新年の鐘の音を聴きながら
あけましておめでとうございます。
目にとめていただきどうもありがとうございます!
新年ということで年越しの話を書いてみました。よろしくお願いいたします。
悪い人は出てきません。
「アイル様、少しだけでも、だめでしょうか?」
マリアは婚約予定のアイルにそう訊いた。でも彼の答えは『ダメ』の一言だった。
10日たてば年越しだし、年越しの晩にはどこの街でも屋台が並ぶし、教会では夜通しお祈りが続き、多くの人が年越しから新年にかけての挨拶を楽しみにしている。
魔法で打ち上げられる花火が見たくて、小さい子も頑張って起きていようとするが、途中で寝てしまい、新年の朝に悔しい思いをする、そんなことも風物詩のひとつだ。
マリアは田舎の男爵家で育ったので、そんな年越しの晩を楽しみにしていた。よく訪問する教会と孤児院に差し入れを持って行って、シスターたちとお祈りをして、花火を喜び、新年の挨拶を交わす。それが夜中まで起きていられるようになった13歳から17歳までのマリアの過ごし方だった。
でも18歳になってマリアに結婚の申込みをした都会の伯爵家のアイルは綺麗な金髪をファサファサと振り、紫色の瞳に呆れの色をのせて、
「夜中に出て歩くなんて、そんな危険なことを許せるはずがないだろう?」
と取り付く島もない。
「でも、支援している教会と孤児院に新年用の焼き菓子やご馳走を…」
「それは使用人に持って行かせれば良い。君はもう伯爵家に嫁入りをすることになっているんだ。夜中に出歩くなんてことは許可できないよ」
アイルの言う事はマリアにも理解できる。でも、だったらアイルが護衛と一緒にマリアに着いてきてくれるとか、年越しは無理でも夜にお祈りだけでも、とか、マリアはお願いしたのだったが、それらは全て却下された。
なぜならマリアは伯爵家に嫁入りするから。伯爵家の嫁は夜に出歩くなんてことはしないから。
でも、とマリアは思う。
同じ伯爵家でも友人のリリアが去年結婚したグラント家では、マリアの家と同じように年越しを教会や街の人達と過ごしたという。だから『伯爵家では』というのはアイルの言い分で、本当は『アイルの家では』ということなのだろう。
「…」
「ええと…不満なのかな?そりゃあまだ僕と君は結婚はしていないけれど、来年はそうなる。なら今から伯爵家の伝統に合わせてほしいというのはそんなにも無理なことだろうか。
君のためを思っているのだけど…そんな顔をされるとちょっと悲しいよ」
そんなふうに言われ、マリアはアイルの部屋を出た。今日は年越しの話のためにわざわざ馬車に3時間も乗ってアイルの家まで来たのだ。
アイルのご両親に挨拶をして、帰りの馬車に向かったマリアは思った。ご両親は
「もっとゆっくりしていけば良いのに」
と言ってくれたが、マリアが年越しのために領地の教会や庁舎で大掃除があり自分にも役割があるのだと説明すると、驚いた様子で『まあ今年が最後になるだろうから頑張って』と見送ってくれた。
今年が最後と言われて軽く衝撃を受けたマリアは、馬車の中で自分のこの先の人生について考えた。
「まだ結婚も、いえ、婚約もしていないのに、こんなことってあるかしら」
婚約は年越しの後の2月、そして結婚式は今から約1年後の11月だ。そんな先の結婚を理由に今年の年越しのお祈りやらを制限されるなんて、マリアは思ってもみなかった。
こうしたことが、これから先ずっと続くのだろう。
小さなものから大きなものまで。
そもそも年越しのことも、12月に入って『今月は行事が多くて楽しみね』という会話に出てきたもので、まさかこんなにも反対されることになるなんて思っていなかったので軽い気持ちで毎年の話をしたのだ。
そうしたらアイルが不機嫌になった。夜中に令嬢が、それも僕の妻になる人が出歩くなんて、と。
