪文が光りそれを着火剤として刀身が赤い炎に包まれる。


「やぁぁぁ嗚呼ああああああ!!!」


一閃、掛け声と共に少女の炎の一閃が巨鬼の正中線に刻まれた。

エンチャントブレイド、南蛮渡来の魔法で刀剣を強化する戦闘技術こそ少女の最も得意とする戦闘スタイルだ。

しかし巨鬼はいまだ倒れず、しかしライフバーは大きく減少している。

そして地面に着地した少女の後ろから、さらに3撃4撃と次々に巨鬼の正中線に燃える炎目がけて日本刀や弾丸が炸裂する。

今度こそ巨鬼は断末魔の悲鳴を上げ、体中に燃え移った炎に焼かれるように消滅していった。

すると身を隠していたのか瓦礫の影から如何にも洋風といった軽装で、所謂エルフ耳と呼ばれる耳をした女性と

物々しい大砲のような銃を持った足軽風の男が、少女に話しかける。


「な~いす配分イリマちゃん♪」


「やはは、途中ノってもうて危うく倒してまうとこやったけどなw」


「このペースなら来月の戦に間に合うのも夢じゃないぜ、イリマたんが居てくれて助かったぜ

お!レアドロップじゃないかアレ?」


巨鬼――ボス――の討伐における経験値の配給は一撃でもボスに攻撃を命中させた者に等量宛がわれるシステムである。

イリマと呼ばれた少女に礼を言うや否や、足軽風の男は巨鬼が居た場所に転がる黒いデータ塊を見つけ

我先にと駆け寄ろうとしたところ、首根っこを女性に掴まれ制止される。


「待った、イリマちゃんが倒したんだからこれはイリマちゃんの、でしょ?サカキくん?」


「あだだだ!見るだけ!!見ようとしただけだってヤナギ!!」


「アハハ、ほなお言葉に甘えてちょお拝見させてもらいますな…」


首根っこをヤナギと呼ばれた女性にギリギリと握りしめられる痛みで悲鳴を上げる(サカキ)――この世界には一定以上の痛みは感じられないように設定されているのだが――を背に

イリマは苦笑しながらデータ塊に手を触れてアイテムデータとして圧縮された物理情報を解凍する。

一瞬の閃光の後、イリマの手には何も書かれていない手のひらほどの長方形の紙切れへと変貌する。


「…?なんやろこれ?」


「回復の魔術符?」


「でも、何も書かれてないぜ?……なんだこりゃ、レア度27ァ!?殆ど仕様外アイテムじゃねぇか!」


うわぁ、と三人の顔色が重くなる。

何故かと言えば男…サカキは『鑑定』のスキルをそれなりに高く持っている。

彼の高い鑑定スキルでも特定できるアイテムでもないとなると、逆に知名度が少なすぎてそこいらの行商人に聞いても使い方が分からないどころか価格さえも付いていない可能性が大なのだ。

しかしボスキャラが落としたレアドロップともなればいずれとんでもない価格がついたり使い道が分かることもあるかもしれないから捨てられもしない

つまり、彼でさえ鑑定に値を上げる品というのは殆ど使用法もわからない、『捨てることのできないゴミ』も同然の物だったのである。


「あらあらぁ…」


「ま、まぁ大丈夫やよ。装備欄はまだまだ空きあるし、皆に高い経験値あげられただけでも私は満足なんよ」


残念そうに溜息をつくサカキに、イリマはフォローを入れる。


「あぁ、イリマたんは優しいなぁ…流石は俺の嫁ひでぶ!!」


「あらあら、イリマちゃんは私の嫁よ♪」


さりげなくイリマに俺の嫁発言したサカキにヤナギはすかさずボディーブローを入れた。

当の本人であるイリマは困ったように苦笑する。


「アハハ…悪いけれど私は誰の嫁にもならへんよー?」


「え~?」「ま、そうだろうけどな~…」


まるで「それもそうか」とでも言うように後ろ頭に腕を組むサカキに、ヤナギが振り返って問おうとする前に

紙切れを懐に仕舞ったイリマは手を挙げて瓦礫の舞台を走りだした。


「さ、さぁ~!!最深部にも宝箱があるんよ!!はよ行こ!!」


「えぇっ!?もう、待ってイリマちゃぁ~ん!」


「おっとイケね、じゃあ早く行こうかねぇw」


そうして三人はその場を去って行った。









急速に進化したVR技術ヴァーチャルリアリティによって仮想空間に作られたもう一つの日本…ヒモロギ列島。


常に幾つもの国がこの舞台の覇権を握ろうと戦を繰り返し、そして領土を奪い合う戦国時代の最中


南蛮から渡来する魔法やモンスターを糧とし、そして倒しながら人々(PC)は各々己を磨き合い迫る戦に備えていた。



戦神楽Onlineいくさかぐらオンライン…今や日本どころか世界中に根強い人気を誇るVRDMMORPGの超人気タイトルである。











そして…


「んっ…ふあぁあ…もう朝か、相変わらず寝た気がしないや」


長屋、と呼べる簡素なアパートの一室で布団から起き上がる青年が僕だ。

頭に付けたヘッドギア、これが戦神楽Onlineの世界を見せていた最新のVRD(ヴァーチャルリアリズムドリーム)機器、R.P.G.R.(レプギア)

といってもこのレプギアを買ってもう二年になる、流石にこまめにバージョンアップをしているし

医療用や事務用と言った専門のレプギアも開発されている今日に至ってはもう最新ではないのかもしれないが…


「さぁって、今日も学校だ。」


背伸びをし、おいっちにーさんし…とラジオ体操をまねたジジ臭い運動をする。これでも朝のウォーミングアップには丁度いいのだ。

『この体としての感覚』を思い出すためにも、こうしてこまめに運動している。

僕の夢での姿はイリマであり、70レベルにまで鍛え上げられた魔法剣士の少女で。

そして僕、(あおい)フヨウは…20歳で大学に通う、ごく普通の大学生…男である。




そう、誠に遺憾ながら僕は…2年間にわたりVRMMO世界でネカマをやっている。

これはそんな僕の受難の日々を書き綴ったものである。



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