アイルがマリアを見初めたのは彼が都会から遠く離れたマリアの住むグリーンウッド男爵領に避暑に来た時だった。
馬車で3時間かけて到着したグリーンウッドでアイルが見たのはハーフアップにした濃いブラウンのクルクルとした髪を揺らしながら農場の子どもたちと元気に笑いながらチーズを試食するマリアだった。
赤魔法が得意で炎を扱う、常に緊張感を伴って生きるアイルにとって、そのおおらかで朗らかな姿は輝いて見えた。
マリアはと言えば、明らかに良い仕立ての服を着て自分を驚いたように見つめるアイルに気付き、恥ずかしくなってその緑色の瞳を伏せた。口の中のチーズをムグムグと噛んでコクリと飲み込んだ。
アイルに地元の特産品やオススメを訊かれて、いつもは街なかの屋敷に住んでいるマリアも一生懸命に答え、良かったら、と、まだ遠くへは出回っていない地鶏の串焼きを紹介した。
ここでマリアが領主の次女であることがわかり、アイルはすっかりマリアを気に入ってトントン拍子に婚約の話が進んだのだ。
「君のように自然に笑う、明るく元気な子を見ていると、僕の心は洗われるようだ」
そう言ってくれたのに、5ヶ月経った今、アイルはマリアに伯爵家の嫁としての振る舞いばかりを求める。
アイルとっては女性は淑やかで男性をたてるものなのかもしれない。けれどもマリアの生きてきた土地ではそうではなかった。
誰もが力を合わせて土を耕し、植物を育てる。動物たちや実りに感謝しながら命をいただく。マリアは領主の娘として、あちこちに出かけ、人々の話を聞き、末娘ながらもより良い領地のために、人々のためにできることを考え、実行してきた。
マリアの使える魔法は緑魔法で植物を育てるのに向いていた。間引きをしなくても発芽が保障されるので無駄になる種はないし、丈夫な苗に育つので結果的に作物も良いものがたくさん収穫できた。
そしてマリアは単に魔法で植物の生長を促すだけではなく、どの作物をどこに植えれば良いのか、適した場所や土壌について、また水遣りや機構について、たくさん学んだ。実際に方々の農場に行った。
そんな行動力のある、強く明るいマリアに惹かれたはずだったのに、今のアイルの目には、マリアの行動がやや自由すぎるように映った。
「行動力があるところは君の長所だけれど、もう少し落ち着いてほしいよ。心配でたまらないんだ」
「ドレスはこちらで流行しているものを準備しておくから、来る時に服は持って来なくていいよ。君の持っているものも悪くはないけれどね」
「伯爵家に嫁いだら、社交界ではそれなりにリーダー性が求められる。話題やファッションについて、少し学んでもらえると嬉しい」
それらはもっともなことだったし、アイルに悪気はなかった。でも、マリアにも言い分があった。
「…結局、私とアイル様って…合わないのではないかしら…」
それがマリアの出した答えだった。
マリアは男爵家に着くと父親に自分の考えを伝えた。即ち、自分は都会の伯爵家の嫁にはふさわしくないと。
男爵家から伯爵家に打診したところ、伯爵家でも少なからず話題になっていたということで、婚約の予定も円満に解消となった。
そして年越しの夜。
マリアは使用人たちとともに領地の屋台に顔を見せ、教会に差し入れをたくさん運び、年越しの瞬間を多くの領民たちとともに迎えた。
響き渡る新年の鐘を聴きながら、マリアは少しばかりの痛みと、これからの自分の人生への期待を胸に感じた。
その顔は希望に溢れていた。
お読みくださりどうもありがとうございました。
お正月に読んでいただけていて嬉しいです!ぜひ評価もお願いいたします。
価値観というものは人によって違う。それだけだといつも思っています。
そういう話を書いていきたいです。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。




